運命の人

「いや、まあ‥‥とにかく良い人かな、背が高くて」

「へぇ、背が高いんだ、お姉ちゃんよりもまだ?」

余計なこと言うな私‥‥背が高いとか別にいらん情報やん?

――――いやあ、リアリティあるかなと思って。


「うん、私より背が高いなあ‥‥」

「バレーかバスケかやっていたの?」

「いや、そうではないのだけど‥‥とにかく凄く良い人」

何とか火を消すように持って行く。


「ふーん、でもまあ、お姉ちゃんがここまで勉強やる気出しているって小学生時代以来やから、きっと凄い良い影響をしている人なんだよね」

「そういう友達は本当に大切‥‥」

「え?小学校の時、私勉強してた?」

お父さん、ごめんなさい。遮ってしまった。けどそれ以上に阿須那が私の気になることを言ったから。。。



あんまり記憶がない。どちらかといえば勉強しなくてもできたイメージだったんだけど。

「うん、してたよ。小学校二、三年生の時とか。同い年の子と比較したら断然やっていたんじゃないかな‥‥五年六年とかはまあそんなもんじゃないのかなって感じだったけど」

そうかあ‥‥そう言われてみれば確かに勉強していた気がしないでもない。


なんて言うか‥‥親がしろって言うからしていた的な?けど、親からやれって言われていた気はするけど、それでやっていたのは確かなんだけど、そんなにしていた記憶がないわ。

――――ふーん、やってたんだね、私。


子供の頃の記憶というのは鮮明に覚えていることもあれば、忘れていることもある。一番やっかいなのは、歪んで事実と異なって覚えていることもある。あるいは肝心要なところだけ忘れてしまっていて、辻褄が合わない、ということもある。


「今日も今ご飯食べる前にも勉強していたよね?」

「うん。その人とも帰りにしたし」

多分合計すれば二時間以上はやっている。そして江崎君とだからやり甲斐も凄いあるし、その後一人でやったって楽しいし‥‥

「ところで、その人身長何センチなん?」

「プッ!」

「え?また鼻から?」

「出さねぇわ、そんな毎回!」

私の気管支をなんだと思っているのよ?お笑い専用じゃないのよ!




予定通りご飯四杯食べて部屋に阿須那と戻った。阿須那もちゃんと二杯食べていた。阿須那にしてはたくさん食べた方だ。

ーーーーやっぱあそこのブランド牛は最高にうまいなあ。

あのスーパーだけで見かけるブランドのA四、A五ランクのお肉があるのだ。正直A五まで行くと油が凄すぎてちょっと苦しい。A四でもギリギリ。けど脂から和牛の甘味は凄く感じるから好き。でもベストを言えばA三というのがあれば良いなあ。。。


「当日クラス会のメンバーでするバーベキューはあそこ(今日買って食べた、最近関西にスピード出店して行ってる大型スーパー)のお肉決定ね、連絡しておくわ」

「うん、牛一頭分買っておいて」

私が全部食ってやるわ。冗談だけどね。



「フフフッ、にしてもお姉ちゃん機嫌がいいねえ。久方ぶりに見た」

阿須那は私の勉強机の椅子に腰かけて、膝を立てる。女同士だから少々行儀悪くても気にはしないさ。私なんてビールをナイトテーブルに置き、ベッドにダイブしているんだから。



ああ、その前に少し冷たい空気を入れたかったから、三階のベランダに繋がる大きい窓を開けた。網戸は虫が入ってきたら嫌だから締めている。

かなり湿気を含んだ冷たくも春の陽気も孕んだ、マーブルチョコのような風が部屋の空気を入れ替えてくれる。なぜそんな表現かって?

ーーーー焼肉の後はアイスが食べたい私だから。

残念ながらアイスは用意されていなかったの!どう思う??トホホよ、まったく‥‥

だから阿須那には悪いけど、さらにビールを飲んで誤魔化す。



「嫌なことばっかだったもんね‥‥」

少し酔っているからか、カタルシスな気持ちになる。

「うん、こないだも言ったじゃん。何かお姉ちゃんの最後の方見ていたら、男の人と無理矢理付き合っている感が凄かった。なんていうか‥‥自分を保ちたいためというか、プライドのためというか」

「そこまで酷かった?」

「うん、高二‥‥高三ぐらいからは結構顕著にそんな感じがした。『私に男が居ない期間があってはならない』みたいな」

「そんなつもりはなかったんだけどなあ」

「いやいや‥‥そんな風に見えてたよ」

そんなつもりは‥‥実はあった。



スクールカースト上位者であった私は、確かに男が切れることを嫌がっていた節はあった。選んだ男がパッと見の雰囲気とその場限りの楽しい演出だけが上手な奴で、未来とか、これからとかが全く感じられなくて、私自身警告灯だらけなのに、とりあえず我慢して警告灯を無視して付き合った。

早々と相手が欲しがる私の身体も提供した。けどやっぱり無理な奴らでしかなかった。そして無理過ぎて別れた。

そんなことの繰り返し。

スクールカースト上位者である以上、男が途切れることが稀にあったとしても、ずっといないのは『何か自分に問題があるからなんじゃないか?』と思われるんじゃないか?という気持ちがあった。



だからと言って私みたいに付き合ってはすぐ別れ、付き合ってはすぐ別れを繰り返すのも『難有』な証拠。私はそちら側では少し周囲から蔑まれて見られていたところは否めない。

それでも手前味噌的に、それなりの男(ハリボテ)を自分にあてがって、モテています的な、ちゃんとしています的なアピールをしていたような気もする。


後、予備校時代のは確実に逃げ。その一点。



「もうちょっとゆっくりすればいいのに‥‥って思っていたよ。もうちょっとさ、、、『運命の人』的な人と巡り合うまで」

立てた膝に頭を気怠そうにもたれさせる。

「ああ‥‥うん‥‥」

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