朝も逢えたら‥‥
とりあえず誘うが絶対。
今日は阿須那が学校は昼からだと言うので登校は私一人。
いいなあ、道楽な妹よ、大学生活はこういうのができるからなあ。
昼から登校??あなた様は何様ですかー??
未来の学士様になれなかった私は今日もおずおずと定時登校‥‥ではなく、いつもより二十分ほど早い。
というのは、朝から江崎君と逢いたいから。ちょっとでも長い時間を過ごして「言えるチャンス」を模索したい。よって本日はいつもより早い‥‥んだけど、そんなに早起きが得意なわけではないし、お弁当作りとか髪の毛をセットするのとか、やるべきことは結局同じだからいつもよりかなりタイトだった。朝ごはんあんまりちゃんと食べられなかったなあ‥‥
江崎君は前に言ってたけど、
――――僕、実はお腹が弱い。
そう、江崎君はお腹があまり強くないらしい。だから数本早い電車に乗っていくらしい。
そうすることで、途中催しても、下車して済ませば良いだけだし、朝早い方がトイレも満員になっていることが少ない。それは女子も言えることだ。女子はあまりお腹が弱い子っていなくてそっち方面は男子に比べたら強い子の方が多い。けどさすがにハブターミナルになる駅のあのトイレの混みようは壊滅的だと思う。並んで用を足すだけで遅刻しそうになる。
ところで江崎君‥‥お腹弱いことをカミングアウトした時、ちょっと恥ずかしそうに・・・・カミングアウトしやがったなあ。
そんなこと恥ずかしがることはないよ、男子は結構お腹弱い子が多いんだから。
と、慣れ合った関係で言ってあげたかった。
もう社会人になったんだから、突然の便意は仕方ないもの。一緒に居ても私は気にしないから安心して私の傍に居なさい‥‥何なら私がティッシュとかハンカチとか多い目に持っていてあげてもいいよ。女子は必要があってそういうペーパー類は色々普段から持っていて、それ専用の小袋とかもあるし、多めに入れるているのも問題ないのよ。
なんて、これもよく言う「男を掴むなら、まず胃袋を掴め」の一つなのかな?と拡大解釈的に考えたりもする。
胃ではないか‥‥腸か。
けどそれがスクールカーストに縛られている時代なら、確かにその地位を上下しかねない。ましてやひょっとしたら『団体行動中に洩らした』なんてことがあれば確実に地位陥落。二度と這い上がれないだろう。地位を上下しかねない危惧のある男子は女子に選ばれにくいのは事実である。そういう意味では彼は『モテなかった』という可能性はあながち『有る』のかもしれない。勿論そこだけでモテなくなることはないと思うが。
朝から何を考えているのやら‥‥
けどまたチャンスがあればその辺聞きたいなあ。
江崎君が言うように、本当にモテなかったとしたらその原因が知りたい。私の気持ちが日に日に、どんどん肥大化して行ってるから。もっと先でモテない理由が分かり、さすがに受け入れられないことだったと知ってしまったらショックが大きすぎるから。そうなる前に。。。
だとしたら余計にこの花見はチャンスかも?!
早く出たからと言って朝の通学路で会えるなんて保証はない。現に路面電車で会えなかった。そうなると地下鉄になるけど、あれだけの車両数があって、早いとはいえめちゃくちゃ早いわけではなく、出社早めのサラリーマンたちはもうたくさん乗っているし、この状況では会えることはちょっと難しいかなあ‥‥
結局狙い通りには行かず、専門学校の最寄り駅までついてしまった。
――――そんなにうまく行くわけないやん。
少しがっかりしながらも、連絡先を交換して待ち合わせして行く訳でもないのだから至極当たり前の結果に苦笑いを浮かべて電車を降りる。
グレーのコンクリートのプラットホームから、階段を降りて行き、改札へ‥‥あれ?
ICカードが入っている定期入れが出て来ない‥‥。
まださほど流れができるほど人の数がいないので、階段の中腹でそのまま鞄の中を探る。たまにいつもの場所に入れたつもりが、あまり確認せずに入れてしまって、中で場所が微妙に変わってしまっているときがある‥‥しばらく探って‥‥あ、あった。
まあまあ時間を食った。またバッグの中だと土壇場で分からなくなる可能性があるので、手に持つ。
再び階段を下りて行く。
少し先で反対車線のプラットホームから降りてきた人たちとの合流。
もうほとんど人は居ないけど‥‥あれ?
――――あの子は確か‥‥和井田さん。
少し前、合流ポイントを通過し、改札へと向かうあの子。今日は赤いブラウスでボタン周りにフリルがついている。腕には黒の薄手のパーカーが大きめの革のトートバッグから顔をだしている。多分寒くなったら羽織るんでしょう、この時期温度調整は必須だから。下は黒のタイトロングスカートで裾だけがフレア、足元はスカートと同色のミュール‥‥はっきりいって格好良い。多分十九、二十歳なんだろうと思うけど、服装とメイクのせいで、もう少し上に見える。本町あたりをOLさんたちと混ざってキャリアウーマンとして歩いていてもおかしくない。
自信満々なんだろうなあ‥‥
かつての自分を思い出しそうになっていた時――――
あれ?
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