第15話 知らない天井すぎるな……
翌日、目が覚めると俺は、何故か見覚えのない部屋の中にいた。
「……知らない天井だ」
思わずそう呟いてしまうほどに俺の視界には、あまりにも知らない天井が広がっていていた。
それを受けて俺は、周囲を確認するためにベットから体を起こしつつ辺りを見渡す。
そして、まずは視界の中にある景色を頭の中でまとめることにした。
(現状を整理すると、俺の服装は変わってなくて、ベッドも俺が普段使ってるやつと同じもの……その他には、俺の寝てたベッドの横にもう一つベッドが置いてあって、それ以外には家具はない。それに、そこそこ広さはあるけど壁紙のない真っ白な部屋で、窓と扉が一つずつある……って感じか)
これは、変な夢を見ている……もしくは、白百合さん辺りにでも拉致られたかのどちらかだろう。
そして、可能ならば前者であって欲しいものだが、恐らくは後者だ。
なぜなら、夢という根拠のない仮説とくらべて後者の仮説は、今日バイトをするという約束を白百合さんと交わしたという明確な根拠があるからだ。
「困ったなぁ。結衣のご飯は……まあ、結衣も簡単な料理くらいならできるから一日くらいは帰れなくてもいいとして、朝起きたら洗濯機回す予定だったのに……いや、明後日も休みだから大丈夫か……あれ、案外問題ないな」
そうして、俺が現状を確認して一人寂しくそう呟いていた頃、ちょうど部屋の扉が開かれて、そこから薄いピンク色の可愛らしいネグリジェを着用した白百合さんが入ってきた。
そして彼女はこちらに近づいてくると、さも当然の事であるかのような顔をしながらそのままもう一つのベッドに腰掛けて、俺に話しかけてくる。
「晴様、どなたと会話をされているのですか?」
「でたわね」
「はい、わたくしこと白百合春乃、晴様の前に出てしまいましたわ。おはようございます、晴様」
そうして、俺をこの謎の部屋に運んだと思われる元凶は、笑顔を浮かべながら言葉を投げかけてきた。
「それでは、晴様が起床されましたので、ただいまの時刻をもってタイマーをスタートさせていただきますわ」
「え、タイマーってなに……時限爆弾? この部屋爆発するの? デスゲーム始まった?」
「うふふ、共に入るお墓にしては、この部屋は少々大きすぎる気もしますわね」
「逆フェルマーの最終定理?」
「ふふ……そう慌てないでください。このタイマーはそんなに難しいものではなく、ただアルバイトの時間を測定するためだけに置いておくものですわ」
「あぁ、なるほど……そりゃそうだよね。寝起きだったから変な事言っちゃったよ」
そうして俺は、人前という事もあるので体を起こして、改めてベッドに座り直す。
そして、俺が姿勢を立て直したのを見ていた彼女は話を転換して、こちらに提案してくる。
「晴様、今回は初回ということもあるので、こちらでやりたい事リストを制作しています。晴様の準備ができ次第開始したいのですが……晴様にはなにか、やりたい事等はございますか?」
「……今とりあえず、トイレに行きたいかな。寝起きだし」
「そ、それはその、わたくしがしているところを見たい……という事なのでしょうか……?」
「そのくだりはもういいよ!」
別に放尿フェチを否定するわけじゃないけど、だからと言って放尿フェチなんてレッテルを貼られた日にはたまらん。
そんな事になったら同じクラスの悪友である浅野アリサ辺りに『放尿大明神』みたいなあだ名をつけられそうだし。
だからこそ、早くトイレに行こう。
「それはともかく、とりあえずトイレの場所だけ教えてもらっていい?」
「ええ、もちろんですわ。ここから最も近いお手洗いですと、この部屋を出てたあとに右に曲がっていただいて、その後に突き当たりを左に曲がっていただきます。すると両壁に扉が八個ずつあるので、左壁の一番手前側の扉がお手洗いになっていますわ」
「ここって迷宮だったりする?」
「いいえ、わたくしの自宅ですわ。と言っても、あくまで複数あるお家の一つではありますが……その話よりも今は、お手洗いが優先ですわね」
そう言って彼女は部屋の扉を開けて、俺を部屋の外へと出してくれた。
そうして俺は、長い廊下を一人歩く。
(ふむ、拉致された割には意外とあっさり出してもらえたな……正直『わたくしも着いていきますわ』とか言うかなって思ってたけど)
そんなことを思いながらも俺は、辺りを観察しながら足を進める。
壁や床のデザインから逆算するに、ここがいわゆる洋式っぽい屋敷の内部であると言う事が推測できる。
そして、白百合さんに伝えられた通りに道を進んで、そのまま見事にトイレに成功。部屋に戻る事にした。
(さぁて……部屋までの帰り道、凪草晴くん十七歳は迷子にならず無事に帰れるのでしょうか。まぁ、たとえ部屋に着けたとしても、そこから無事に家まで帰してもらえるとは限らないんですけどね!)
脳内ではそんなことを考えながら、戻るついでに窓から外を眺めてみると、今いるこの場所が建物の二階である事が推測できた。
それと同時に、なんとなく景色に既視感を覚えた。
(おそらく、ここは俺の家からそこまで遠くの離れた場所というわけではないんだろうな……まあ、推測半分、願望半分だけども)
そう考える事によって少しだけ安心感を得たあとで、先ほどの部屋まで戻って扉の前に立ちノックをして入室。
俺は改めて、先ほどまで寝ていたベッドの上に座り、白百合さんに語りかける。
「さて、無事に戻ってこれたわけだけども、俺は何をすればいいの?」
「そうですね……わたくしも晴様とやりたい事は考えてきたのですが……その前に、一つだけ質問をさせてくださいませ」
そういうと彼女は、俺の横に移動してこちらにグッと顔を近づけてきて、低めの声で語りかけてくる。
「先ほどお手洗いの話をしていた際、わたくし以外の女性のことを考えていらっしゃいましたよね、どなたのことをお考えになっていたのですか?」
「えーっと……? ああ、そういえば、このまま放尿フェチと勘違いされたままだと、浅野あたりに変なあだ名つけられそうだなって考えてたかも。なんで分かったの?」
「それはもう、妻の勘ですわ」
「妻ではないんだけどね」
そんなやりとりの後で白百合さんは、言葉を続ける。
「浅野さんと言いますと、昨日学校でお喋りをしていらっしゃった晴様のご学友のかたですよね。でしたら、かまいませんわ」
「こう言っちゃなんだけど怒らないんだね。脳内で女の人と浮気してるとか言われるかと思ってた」
「浅野アリサさんには同性の恋人がいることを調査済みです。ですから、彼女が晴様の事をいやらしいメスの目で見ることはないのでしょう。よって、問題はありません」
「……それって、あいつが異性愛者だった場合はどうなってたの?」
「……………………………………本当に、知りたいのですか?」
「いや、結構です」
俺の記憶が正しければ、確か彼女はどちらの性別もいける人間だったような気もするが、それをここで伝えても俺にとって良いことは何一つないだろう。
つまり、答えは沈黙である。
そうして、俺が黙ることの大切さを習得する事によって一歩大人に近づいたころ、白百合さんは話題を変えてきた。
「ですが、今はこの部屋で二人っきりなのですから、今だけはわたくしの事だけを考えてくださいませ?」
「わ、わかった。そういうバイトだもんね」
「うふふ……そうですわ。せっかくですし、晴様がわたくしの事以外考えられなくなるお手伝いをいたしましょうか……」
そういうと彼女は、俺に向かって体を寄せてきた。
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