第9話 勃ち上がっているから、立ち上がれないです……

「これは俺の妹……結衣の話なんだけど、ええと、なんて説明すればいいかな……」



 俺の最愛の妹こと結衣は、齢十六歳にして絶賛引きこもり中である。


 彼女が中学生の頃、モテる男子に告白された事をクラスメイトに妬まれて孤立し、学校に居場所を失った。


 そのうえ、それでも無理矢理にでも学校に行かせようとした母と、学校に通わずに生きていく方法を求めた結衣で意見が食い違い、その結果現在では俺と共に家を出て、高校には通わずに生計をたてることを目指すべく彼女は『柚木ユイナ』という名義でVtuberとしての活動に勤しんでいるのだ。


 そして俺は最低でも、結衣が一人立ちできるようになるまでは、そんな彼女をそばで支えたい。



(結衣を支える為には空いてる時間はバイトと家事と結衣の手伝いに費やしたいから、俺には彼女を作って遊んでる時間はない。しかし、そんな事を結衣の許可もとらずに説明するわけもいかないし……どう伝えればいいものか)



 なんて俺が思っていた頃、白百合さんが語りかけてきた。



「その件でしたら大丈夫ですよ。妹さんの事情に関しては、こちらもすでに事情を把握していますから」


「なんで知ってるのさ、俺、誰にも話した事ないはずなんだけど……」


「うふふ……」


「怖いねー」



 この子がだいぶ変わった子なのは、今までのやり取りで充分理解できている。


 そもそも住所すら特定されてるくらいだし、もはや過去を知られているくらいで驚く必要もあるまい。



(なんにせよ、この子は結衣に害を与えようとして過去を調べたわけじゃなさそうだし、今のところは問題ないはず)



 そして、彼女は俺のそんな思考を理解していたかのように、こちらに言葉を投げかけてきた。



「もちろん、結衣さんの事を言いふらしたりはいたしません。あくまでも晴様とお付き合いするにあたって、なにが必要になるのかを確認する為に調査しただけに過ぎませんから」


「お付き合いはできないけど、それなら助かるよ」



 そう言って俺は、言わなくてはならない事を白百合さんに伝える。



「結衣は俺にとって大切な存在なんだ。でも、今の結衣は一人で生きていくことはできないから、今は俺の時間を結衣の為に使いたいと思ってる。だからこそ白百合さんとは付き合えない、ごめん」



 そして、俺がそう伝えると、彼女は意外にも冷静に返事を返してきた。



「晴様のお考えは理解いたしましたわ。つまり、わたくし以外のメスに興味があるわけではなく、あくまでも大切な家族の為に時間を使いたいという事なのですね、素敵ですわ」


「なんだかトゲのある言い方な気がするけど、本質的にはそれであってるよ」


「それならば、晴様の悩みを解決する方法も既に用意してありますのでご心配には及びません。晴様に時間が足りていないのならば、増やしてしまえば全て解決ですわ」


「……? どういうこと?」


「今はまだ準備中ですから、それが終わり次第詳細をお伝えします。なので、婚約のお話に関してはその準備が終わり次第、再開させていただくことにしましょうか。晴様にとっても良い話ですし、当然、結衣さんの為にもなるものですから、楽しみにしていて下さいませ」



 そうして、白百合さんが話に区切りをつけた時、ちょうど昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。


 すると、彼女はルリ姉の方に顔を向けて口を開く。



「あら、時間ですわね。それでは教室に戻りましょうか。お姉様も、これからよろしくお願いいたしますわ」


「あ、はい。えっと……よろしくね?」



 そして、そんな会話をしつつ、弁当箱をさっと片付けた後で白百合さんは、俺の耳元に近づいてきて一言。



「わたくしの下着まで見たのですから……浮気をしてはいけませんよ?」



 と言って、少しだけ頬を赤くした彼女は食堂を去っていった。


 その言葉のせいで俺は、つい先ほどのやりとりを思い出してしまう。



(スカートの中、ピンク色、たくしあげ、恥ずかしそうな表情……)



 ……この移動するタイミングで、下半身に意識が向くような事を思い出させないでほしいものだ。


 おかげで立ち上がれないよ、教室に戻らなきゃいけないのに。



(というか、話に夢中になったせいで昼ごはんあんまり食べてなかったな……まあ、教科書で隠しながら授業中に食べればいいか)



 なんて思っていると、ルリ姉が話しかけてきた。



「は、晴くん、はっきりとは聞こえなかったけど白百合さん今、下着って言ってたよね……? それって、もしかして今朝の話?」



 そう言われて俺は、今朝俺が白百合さんの胸を揉んでいたところをルリ姉に見られた事に加えて、それについて彼女になにも説明をしていない事を思い出した。


 かと言って、全ての事情を話すには時間が足りないし、なにより子供の頃から一緒にいる姉のような存在……つまり半分家族みたいな存在である彼女に『女の子に求婚されて困っている』なんて説明するのはかなり恥ずかしい。


 つまり、そんな俺が次に打つべき一手は、誤魔化し一択である。



「あ、いやぁ……うん、そうだよ。でも、あれはちょっとしたトラブルというかね。しかも既に解決してる事だし、ルリ姉に気にかけてもらうほどのことじゃないよ。じゃあ各々教室に戻ろうか、はは」


「晴くん嘘ついてる! 晴くん昔から、嘘ついてる時は必ず早口になるんだから!」



 ありゃ、手口バレてるね……これは逃げ通すのは無理か。



(まあ、白百合さんの事だからどうせまた家にくるだろうし、いずれはルリ姉にも事情を話さねばならない日もくるだろう。ならば、引き伸ばしせずに今のうちに話しておいた方がいいか)



 なんて思ったはいいものの、既に予鈴はなっているので、今はお互いの教室に戻らねばならない。



(なら、とりあえずは、ルリ姉には放課後あたりにでも時間を作ってもらって、そこで伝えよう)



 俺はそう考えて、その事を彼女に伝えようとした。


 すると、それと同時に、何故か少し焦った様子のルリ姉が語りかけてくる。



「晴くん、今日は一緒に帰ろうね、ね?」


「……俺も同じように考えてたし、分かったよ」



 そうして、一通りの事を話す覚悟を決めたあとで一旦解散することとなり、やがて放課後となった。


 ちなみに白百合さんは『今日はやるべきことがあるから先に帰る』と俺に伝えて去っていったので、帰宅までの道はルリ姉と二人だ。



 〜〜放課後(帰り道にて)〜〜



 家への帰路にて俺は、白百合さんとの過去も含めて、婚約者周りの事情をルリ姉に伝えた。


 すると、ルリ姉は珍しく若干不機嫌そうな表情を浮かべつつ、俺に話しかけてきた。



「そっか……晴くん、昔はわたしと結婚するって言ってくれてたのに、他の女の子にも同じことを言ってたんだね」


「あー、それはその……反論の余地もないと言うか……はい、反省してます」


「……ふふっ、ごめんね。晴くんの反応が見てみたくなっちゃって、つい困らせること言っちゃった。晴くんの言葉で白百合さんも喜んでたみたいだし、わたしはいい事をしたと思うよ。えらいえらい」


「あの、許してもらえるのは嬉しいけど、頭を撫でるのは勘弁してほしいかも……」



 やはり、この年になって頭を撫でられるのは抵抗がある。


 しかし、俺の過去を許してくれたルリ姉の手を強く拒否するのは抵抗があるので、俺は諦めて撫でられ続ける。



(まあ、ルリ姉もニコニコしてるし……いいか)



 そうして、ルリ姉からお許しが出た事にひとまず一安心していると、突然、視界の陰から一匹の野良猫が出てきた。


 そしてその猫は、俺とルリ姉の間に入り込むと、彼女の足に頭を擦り付けて甘え出した。



「あら、野良猫さん? 晴くんの代わりに撫でさせてくれるの?」



 ルリ姉の温和な性格が原因なのか、彼女は昔から非常に動物になつかれやすく、一緒に歩いているとこういう事はよくある。


 そしてルリ姉は、猫を前にしてしゃがみ込んで猫の頭を撫でると、そのまま俺に語りかけてくる。



「ふふ、可愛いね。ほら、晴くんも撫でてあげて?」



 ルリ姉にそう言われて俺は、彼女の対面にしゃがみ込んで猫の頭を撫でる。


 その時、俺は気づいてしまった。


 ルリ姉のスカートの中から、タイツとその下にあるかわいらしい花柄があしらわれた白い下着までもが、透けて見えてしまっているというその事実に。

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