第24話 濡れ透けですよこれ!

 俺が白百合さんにキスをせがまれて困惑していた頃、そのやり取りを静かに眺めていたメイドの芽依さんが突然、話に入ってきた。



「お嬢様、大変申し訳ありませんが、お嬢様様の既に心拍数が限界値を迎えていますので、本日の会話はここで終了とさせていただきます」


「そ、そんな! わたくし、この瞬間を十年も夢見ていたのですよ……?」


「……現地点で、心拍数のメーターは既にギリギリです。もしキスなんてしたら、雑魚のお嬢様では間違いなく耐えられません。ですからあと一ヶ月程度は肉体接触を避けて、会話だけでゆっくりと男性経験値を積んでください」


「で、ですが、今までは自由にアプローチをかけることを許してくれていたではありませんか!」


「その結果、ここまで何度限界に達したのかを覚えておいででしょうか? 流石にもう許容できません、諦めてください」



 そんな会話の後で白百合さんは、メイドさんに背中を押されて、足を前に進まされ始める。


 そして、慌てた様子の白百合さんは俺に向かって一言。



「晴様っ! また明日、お会いいたしましょう!」



 とだけ言って、そのままメイドさんに連行されていった。



(……じゃあ、出口でルリ姉が来るのを待つか)



 そうして俺は靴箱へと向かい、ルリ姉が来るのを待つ事にした。


 そして、既にルリ姉は到着していて、目があった瞬間、俺の元へと駆け寄ってきた。



「ハルくん! よかった、一緒に帰りましょ?」



 彼女はそう言いながら靴を履いた後で、俺と腕を組んでくる。



「あ、腕は組むんだね」


「もちろん! それとも……やっぱり、わたしとするのは嫌?」


「……や、嫌じゃないよ」



 そうして、ルリ姉の笑顔が失われるのは心が痛いので素直に受け入れる事にして、学校を出た。


 そして腕を組んだまま、自宅方向へと道を歩く。


 するとその道中、なんだか見覚えのある猫が目の前に現れた。



(なんかこの猫、どっかで見た事あるな……思い出した、ルリ姉のパンツ見た時だ……って、思い出すなよ俺、歩けなくなっちゃうだろ……ああっ、なっちゃった……)



 でも、ルリ姉は猫を撫でていくはずだから、一旦ここで立ち止まって休憩できるはずだ。その隙に下半身の暴れ龍には落ち着いてもらおう。


 しかし、その予想と裏腹にルリ姉は俺と猫を交互に見ながら、なんだか悩んでいるような様子を見せていた。


 そんな彼女に対して俺は、彼女に問いかける。



「えっと、今日は撫でなくていいの?」


「……えっと、今腕を離しても、もう一度組んでくれる?」



 ……可愛いなこの人。


 向こうは俺のことを家族としか思ってないって事は理解してるはずなのに、好きになっちゃいそう。


 はやく返事をしよう、俺が正気が保てるうちに。



「いいよ」


「ありがとう……! それじゃあ猫ちゃん、撫でさせてくれる?」



 そうして彼女は俺から離れると猫へと向かい、姿勢を猫に合わせるようにしゃがみ込んで、頭を撫で始めた。


 そして、そんなルリ姉の事を見ていると俺の中の下心が勝手に顔を出してきて、視線はどうしても彼女のスカートの方へと向かってしまう。


 しかし彼女は、きっちりとスカートを抑えていた。



(これは残念……じゃなくて、スカートの防御力が上がってて安心だ。うん)



 なんて、自分の中の変態性と格闘しているとルリは俺の視線に気づいたようで、俺の方に顔を上げて話しかけてきた。



「……ハルくん、その、そんなに見つめられてると、ちょっと恥ずかしいな」


「あ、いや、その、ごめん」


「ううん、前の事もあるし心配してくれていたんでしょう? もう大丈夫よ。もうハルくんの前でも油断しないから、安心してね」


「……そっか、それは安心だね。うん」



 そんな会話をしながら俺は、ルリ姉に変態扱いされなかった事に安心していた。


 そうして不安もなくなったので、俺も一緒に猫を撫でようと近づいてみる。


 すると、猫はゆっくりと立ち上がって、少し遠くにある民家の下へと移動してしまった。



「猫、もしかして俺のこと嫌いか……?」


「えっと、わたしはハルくんの事、好きだよ?」


「……ありがとう、嬉しいよ」



 そうして俺が、野生動物の厳しさとルリ姉の優しさに同時に触れていた時、ポツポツと小雨が降ってきた。


 そして、それを受けてルリ姉は、よどんだ雲が浮かぶ空を見上げながら呟く。



「あら……雨?」


「降ってきたみたいだね、猫も雨宿りする為に離れたのかな。とにかく、早く帰ろうか」



 そんな会話をしている最中も、猫は遠くから俺たちのことを『お前ら早く帰んなくていいの?』と言わんばかりの表情で見つめていた。


 そして、俺とルリ姉は腕を組み直す余裕もなく、小走りで歩みを進め始める。


 しかし、どんどん雨足は強くなる一方で、湿っている程度だった制服も本格的に濡れ始めてしまっていた。



(これは本格的に降ってきたな……)



 俺はそんな事を考えつつ、ふとルリ姉の方を確認する。


 すると、水色に白い刺繍が入った、シンプルかつ清楚なデザインの下着が、制服のシャツ越しに透けてしまっている事に気がついてしまった。



(うぉっ、ブラ透けてる……いや、意識するな! 今ここで歩きにくくなるのは非常にマズイ……!)



 そうして俺は、下半身へと現状維持の指令を出して、足を早める。


 そして結局、びしょ濡れになりながらも、俺たち二人は家へとたどり着いた。



 〜自宅〜



「おかえり二人とも、タオル持ってきたから使って」



 玄関の扉を開けると、そこには俺たちの帰りを待ってくれていた結衣が、二人分のタオルを用意して待っていてくれていた。


 そして俺は、結衣からタオルを受け取って頭や体を拭きつつ、ルリ姉に提案を投げかける。



「とりあえずルリ姉、風呂入ってきなよ」


「えっと、気持ちは嬉しいけど……でも、まずはハルくんが先に入って? 私は後でいいよ」


「いや、俺は大丈夫だよ。お先にどうぞ」



 そうして、お互いが譲り合っていると、ルリ姉から新たな案を提示された。



「じゃあ……一緒に入る?」


「いやいやいやいや、流石にそれは……」


「でも、昔は一緒に入ってたし、このままじゃ風邪ひいちゃうかも……ハルくんも恥ずかしいかもしれないけど、わたしも頑張って見ないようにするし、それなら二人であったまれるから……」



 俺からすれば当然、ルリ姉のそんな提案を受け入れるわけにはいかない。



(ルリ姉は俺のことを実の弟のように思ってるはず。でも、俺からすれば彼女は一人の女の子で、性的な目で見てしまう存在でもある)



 ルリ姉がその事を知ってしまったら傷ついてしまうかもしれないし、俺からしてもこの関係が崩れてしまう事は望まない。


 しかし、彼女の言うとおり、ここで話し合ったのが原因で体を冷やして風邪を引いてしまっては意味がないこともまた事実である。


 しょうがない、ここは一つ、勝負に出よう。



「ここで議論してもしょうがないから、じゃんけんで決着をつけよう。俺が勝ったらルリ姉が先にお風呂に入る、俺が負けたら一緒に入る。それでどう?」


「分かった。今回はわたし、負けないよ」



 そうして、真剣な表情を浮かべる彼女を見て俺は思った。


 ……罠にかかったな、と。



(このゲームには……必勝法がある。俺の勝ちだ、ルリ姉)



 そんな言葉を頭の中で呟いた俺は、口を開く。

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