錯乱?

結局、気持ちがブルーになってしまっていて、お昼には言えなかった。

あんなことを思い出して、懺悔しているのに、真逆なハッピーなことはちょっと難しい。



けど、凄く意識している人を誘うってこんなに大変だったのね。よう男子たちはこんな思いを振り切って告白とかするなあって感心するわ。

あ、けど‥‥

意識はしている。意識はしているけど、別にそれと「あの気持ち」が同じと言うわけではない。ややこしい奴と思ってもそれは「意識している」と言えるし。

本当は言おうと思っていた。



そして帰り道。今日も江崎君と一緒。

和井田さんたちは友達と、私たちとは別方向に帰って行った。彼女たちもどこかでお茶でもして帰るのかな。

今朝自己紹介をするようになったから、帰りも顔を見れば挨拶。同じ駅に向かえば一緒に歩くことも今後出てくるだろう。そうなったら二人きりで話すチャンスは少なくなる。


後は阿須那にも報告しなくちゃいけない義務があるはず。とりまとめは誰がしているのか分からないけど、日にちが近づいて来たら「うちは誰と誰で何人だから」は多分言わなくちゃいけないと思う。はっきりさせてあげなければ。。。江崎君も早めに言わないと予定はドンドン詰まっていくだろうし。今日ぐらいが実質最後か?



今たまたま私たちの家の近所にある焼肉屋、焼鳥屋さんでどこが美味しいか話している。

焼鳥は玉出の方にあるチェーン店にたまに家族で行くかな‥‥好きだけど、そんな特別なところは知らない。焼肉はお父さんが好きだから、車で出かけて食べることが割とある。沢之町にある焼肉屋さんが行きつけだ。それかちょっと遠いけど野江内代の方のお店。中高生時代は圧倒的に焼肉の方が好きだった。


一人で何人前食べるの?阿須那と二人で牛一頭食べ尽くすんじゃないかって言われるぐらいに食べたけど、成人してお酒を飲むようになってからは焼鳥がおいしくライトに食べやすく感じる。


思い出したくないグループの話だが、吉川に連れて行ってもらったミナミの隠れ家的な創作鳥料理屋で食べた焼鳥、特に三角の美味しさは凄かった。大きさも半端なかった。コースで食べるところだけどあれだけで後は白いご飯があれば充分だと思った。


なんだろ、チェーン店のも間違いなくおいしく食べれるのだけど、高級鳥料理屋とかで食べる焼鳥は仕入が違うのかな?次元の違うおいしさを感じる。

ーーーーそりゃあお金はただで取らないよね。全く贅沢な知識だけついた。もっと生きるために必要な知識や学術がいっぱいあるのに。



江崎君も家族と東天下茶屋あたりで行きつけの焼鳥屋さんがあるらしい。そこもすっごくおいしくてあんまりお客さんが来過ぎたら困るって感じでやっているところらしい。

江崎君と外食の話ししていると楽しいなあ‥‥食べるの好きだし、自分で作るのも好きだけど、やっぱり外で楽しみながら料理を味わって、大好きな人たちが傍に居て‥‥

あれ?大好きな?‥‥いやいや、友達として‥‥ね。友達でも大好きってあるから。

あ、そうだ、花見だ‥‥花見‥‥言わなくちゃ。



もう駅が真っすぐ斜め上の方角にグレーな表層を、どんどん大きく見せている。近づいてきているんだ。いつもの喫茶店ももう看板が見えている。雲は分厚く風は朝より冷たく何となく湿気を孕んでいる。雨の臭いがする。どこかではもう降っているのかな。きっとここらへんも降るのかな。

ーーーーだとしたら降っていい‥‥もっと江崎君と居れるのなら。私はそっちを選択する。


アハハ‥‥何ドラマみたいな台詞思ってんの?もう恋愛なんて腐るほどしてきたのに。

急にドキドキしてきた。心拍数が上昇していく。耳が熱くなり、少し息も浅く早くなる。


そしてなぜ、「一緒にお花見にいこうよ」だけが言えないの?

ホント、いい男って困る。出会ってきた男たちと別の部分で困る‥‥


まるで少女に戻ったみたいな気持ちにさせられてしまう。けどこの困惑はきっと私を生まれ変わらせてくれる過程なんだ。そして「女」で生まれてきて良かったと、思える困惑なんだよ、江崎君。


話はまた今日の簿記のところに変わって行っていた。



心臓が飛び出しそうに跳ねる。情熱と義務感の入り混じった良く分からない切羽詰まった威力が条件反射的に言葉として口から溢れ出る。



「私(と)錯乱したので(桜の下で)妹と一杯飲んでくるわ!(私の妹と一緒に一杯飲まない?)」

「へ?角谷さん、今日の授業で錯乱したの?」



私の頭の中で噛んでしまったのか口から出た文章がおかしな事になってしまった。


簿記の現金過不足勘定が折り重なって、また出たか、ああこっちも修正、あっちも修正、ああ!!もう!!

確かに錯乱している私が頭に容易に浮かんだ。今まで恋愛に慣れ過ぎたぐらいに慣れてしまっているのに、しかも今回伝える練習までしていたのに‥‥桜を錯乱と噛んでしまった私は、頭の中カオスモードに突入。



「妹さんと飲みに行く前に、錯乱しているんだったらちゃんと整理しておいたほうがいいよ。今日もちょっと寄って行こうか」

「あ、でも桜‥‥」

「錯乱しているなら、簿記はちゃんと整理して理解したほうがいいから」

「はい‥‥」

本当に錯乱し始めていた。


江崎君と一緒に居たい。ドキドキする鼓動が温かくてもっと感じていたい。花見のことは伝えられていないから、今日中に伝えたい。でないと阿須那に悪い。授業は難しかったけど分からないわけではなかった。でも理解を深めるにはまた江崎君との時間はとてもいい。


色んな想いのミックスジュースを飲めば、「ついていきます」という点だけは、ただの一択しかなかった。

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