第23話 そーれっ、キース! キース!
いつも通りに授業も進んで、お昼時。
俺が食堂に移動しようとした時、白百合さんが声をかけてきた。
「お昼ご飯の時間ですわね。共に食堂へと参りましょう、晴様」
「ああ……うん、行こうか」
そんな風に、もはや一緒に食事をとるのがさも当然のことであるかのように語りかけてくる彼女。
それに対して俺は特に断る理由もないので、無駄な抵抗はせずに受けいれて食堂へと向かう。
〜食堂〜
食堂に着いた後でルリ姉も合流し、俺は弁当箱を開く。
「ルリ姉、今日も弁当を作ってくれてありがとう。いただきます」
「ふふ、いっぱい食べてね」
ルリ姉が作ってくれた弁当から卵焼きを取り出して、一口食べる。
「そう言ってもらえて嬉しいわ。ハルくんに喜んでもらえると、もっと作りたくなっちゃうな」
「あ、いや、量は足りてるから。これ以上は食べきれないし、気持ちだけ受け取っておくね」
「そう? 遠慮しなくていいんだよ?」
ルリ姉の事だからここで明確に補足しておかないと、本当に増量しかねない。
なんなら、明日から弁当箱が二つになる可能性すらある。彼女はそういう人だ。
(……そういえばルリ姉ってせっかくいい人なのに、俺に構いすぎてるせいで恋愛とかできてないよな……? あんまり頼りすぎるのも良くないのか……?)
なんて俺が考えつつ卵焼きを食べ終えた頃、白百合さんがこほんと咳払いした後で俺に話しかけてきた。
「それでは晴様、わたくし、本日も貴方のためにお弁当を作ってまいりましたので、是非ご賞味ください。さあっ、口を開けてくださいませ……」
そんな事を言いながら俺に向けて、箸で摘んだ白身魚を差し出してくる白百合さん。
その一方で俺は、そんな彼女の瞳の奥に何かギラついたものを感じて一瞬身がすくんだものの、すぐに受け入れ態勢を整えて彼女の箸を受け入れる。
そして、黙っているのもなんだか怖いので、素直に感想を述べる事にした。
「うん。美味しいよ……やっぱり俺好みの味だし」
「うふふ……こうして晴様のお口に食べ物を入れていると、なんだか心の奥から込み上げてくるものがありますわ……きっとこれが、いわゆる『愛情』なのでしょうね」
それを聞いて俺は『いや、性欲だよ』なんて思ったものの、さすがに本人を前にしてそんな事は言えなかったので、白身魚と共にその感想も飲み込んだ。
そして、この流れにルリ姉も乗ってくる。
「あ、それじゃあわたしも……ハルくん、はい、あーん」
そうして俺は、ルリ姉のあーんだけを断るのも筋が通らないと考えて、再度口を開ける。
「……あーん」
「どう、美味しい?」
「美味しいよ」
「……ふふっ、今日のハルくん、なんだか昔に戻ったみたいで嬉しいわ」
「どういうこと?」
「わたしはずっとハルくんと腕を組んで歩きたかったし、あーんもしたかったのに、最近はあんまりこういう事をさせてくれなかったんだもの」
「まあ、もう高校生だしね……」
「でも、今日はさせてくれるんでしょう? だからすごく嬉しいの。はい、じゃあもう一回、あーんして?」
そう言われて俺は、この流れでルリ姉のあーんを断ったら彼女はとても悲しそうな顔をするだろうと考えてしまい、このまま受け入れる続けることしかできたくなってしまった。
そして、それを見ていた白百合さんが話に入ってくる。
「……晴様。ご家族との交流も大切な事だとは理解していますが、わたくしの事も構ってくださいませ……というわけで、はい、あーんですよ、晴様?」
それを受けて俺は、一度受け入れた手前で断る事もできず、周囲の視線の痛さや評判の下落などの全てを受け入れて、彼女達に差し出された箸を受け入れる。
そうして、二人に好き放題されながら、昼食の時間を過ごした。
〜放課後〜
昼食のあと、無事に一日も終わり、放課後となった。
そして、俺が家に帰ろうとした時、白百合さんに声をかけられた。
「さて晴様、共に帰りましょうか」
「それはいいけど……白百合さんって部活とか入らないの?」
「晴様が入るのであれば入りますわ。その際はぜひ、事前に教えてくださいませ?」
そう言いながら白百合さんは、今朝のように腕を組んでくる。
そして、そんな彼女を拒否しても意味はない事を今までの経験から察した俺は、校舎の外へと歩き出そうとした。
するとその瞬間、白百合さんに拉致された際に出会ったメイド服を着た女性……芽依さんが視界の端からにゅっと現れて、こちらに声をかけてきた。
「お嬢様、そして晴様。お話し中のところ、失礼いたします」
「あ……えっと、芽依さんですよね。何故学校にいるんですか?」
「お嬢様の警護です。メイドですから」
……メイドって警護する役なのか? それってボディーガードの仕事じゃない?
というか、高校にメイド服で入っても良いのだろうか……
なんて事を俺が考えていた頃、彼女は白百合さんに語りかける。
「お嬢様、大変申し訳ありませんが、お仕事の時間が迫っています。ですので、お迎えにあがりました」
「あら、そうですか……お仕事ならば、本日は急いで帰らねばならないですね」
そう言うと白百合さんは残念そうにしながら、俺と組んでいた腕を離した。
それを受けて俺は、普段は攻め攻めな彼女があっさりと腕を離したその行動に違和感を感じて、彼女に問いかける。
「えっと……確か白百合さんのお父さんって、警察の偉い人だったよね」
「ええ。ちなみに補足すると、晴様の義父でもありますわね」
「そんなことはないよ」
そんな風に、しれっとデマをながしつつニコニコ微笑む彼女に向けて俺は、本題に入る。
「それで、白百合さんって警察官じゃないよね、何を手伝うの?」
「日によって様々ではありますが……本日の内容はおそらく警察が押収した大量の偽札の処理だと思われます。わたくしは警察官ではありませんが、むしろそのお陰で色々とできることがあるのですよ?」
「なるほど……? でも、偽札の処理ってどうするの? 燃やすとか?」
「……ええ、まぁ、そんなところですわ」
……その反応、絶対に違くない?
(これ多分、没収した大量の偽札を、いわゆる『合法的なお金』に変えるんだよな……? 細かいことは分かんないけど、法律的に大丈夫なのか?)
……いや、これ以上は考えてはいけない。
世の中にはきっと、知らない方が良いこともあるはずだ。
そうして、俺が世界の闇に立ち入らない事を決めた時、白百合さんが俺の顔を覗き込んで語りかけてくる。
「……ところで、最後に一つだけお聞きしたいことがありますの。昨日のお昼頃、金髪の女性に接触していましたよね……どなたですか?」
「なんで知ってるの……?」
「うふふ……将来の妻として、いやらしいメス共から晴様を守らなくてはいけませんから」
……俺が聞きたかったのは、行動に移した理念ではなく具体的な手段だったのだが、彼女は出会った時からこんな感じだし気にしてもしょうがないのだろう。
なんにせよ、友人の恋人の生命を守る為にも、手早く答えよう。
「結論だけ言うと、最近できた結衣の友達だよ。あと、アリサの恋人でもあるから、俺と直接交流のある子じゃないよ」
「なるほど……それは一安心ですわ。ですが……わたくしの知らないところで他の女性と会話をしていたのは、なんだか寂しさを感じますわ」
そう言うと白百合さんは、上目遣いで俺に語りかけてくる。
「ですから晴様……寂しさによって生まれたこの心の穴を、晴様の愛で埋めていただけませんか……?」
「えっと、どうすればいいの……?」
「キス、してください……」
そういうと、彼女は俺の胸元に両手を置いて、ぐぐっと顔を近づけてきた。
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