私の手作り弁当

桜は満開‥‥じゃなかった。まあそれはそんな気がした。

一番素敵に咲き誇っている時期は過ぎて、薄ピンクの色彩で自己を主張していた季節から、その色は雨や風、時の流れで失われて行き、今は半分くらいが新緑に覆われてきている。

私たちが歩いている時もほら‥‥そっと風が吹き、桜色だけが舞い落ちていく。

もうちょっと早く見に来てあげたら良かったね。

またあなたたちが、目を覚まし咲き誇る春に逢いましょう‥‥か。



阿須那たちは久しぶり?の再開に、ぼやいていたのも忘れて手を握り合って喜び合っていた。私はとりあえず阿須那がそうやっている間に車と集合場所を二往復できた。これで食材関係の私たちの荷物は全部出せた。

そうしておいてもらいたかった。これぐらいのお手伝いはしておかないと悪い。散々お世話になっているのに‥‥せめて得意の体力を活かして重たいものを機敏に運ばせてもらいますって感じである。

後は何度か往復することで土地勘を付けて、江崎君が来た時、案内するのがスムーズでありたいというのもあった。桜を見ながらお話しながら並んで歩きたいけど、道に迷っていては格好が悪いから。

今は運んだ経路以外のところを、情報収集のために散策している。

(ここの自販機はA社とB社か‥‥そしてここにお手洗いがあって‥‥‥)

我ながらそこまで知って誘導してあげたいか?と自問してしまうぐらい調べている。

こんなことは今まで一度もしたことがなかった。だいたいいつも自分は‥‥そんなつもりはないけどお姫様というか、『本日のメインゲスト』扱いを受けていて、段取りは周りがしてくれていた。スクールカーストが最上位に近い存在だったからだろう。今はそんなものはどこにも存在しない。


後、こんなに下調べをしているのは‥‥きっと今ある不安を書き消したかったのもある。不安材料は阿須那と江崎君のご対面だけではない。


もう一つの不安材料?いや、江崎君への日頃の感謝と‥‥いやいや。

緑地内の、桜の小道を歩いていて何もないのに思わず首を振る。

感謝!感謝の気持ちを伝えたくて作った――――手作りお弁当がある。


――――家に忘れていないか?

スーパー初歩的ミスが恐ろしくて二度見三度見したけど、ちゃんと保冷バッグに入っていた。あれを忘れてしまったらもはや参加の意味が六割失われてしまう。

しかもタッパーで日頃食べている彼に、お弁当箱をそのままプレゼントするという私なりに考えた企画なのに、そんなお間抜けは絶対に許されない。


――――千五百円もした。

今の私にとって千五百円は死活問題。実は値段交渉をして参加費三千円にまけてもらって(笑って受け入れてくれた優しい妹よ。これが文句無しで荷物運びをした一番の理由でもある)、千五百円するお弁当箱をプレゼント用アンド当日使用のために買った。後の五百円で何のおかずが買えるのか?


――――買えないじゃないかー!!

(お父さーーーん!!やっぱり今時こういうのは一万円なんだよ~~~~!!)

とは言っても「勉強するする」「志望大学受かる受かる」と言いまくって、散々裏切り続けていた私に専門学校の授業料を出してもらえて、まだ妹とお花見に行くからと聞いたら、五千円くれるだけでも神なのだが‥‥


斯くなる上は‥‥前日から母親に今日の晩御飯は唐揚げを食べたいと申し出て、鶏肉は上等なやつで!そこから卵はスーパーで売っている中でも‥‥あれやこれや‥‥ちゃっかり残り物のひき肉まで使わせてもらおうということだ。

そう、お弁当のおかずを買うお金がないから、前日の晩御飯を私が作るイコール私がお弁当も作った、ということになる。しかもお母さんはその日は少しだけ楽ができてウィンウィンだ。結局阿須那と一緒に、洗濯物を入れたり干したりしていたので、楽だったかどうかは良く分からないけど。

ひき肉を炒めて、醤油、砂糖、みりんなどなど‥‥卵も同様に炒めて‥‥。

そぼろをふりかけ代わりに作って、さてどう乗せるか。

――――まさかハート型?ハートやっちゃう?亜香里そこまでやっちゃう??

恥ずかしい自問をして、一人で照れていた。

できるわけがない。やり方は知っている‥‥ちょっと作りたい気もするけど、恥ずかしいし、何しろそこまでの関係ではない‥‥残念ながらそこは堪えよう。というのが自問の答え。


昆布、かんぴょう、ニシンは骨やえらを取って沸騰させたお湯にしばらく漬けて‥‥ニシンの昆布巻き作って完成。それに唐揚げ、卵焼き‥‥こんなものかな。ソーセージもボイルしたけどこれはちょっと入りきらない。


めちゃくちゃうまいわけではないけど、私は割とこういうことをするのが好きなのである。引きこもり時代はメンタルが復調してきたときぐらいから、ほとんど私が一人でやっていた。ちなみに阿須那は私より上手かな。私はあまりお菓子類が上手ではない。味がどんどんおかしくなっていく。どうも計量とかをつい癖で適当にしちゃうところがあって、それがいけないみたい。阿須那はそうはならない。絶対良い嫁になるやつやわ。

私の分、阿須那の分、そして‥‥江崎君の分。

『お姉ちゃん、お弁当作ったんだあ!はりきってくれて嬉しいなあ』

阿須那は私と自分と、女友達のために私が作ったと思っている。


しかし、

真実は、男友達と、阿須那と私のため。

なのだ。この序列も大事である。

(はあ‥‥またドキドキしてきた)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る