誘い文句がだいたい決まりました

和井田茉優(わいだまゆ)。私より一個下。

一応大人なので、というかそんなバチバチと闘志を剥き出しにすることもない。表向き仲良くしておくこと。中学生や高校生の時みたいにスクールカーストが背景に存在するわけでもないし。


――――個対個なので争わないのがベスト。


あの後、建前上の教室に入るまでの間、簡単な自己紹介。

彼女は去年医療事務のコースで資格を取得し、最後に私たちのいるコースで簿記二級とビジネスマナー等を学び、就職あっせんを受けて、来年の三月に卒業らしい。


予備校などどこにも行かずにそのままダイレクトにこの専門学校に来たらしい。

かかとのあるミュールを履いているから背が高くなっているけど、多分脱いだら私よりはもっと低い。でも今時女子としては一番ちょうど良い身長だろう。メイクのせいでもあるが、たとえとったとしても目鼻立ちがはっきりとしていて、輪郭も美しい。


そしてブラウスの上からでもしっかりと分かるぐらいの双丘の稜線。豊かな胸元をしている。それでいて太っているわけではなく、顎もきれいなラインを描き、ブラウスとスカートの変わり目にあまり余分な膨らみは感じさせない。




まあこの辺りは同じ女子としては、脱いでみないと分からないけどね。胸のサイズなんて作れるしね。

昔、高校の時に居た。プールで水泳の時間はこのサイズ(多分A)なのに、着替えて制服のブラウスをきればこのサイズになる女子(D~Eぐらい)。

そのくせ、口癖のように、「あの先生ズラやで、あの先生ズラ、アハハハハ、ズラ!」とあちこちで言いまくってた。


確かにその先生は本当にズラだったけど。じゃあおまえのおっぱいはなんだったんだ?と思っていたのは私だけではなかった。女子同士でも口に直接出して本人には言わないだけ。影で何言っているか分からない。




そんなことはさておき、和井田さんは割と言いたいことはハキハキという感じ。良く言えばさっぱりと、悪く言えば好戦的。やっぱり私の予備校行きたてぐらいの時のイメージかな。多分いつか‥‥

――――江崎君のことで、私に言ってくる日が来る気がする。




「ねえ、花見行かない?」

「ねえ、桜好き?」

「ねえ、今度妹が元々学校の生徒会やっていたんだけど、そこの面子と友達だけじゃなくて親とか兄妹も呼んで、花見するんだけど、江崎君も来ないかな?」



三つ目は確実に噛んでしまう。言う順番もマチマチになりそうで覚えてられない。

やっぱり短い奴を切って切って言う方がいいのか?


「ねえ、桜好き」「きれいよね」「今度花見するんだけどいかない?」「私の妹が前の学校の生徒会のメンバーとやるんだけど、そこに呼ばれている」‥‥桜好きって言われて好きって男子いるかな?桜‥‥花なんてあんまり興味がないかも。


じゃあ、桜の下でいっぱい(お酒を)やるのは好き?とか。私と同いだからもうお酒も飲んでいるんじゃないかな。あの細い体型は絶対に酒飲みだと勝手に決めつけている。で、


「江崎君、私と桜の下で、妹交えてお酒いっぱい飲まない?」


おお、これならギリギリ言えそうな質と量だ。で、そこからきっとなんで僕を誘ってくれるの?って来るから、その時は、

「妹の生徒会の集まりで、親や家族や友達呼んでやろうってなっているんだ。だから誰を呼んだっていいの。せっかくだからいつもお世話になっている江崎君に来てもらいたいなあと思って」



これでいいよなあ、よし、これで決まりで。


「江崎君、私と桜の下‥‥私と桜の下で‥‥」



授業中、誰にも聞こえないぐらいの小声で練習を開始した。


一方授業は「現金」をやっていた。

結構「えーそんなものまで現金なの?」ってのがある。例えば小切手。あれは自分が振り出した小切手は「当座預金」勘定なのに他人から振り出してもらった小切手は「現金」で仕訳を切る。これは銀行に持って行ったら手形と違ってすぐに現金化してくれるからだそうだ。ほか、その受け取ったお金が小切手で『すぐに銀行に持って行きました』というのもある。そうなると現金勘定で処理はせずに、すぐに当座預金のある銀行に行ったのだから<当座預金>とするらしい。


実際は現金化するのは数日かかるけどね。あとは郵便為替証書とかもそうらしい。見たことないのでさっぱり分からないけど。


あと、「現金」でも「当座預金」でもあるのは決算時に何らかの理由で、現金なら現金過不足が発生している、当座なら銀行から発行されてくる残高証明書との残高が合わない、という事態が発生する。これらを修正しなくてはいけない。


現金過不足は期中処理で、足りなければ、


<現金過不足>×× /<現金>××


と処理し、多ければ、


<現金>×× /<現金過不足>××


と処理する。

決算時にはこの「現金過不足」という勘定科目は使えなくて、<雑損>か<雑益>という営業外の項目に振替える。


別に難は無いように思えるが、これが重なると結構ややこしいことになる。

後から、あの時通信費を支払っていたとか、後から、販売費を支払っていたとか、後から旅費交通費を支払っていたとか出てくると、ただ現金過不足勘定が減っていてはっきりしてきたなあだけでは済まず、現金勘定の残高はどんどん変わっていくし、さらにはその理由の部分、通信費だったのか、旅費交通費だったのか、販売費だったのかの『何だったのか?』の相手科目の残高も変わっていく。


そこにさらに決算当日、当座預金に預入に行って、報告記帳を忘れてました。とか出てくる。そんな大事なことを忘れるなよと言いたいけど、人間何を失念するかは分からないからなあ。



とまあ、ある程度慣れるかしっかり覚えていないと、あるいは金額の変化を細かく勘定科目の金額の横にでもメモって行かないとミスってしまうところでもあるなあ。そして単純な計算の積み重ねだから失点してしまうのは勿体ないところ。

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