第11話 絶対にぶち殺してやる、一族郎党皆殺しだ。

「……今日『柚木ユイナ』として動画あげたんだけど、初めてアンチコメントがついた」


「あー、なるほど。嫌じゃなかったらでいいんだけど、内容を教えてもらってもいい?」


「……えっと『どうせ女のVtuberなんて全員子供部屋おばさんだろ、死に晒せ』だって。私、なんか悪い事したのかなぁ」


「なるほどなぁ……」



 そうして俺は、インターネットの悪意を改めて理解したと同時に、結衣にかかっている心の負担を減らす為、授業中に節約しておいた頭脳リソースの精一杯を使い頭を回転させる。


 そうして突破口を見つけた俺は、結衣に向けて口を開いた。



「……でもこれ、女の人相手だったら無差別に送れるような文章になってるし、もしかしたら女性Vtuberに対して見境なく送ってるんじゃない?」


「……そうかもしれないけど、じゃあコメント送ってきた人はなんでそんな事してるの?」


「それは考えても分からん。でも、本来確認するべきなのは結衣の活動が成果をあげているのかであって、コメントを書いている人の価値観じゃないから、そこは本質じゃないと思うよ」



 そうして俺は、アンチコメントの内容から結衣の意識を逸らす為の根拠を探すべく、スマホを起動した。


 そして、他の女性Vtuberの動画や掲示板等で似たようなコメントを探してみると、面白いくらいに同じような文章がぼろぼろと出てきた。



「あ、ほら、これ見てみ。ちょっと調べただけで同じような文章が沢山でてきてるし、ここから持ってきたんじゃない?」


「お兄、なんでアンチコメント送る人の思考読めるの……? もしかして……やってる?」


「やっとらんわ!」



 結衣の発言は大変に失礼なものではあるが、俺の狙い通り彼女の意識を『アンチコメントを送られた意味』から『結衣の活動が正しいかどうか』という内容へと逸らす事には成功しただろう。


 それなら、あとは話を終わらせるだけだ。



「何にせよ、このコメントから学べる事は何も無いから、結衣が気にするべき事じゃないと俺は思う。登録者はゆっくりだけど伸びてるでしょ? なら結衣の活動は正しいって事になるはずだよ」


「そっか……確かに、言われてみればそうかも。お兄に論破されちゃった」



 そう言うと結衣は、座っていたベッドから勢いよく立ち上がった。



「よし! 少し元気出た、話聞いてくれてありがと! お腹すいたし、ルリねぇとお菓子食べてくる」


「ん、分かった。ルリ姉なら多分勉強してると思うから、いい感じに話し相手になって息抜きさせてやってな」


「え、ルリねぇの彼氏ヅラ? やめなよ、ルリねぇが可哀想」


「その返事はちょっと元気出し過ぎだろ、もう少し遠慮しなさい」



 そんな会話で話に一区切りがついた後、笑顔を取り戻した結衣は俺に向けて言葉を返してくる。



「へへ、冗談でーす。お兄ちゃん大好きー、かっこいー……あ、そうだ、お兄もすぐリビング来るでしょ? コーヒーとか淹れとく? 今日は特別に結衣ブレンド作ってあげるよ」


「いや、今日はやらなきゃいけないことがあるんだ。悪いけど、下に行くついでに夕飯の準備は手伝えないってルリ姉に伝えてくれる?」


「それは別にいいけど、そしたら多分ルリ姉の事だから『晴くんが頑張ってるなら応援したい』とか言ってこの部屋にお菓子持ってくるよ? しかもそのうえずっと部屋で座ってお兄のこと見続けると思うけど、それでもいい?」


「あ、いや。できれば一人になりたい。そこらへんのケアも頼む」


「はーい。話も聞いてもらったし、そのお礼としてしっかりとこなしてみせるよ。私に任せてくださいよっ、アニキっ!」



 そう言って結衣は、無い胸を張りながらさっそうと俺の部屋から去って行った。



(うん、元気になってなりよりだ。結衣って生まれた時から全部ずっと可愛いけど、やっぱ一番可愛いのは笑顔なんだよなぁ)



 そんな事を考えながらも俺は、手に持ったスマホに充電器を刺して、長期戦の構えをとる。



(さあ、結衣の戦いは一旦終わったが、俺の戦いはここからが始まりだ)



 そして、そのまま俺は作業に集中し始めた。



 〜数時間後〜



 俺が作業に没頭しすること数時間が経過し、外も暗くなってきた頃、結衣が俺の部屋の扉を開けた。



「お兄、ご飯できたよー……って、何時間もスマホ眺めてたの? 珍しいね、何してたの?」


「ちょっとな……」


「……ふーん」



 そうして、結衣の不満げな声が聞こえてきたので俺はスマホから顔を上げて、結衣に問いかける。



「『ふーん』て何さ、なんでちょっと機嫌悪そうなんだよ?」


「……別にぃ? お兄、えっちなやつ見てるんだなーって思って」


「見てないわ! なんでそうなるんだ!?」


「だってお兄、私が声かけたのに返事が雑なんだもん! いつもはもっと優しいのに! 他の女の子のこと考えてたから返事が雑なんでしょ!?」


「違う、ちょっと作業に集中したから疲れてたんだよ!」


「じゃあなんの作業してたのさ!? どーせ私のことなんか忘れて、えっちなやつでも見てたんでしょ!?」



 そう結衣に迫られて俺は、この流れでは活動内容を伝えざるを得ないと判断して、この数時間でやっていた事を報告する。



「さっき話を聞いた後からずっと、結衣の配信にアンチコメント書いたやつを特定してたんだよ」


「思ってたより私の事考えてた!」


「ようやく実名と職場と家までは特定できたから、あとは家族構成と実家の場所を調べるだけってとこまできてるから、もうちょい待ってくれな」


「しかも犯行まで秒読みだ!」



 結衣の人生を邪魔しようとするやつは、俺が全員破壊してやる。


 そんな信念のもとに生きているにとっては、これも当然の行為である。



(だからこそ、両親が結衣に無理にでも学校に行かせようとした際に、半ば無理矢理にでも彼女を実家から連れ出したわけだし)



 もちろん、証拠を残したら結衣に迷惑をかけてしまうので、足跡は一切残さない方法も同時に考えている。



「なに、偶然一家全員が寝てるタイミングで、これまた偶然火災が起こってしまうだけだよ。つまりこれは『事故』なんだ」


「家族まで巻き込んじゃダメだよぉ!」


「いや、汚れた血はしっかりと処理する必要があるからね。次のトラブルに巻き込まれる前に芽を摘んでおかないと」


「抜本から解決しようとしないで! というか、お兄が私のこと大好きなのはよーく分かったから、一旦冷静になってよ! 私はもう大丈夫だからっ!」



 そうして、結衣に説得されてしまったので俺は、彼女の意思を優先すべく一旦スマホをおいた。


 すると、それと同時に部屋の扉の外からノックの音が聞こえてきた。


 そしてすぐに、ルリ姉の声が聞こえてくる。



「ハルくん、お部屋に入っても大丈夫?」


「あ、大丈夫だよ」



 そうして、俺の返事を聞いたルリ姉は扉を開けて、そのまま俺に話しかけてくる。



「ご飯できたから、一緒に食べましょ……って、あら? 結衣ちゃん帰ってこないなって思ってたけど、ハルくんの部屋にいたのね、何かあったの?」



 そう言いながら部屋に入ってくるルリ姉に、俺は返答をしようとした。


 しかし、俺が言葉を発しようとするその前に、結衣がルリ姉の元に小走りで向かいつつ彼女に話しかけた。



「るりねぇ、お兄逮捕されちゃう!」



 そうして、結衣がルリ姉に泣きつくと、ルリ姉は何を勘違いしたのか、両手で自身のスカートを軽く抑えて足をソワソワさせながら返事を返す。



「あ、その……えっと……さっき晴くんにパンツを見られちゃったのはわたしのせいだから、ハルくんを責めないであげてほしいな」



 そして、そんなルリ姉の言葉によって生まれた新たな矛先は当然、こちらに向かって飛んでくる。



「お兄、ルリねぇのパンツ見たの!? 最っ低!! 私のお尻見たくせに、それだけじゃ満足できなかったんだ!」


「違うっ、色々ごっちゃになってるだけで全部勘違いだ! 一旦弁明させてくれ!」



 そうして、まるで犯罪者を見るかのような目で俺を睨んでいる結衣に弁明をしようとしたその時、玄関からインターホンの鳴る音が聞こえてきた。


 それを聞いて俺は、ふと今日の朝を思い出す。



(おや来客……? なんか、今朝も同じようなことがあった気がするな)



 そんな事を考えながらも俺は、若干怒り気味の結衣と、照れているような表情でこちらをチラチラと見てくるルリ姉を置いて、来客対応の為に部屋を出たあと、玄関の扉をあけた。


 するとそこには……

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