さらに酔ってきた~給料支払いの仕訳は実はややこしい

「お姉ちゃんだいぶ出来上がってきてますね‥‥」

いつの間にか阿須那が座っていた。気がつかなかった。

「阿須那!あすな〜〜〜〜〜」

思わず座っている阿須那の腹部あたりに頭から飛び込む。

「グエ〜、お姉ちゃん酔っ払いすぎ」

小柄な阿須那には私の懐へのタックルは堪えるようで、変な声が出た。


「ごめんね〜言えなくてね、、、先に『江崎君は男です』って言っておけばよかったのに」

もう今日の失敗はこの部分に限る。この場を借りて謝らねばって思っているけど酔っているのが丸分かりで効果薄々‥‥


「なんか、祝杯!とか言い出して、缶一本ほぼ一気に開けちゃって、その後クーラーボックスから多分二号サイズぐらいの日本酒を二本‥‥」

「二本一人で開けちゃったんですか??」

「いや、僕もまあまあもらったよ」

「もう、お姉ちゃん飲み過ぎだよ‥‥‥‥ぼちぼち帰る?」

「ああ、じゃあ帰りましょうかね」

帰ると江崎君の声で聞こえた。

ええ?そんなん、

「帰ったらあかんよ、帰ったら。同盟やねんやろう、江崎君。同盟相手の面倒を見なさいよ」

こんな楽しいのに帰りたくない~!


流石に胸に飛び込むことまではできない。酔っていてある程度分からんちんになっているけど実は冷静なところもあるもんだ。だからせいぜい胡座の膝あたりを摩る程度だ。

「お姉ちゃんて、もうあかんて」

叱られてしまった。

「角谷さん、僕がさっき言ったこと覚えている?」

「うん‥‥何だっけ?」

あれ‥‥?ダメだ。ある程度は本気で酔っている。言われたことが断片的に抜け落ち出している。思い出せ思い出せ、失礼やから。あ!

「写真‥‥」

むくっと、阿須那の元から起き上がり座り直して、何か言おうとした江崎君の言葉を遮って、

「仮払金は、一旦旅費とかを渡した時に、いまいち使途が明確じゃないから、仮払にしとくんよ」

「はい〜?」

阿須那が呆れて口をポッカリ開けてしまう。

「その時は<仮払金>×× /<現金>×× ってね。で、後から〜旅費だってはっきりした段階で〜」

江崎君が楽しそうに笑ってくれている。その笑顔を見るの幸せだ〜。

「<旅費交通費>×× /<仮払金>×× って精算するのよ、借方‥‥借方を貸方に持って行って借り貸しなし!みたいな‥‥」

バッチリやろ!どや??


「ごめんなさい、お姉ちゃん激しく酔っちゃっているみたいで‥‥」

酔ってないよ。だって覚えているもん。


「酔ってないよ!手付金は前受金勘定だからね‥‥手付金てあるでしょ、そんなもん買ったことないけど、なんか高いもの買う時ってまずちょっとお金入れるんでしょ‥‥で、それが前受金‥‥気ぃ付けなあかんのが前受金て、お金もらうからさ、資産勘定やと思ってしまうんやけど違うんよな~負債勘定やねんなあ、分かる~?阿須那~?」

「イタタタ‥‥なんでそんな肩掴むんよ~」

「そうね。受け取った側からすればその後に実際にサービスやものを提供しないといけない義務を追うからね。だから負債勘定」

「あ、ごめん、こんなんあかんなあ、掴んだから手付や、手付金。前受金。だから私の義務は‥‥」

「ちょ‥‥ちょっとーうわっ、酒くさー!」

「ぎゅーっ!」

阿須那を抱き寄せる。いっつもぎゅー好きなのに今日はあまりお気に召さない?大人しくはしてくれているが抱き返してはくれない。おねーたん、寂しいわあ‥‥って当たり前である。酔っぱらっているのだから。


「仲良いですね」

ちょっと困惑気味の笑顔を浮かべた江崎君である。ちょっとやりすぎているのか?酔っぱらうと仕方ない。ちゃんとできません。

「仲良いですよ~」

阿須那を片手で抱き締めて江崎君に向かってピースしてしまう。

「ごめんなさい、今日のお姉ちゃんアホアホです」

「アホアホちゃう、江崎君のおかげで簿記で賢くなってきてるっちゅうねん。ね?江崎君。私あれ‥‥給与の支払の仕訳って絶対大変なるって見抜いたもんね??」

「ああ、あったね。あれは実際現場ではかなり難しくなるね」

「いや、そういうアホじゃないって、酔ってるやんかあもう‥‥」

「酔っているけど給与は支払わなあかん。そしたらな

<給与>×× /<預り金>×× <現金預金>×× ってなるねん。けどな、私思ってん」

「この辺りの感覚、角谷さん凄いって思うよ」

「え?そうなんですか?」


ニコニコしながら酔っぱらっている私を見守ってくれる江崎君が、私を誉めてくれている。それに対して阿須那も臭がりながら驚いたリアクションをした。アホばっかりではないということだ。私はさらに気分が良くなりそう。


「だって従業員が二十人いたら二十人なりの、さっきの仕訳が出てくるやん。それだけやないやん‥‥電車やバスで来ているスタッフやったら旅費交通費勘定がそこの借方にプラスされて、それに対しても現金預金、借方から支払われるし、役員がいたら役員報酬も借方に出てくるやんか」

「なんか分からへんねんけど‥‥」分かってもらえないことお構いなしで人形を抱き締めるようにしている。


「それにさ、預り金て、言うたら全部預り金やねんやんかあ。私バイトしたことあるけど、へぇ~こんな項目色々あって給料天引きされるんやあって思ってんけどな、あれが全部預り金やねん。ええっと‥‥健康保険やろ、歳行ったら介護保険も払うし‥‥あと厚生年金とかやね」


「うん、他にも労働保険、市民税、源泉所得税が全部預り金」


「あとさ、よう会社ってみんなで飲み会しましょうとか、どっかみんなで旅行行きましょうってするときにお金積立するねん。私等バイトやったからなかったけど、正社員の人等してたわ。そしたらそれもさ、預り金やねん。でさ、会社によってはスタッフのご飯出してくれるとこあるやんかあ、あるいは会社でお弁当とって、そのお金を徴収して給与天引きしているところ、これも預り金やで。どう?もうこれ大概ややこしない?」

「いや、今はお姉ちゃんの方がややこしい‥‥」

「もう、阿須那の塩対応、ウフ、可愛い、チューしたろ」

「ダアーッ!もうやめて」

顔を背けて手で私の顔の接近を防がれた。

「角谷さんてキス魔なの?」

「いや、今日だいぶおかしいです。ここまで酔っているのもそんなないし」

キス魔言うた?キス魔って?

そんなん言うたら何かに便乗して江崎君にもしちゃうぞー!とは言えない。この辺りは実は冷静だったりする。

「だからさ、仕訳めっちゃ大変なんよ。今のまとめるとさ、分かる阿須那?」

「いや、まとめなくていいから、そろそろ離‥‥」


「借方が

<役員報酬>×× <給与>×× <旅費交通費>×× / やん。で、ここの合計と、


貸方が

/ <預り金(健康保険・介護保険等)>×× <預り金(厚生年金等)>×× <預り金(特徴市民税)>×× <預り金(源泉所得税)>×× <預り金(会社が認める従業員の親睦会会費)>×× <預り金(給食天引き)>×× でやっと、<現金預金とか当座預金>×× で、貸方合計とが合わなあかんってこんなもん合うか―ちゅうねん!」


「健康保険や厚生年金保険は『未払金』を使ったり、あるいは翌期の支払いが従業員分と会社負担分とがあってややこしいから実務的には費用の『法定福利費』を使ったりもするところもあるね。他にも労働保険(労災・失業保険など)は「法定福利費」を貸方に入れて計算された所定の金額を入れるから、左右合わせるの結構難しい。さらに言えば、工場とかを持っていれば賃金や製造費用・原価計算部分の賃金が出てくるから二本立てみたいになってくる。給与計算ソフトで表を見ながらでも相当難しいんだよね」

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