第3話 お姉ちゃんにナデナデされる。そしてお嬢様、自宅に襲来。

「俺、ルリねぇの裸なんか見たことないよ! いつの話してるの!?」


「え? 一緒にお風呂に入ったことが何回かあったでしょう? ハルくんは覚えてない?」


「そんなの幼稚園とかの頃の話でしょ! 誤解されるような言い方しないで!」


「ふふ、今思うと男の子が見てる前で裸になってたなんて、なんだか恥ずかしいね」



 そうして、俺の問いに対してもマイペースを貫くルリ姉は、ふと何かを思い出したかのような表情を見せた後で、問いを投げ返してきた。



「ところで、ハルくんはもう、わたしの事を『お姉ちゃん』って呼んでくれないの?」


「ルリ姉、それずっと言ってるけど、俺もうそんな年じゃないよ」


「もう、照れなくても良いのに……」



 ……ルリ姉にはこういう感じの話になるたびに毎回、照れなくてもいいなんて言われるが、この『ルリ姉』という呼び方ですらも俺にとっては、わりと照れ臭かったりする。


 しかし一度、中学生の頃に大人ぶって『七傘先輩』と呼び方を変えてみたらものすごく悲しそうな顔をされたうえに、たとえ人前あったとしても、いわゆる『お姉ちゃん』的な呼び方をしないとやはり悲しそうな顔をするので変える事もできず、結局この呼び方に落ち着いたのだ。


 そして、そんな彼女は、さも当然の事であるかのような顔をしながら、自然に俺の頭を撫でてきた。



「ふふ、今日も朝からご飯用意してくれてありがとう。毎日頑張っててえらいね、よしよし」


「だからルリ姉……俺もう高校生だし、そんな事される年じゃないんだってば」


「でもハルくん『お姉ちゃんと結婚する!』って、わたしにプロポーズしてくれたじゃない。結婚するなら、これくらいは普通のことでしょう?」


「それも昔の話! てか、なんでそんな事まで覚えてるの!?」


「だって、とっても嬉しかったんだもの」



 そうして、過去の思い出を楽しそうに語るルリ姉。


 高校二年生にもなってこんな事をされるのは正直むずがゆいけど、ルリ姉は俺がスキンシップを拒否すると悲しむ人間だということを過去の経験から知っているので、俺はおとなしく頭を撫でられ続ける。


 そして、そんな俺を見ていた我が妹は、何やら不満げな視線を向けながら俺に語りかけてきた。



「お兄、鼻の下伸びてる」


「……そんな事ないよ」


「そんな事あるから言ってるの!」



 そんな会話の後、結衣は喋る対象をルリ姉に変えて、言葉を続ける。



「ルリねぇ、すけべな兄は置いておいてさ、早くご飯の準備しちゃおうよ!」


「ふふ、じゃあ、一緒に準備を手伝おっか」



 そうして、結衣との会話を通した後、ようやくルリ姉は俺の頭から手を離してくれた。



(……手を離される時って毎回、照れから解放される嬉しさと温もりが離れていく寂しさが同時にくるから、なんか不思議な気持ちになるんだよな)



 なんて思っていたその時、突然、玄関のインターホンが鳴った。



 そして、それにいち早くルリ姉が反応する。



「あ、お客さんかな? 朝ごはんの準備はわたしと結衣ちゃんでやっておくから、ハルくんはお客様の方をお願いしてもいい?」



 そうしてルリ姉は、すぐに提案を出してきた。


 ルリねぇはほぼ毎日ウチに来てるけど一緒に住んでいる訳じゃないし、結衣は対面での会話が苦手だから、基本的にはルリ姉以外の来客には出られない。


 なので、この家に住んでいる者として、今回の来客は俺が対応するのが無難だろう。



「おっけ、じゃあ朝ごはんの準備は任せるね」


「はぁい」



 そんな風にルリ姉と軽いやりとりをして、俺は玄関へと向かう。


 そして、扉の覗き穴からどんな人物が来ているのかを確認すると、そこには見覚えのある顔がこちらを覗いていた。



(うぉ、さっきの美少女……『白百合春乃』さん、だったっけ。なんでウチに?)



 そんな風に、頭に浮かんできた疑問について考えている際も、彼女は覗き穴越しにこちらを見つめ続けている。


 その一点集中具合は、もしや目が合っているのかもしれないなどと錯覚してしまうほどだった。



(しかし、何度見ても結衣にもルリ姉にも負けないくらいに美少女だけど、ひたすらこっち見ててなんか怖いな……てかこの子、さっきから一回もまばたきしてなくないか? いやでも、目薬とかですごい目が潤ってるだけなのかもしれないし、勝手に不気味がるのも失礼か)



 そう思った俺は、彼女の目力に若干怯みながらも、玄関の扉を開けた。



 俺が玄関を開けると、突然の来客である『白百合春乃』と目が合った。


 その瞬間、彼女はなぜか俺の顔を見ながらその長い黒髪を揺らしつつ、可愛らしい笑みを浮かべた。



(……彼女とはさっき出会ったのが初対面だったから、俺がこの家に住んでることは知らないはずだ。なら、なぜここに?)



 そして、俺がそんな事を考えている中で、彼女は喋り出す。



「突然お邪魔して申し訳ありません。わたくし、先ほど助けていただいた『白百合春乃』と申します。貴方へお礼をしに参りました」


「お礼、ですか……? というか、なんで俺の住んでる家が分かったんですか?」


「わたくしの父は警察関係者でして、人探しには困らないんです」



 そうして、彼女は俺の問いに機嫌が良さそうな表情でそう答えると、言葉を続ける。



「さて、早速ですが本題に入らせていただきます。お渡ししたいものがあるので、よろしければ中に入れていただけませんか? 玄関まででかまいませんので」


「えっと、そう言う事なら、よければリビングで話をしませんか? 椅子もあるので座れますし、お茶くらいなら出せますから」


「いえ、学校へ行く為の準備もあるでしょうし、朝の貴重なお時間を取らせることはいたしません。今は、お礼をお渡しできれば充分ですから」



 そして、そんな会話の後、彼女が我が家へと入ってきた。



(……でも、お礼って言っても手には何も持っていないように見えるけど……なんだろ?)



 なんて考えていると、彼女は玄関の扉を閉めてすぐ、上目遣いでこちらを見つめてきて、一言。



「そ、それでは、お礼をお渡しします……どうぞ、ご覧ください」



 と言うと突然、なにやら彼女は覚悟を決めたような表情を浮かべながら胸元にあるリボンを解き、制服の裾に手をかけると、そのまま首元までたくし上げた。


 そして、可愛らしいフリルがついたピンク色の下着を露出させた彼女は、顔を赤くさせ若干俯きながらも、言葉を続ける。



「やはり……その、いざ見られるとなると……恥ずかしいものですね」


「な、何してるんですか!? 早くしまって下さい!」


「い、いえ。これではまだ、お礼が足りませんから……それでは、手をお借りしますね」



 そうして、俺が彼女の行動に戸惑っていた時、俺の手首は突如として彼女に握られた。

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