第4話 まさかのプレゼント

 白百合さんに俺の手首を握られてすぐ俺の手は、彼女の胸を包み込んでいる下着の奥へと誘導されて、その中へと滑り込まされた。


 その結果、いつの間にか俺の手は、彼女の大きな胸を鷲掴むことになった。



(なっ……なんだこれ、柔らかいなんてもんじゃないぞ……!? 掴もうとしてないのに指が吸い込まれる……!)



 そうして俺は、そんな初めての感覚に引き込まれて、言葉を失ってしまった。


 そして、戸惑う俺を差し置いて彼女は、顔だけではなく耳や首元まで紅潮させながらも言葉を続ける。



「んっ……これは、ものすごくドキドキしますね……」


「なっ……なっ、なっ!」


「わたくしの方は既に覚悟を済ませておりますから……そんなに慌てず、ゆっくりと楽しんでいただいて良いのですよ? これは、貴方へのお礼なのですから」



 彼女はそんな事を言ってくるが、突然こんな事をされたら誰だって動揺するに決まってる。


 しかし、手に吸い付く心地良い感覚に心が奪われて、次の言葉が出てこないのも事実だ。


 この魔力に俺は逆らえない。女の子の胸って、こんなに素敵なものだったのか……



「うふふ、可愛いお顔……気に入っていただけましたか……?」



 そう言われて俺は、彼女の胸に手のひらを当て続けながらも彼女に問う。



「あ、貴方、なんなんですか!?」


「わたくしは、貴方の婚約者です」


「婚約者!?」


「……驚いていらっしゃるという事はやはり、わたくしの事は覚えていらっしゃらないのですね……いえ、責めるつもりはありません。これから思い出していただければ充分ですから」



 そう言われながら、予測不能な出来事が続いて俺の体がフリーズしていた時、ふとリビングの方から視線を感じた。


 そして、そちらに目を向けると、こちらを覗き込んで様子を伺っていたらしい結衣と目が合った。



「お、お兄……?」


「結衣っ!? こ、これは違うんだ!」



 しかし、結衣は俺の問いかけには返事を返さず、そのまま彼女はバタバタと足音を立てながらリビングに戻り、声を上げる。



「る、ルリねぇー! お兄が女の子のおっぱい揉んでるっ!」


「えっと……どういうこと?」


「と、とにかく来てっ!」



 そうして、結衣に腕を引っ張られながらルリ姉もこちらに来て、玄関に四人が集結した。


 そして、こちらを見たルリ姉は驚いたような表情をしながら、いまだ白百合さんの胸に手を当てている俺に向かって質問を投げかけてきた。



「えっと……ハルくん、ごめんね。お話してる途中で申し訳ないんだけど、何があったのか説明してくれる?」


「俺も分かんない……」


「そっかぁ、ハルくんも分からないのね……」



 そうして、俺とルリ姉が次の行動に困って静かにしていると、結衣がこちらに近づいてきて、俺の手を白百合さんの胸から引き剥がした。


 そしてその後、彼女は俺の腕にしがみついて、服を戻して整えている白百合さんを威嚇し始める。



「あ、あなた……なんなんですかっ!?」


「……貴女こそ、随分と晴様との距離が近いように見えますが、いったい誰の許可を取って晴様の腕にしがみついているのですか……? そもそも、彼とのご関係は……?」


「ひぃっ……あっあっ……えっと、そのぉ……」



 しかし、我が妹は弱く、目のハイライトを失いながら低い声で返答してくる白百合さんにあっさりと敗北した。


 それを受けて俺は、妹に変わって返答する。



「俺の妹です。結衣っていいます」



 そして、俺がそう言うと、目に正気を取り戻した白百合さんは結衣に顔を向き直して言葉を続ける。



「あ、貴女が晴様の妹さんでしたか。これは大変、失礼いたしました。わたくし、白百合春乃と申します、今後ともどうかよろしくお願いいたしますわ」


「えっ、あ、はい……? え、二重人格?」



 そうして、二人の会話に一区切りがついた後、またもや一瞬で目のハイライトを失った白百合さんの視線は、ルリ姉へと向かう。



「それで、そちらの方は?」


「あ、わたしは七傘瑠璃です。はじめまして、白百合さん」


「……どうもご丁寧に。それで貴方は晴様と、どのようなご関係で……?」


「えーっと……お姉ちゃんです」



 ルリ姉、何を言ってるんだ……!?


 ……なんて一瞬考えたが、端的に説明する方法としては、悪くないのかもしれない。


 というか、否定して話がこじれるのも良くないし、言われてしまった以上、もはや乗るしかないだろう。


 そして、そう覚悟を決めた時、白百合さんは俺に話しかけてくる。



「……本当ですか?」


「ほ、本当です、姉です」


「……そうでしたか。晴様には、お姉様もいらっしゃったのですね、知りませんでしたわ」



 そうして、ルリ姉はそんな会話を聞いて、晴れやかな笑顔を見せながら白百合さんとの会話に戻る。



「うんっ! 私はハルくんのお姉ちゃんです! よろしくお願いします!」


「はい。よろしくお願いしますわ」



 ……本当にこれで良いのだろうか。


 なんて考えていたら、白百合さんは改めて服を整え直して、再度俺に話しかけてきた。



「……さて、とりあえずのお礼もお渡しできましたし、本日はこれで失礼いたします。想定外の形でお時間をとらせてしまい、申し訳ありせんでした」


「あ、いえ……こちらこそ?」


「ふふ……それでは晴様、また、お会いいたしましょうね」



 そう言った彼女は、すぐに玄関の扉を開けて、今朝も彼女を助けた際に見たなんだか高級そうな車の後部座席に乗って帰って行った。


 その後、結衣は詳しく話せと迫ってきたし、ルリ姉もチラチラとこちらを見ていたものの、そろそろ家を出ないと学校に間に合わなくなってしまうので、俺とルリ姉は準備をすませて、家に残る結衣に片付けを任せ、学校へと向かった。




 〜〜学校〜〜



 高校に到着したのは、朝のホームルームが始まるギリギリの時間だった。


 そして、俺が自分の椅子に座ってすぐ担任の女性教師入ってくると、彼女は生徒に向けて言葉を発する。



「転校生を紹介するぞー」



 そうして、担任の一言の後で教室に入ってきたのは……



「皆様、お初にお目にかかります、白百合春乃と申します。どうぞ、よろしくお願いいたしますわ」



 俺は生まれて初めて、本当に目ん玉が飛び出そうになった。

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