花見はいかが?

「そろそろ花見行かないと散っちゃうね」

阿須那の言うことはもっともだ。『四月は花見の季節だ』とか言うけど、早咲きの年なら三月下旬がピーク。前に一度学校の男子たちの誘いで四月の中盤か後半に『お花見兼バーベキュー』を緑地公園でやったことがあったけど、はっきりいってただの合コンの規模が大きくなったようなもんだった。桜なんてなくて、青々とした葉っぱばっかりだった。多分男子は出会い目的だったと思う。



五月の桜で葉ばかりさま‥‥ご苦労様ですって意味らしいよ。

あの時は男子が多すぎて、入れ替わり立ち代わり寄って来られたので誰が誰なのか分からなくなった。そうなるともう仲の良い女子とばっかり話していて、男子が来たら表面上仲良くだけして、盛り上がったらアプリ交換して‥‥でも後で誰だっけ?もういいや。。。ってなる。

――――本当にご苦労様でした、だ。



「そうね。今年はまだ散らないで残っているほうだよね」

魚を焼いた後の生臭さが少しだけ。あんまりにおいの強い魚じゃないし、換気をしていてもあのにおいはなぜか残る。けどそれ以上にバターが焼けたおいしそうな香り。

舌平目のムニエルを食べながら、昔の花見?を思い出していた。


しっかりと表面に焼き色がついた白身は、中がホクホクで塩の味が少しだけする、塩控えめテイスト。その代わりにレモンソースが塩味の薄さをカバーしてくれてちゃんと味覚に訴えかけてくる。ご飯が進むぜ。


大食漢は男のことだけど、じゃあ、私は大食女?健啖家ということにしておこう。油断するとご飯男性用の茶碗に三杯は行く。漬物に高菜もあるからこれは絶対に行くわ。

――――今日の晩御飯は当たりやー!

「花見行く?」

「うん、行く」

「ワオ。二つ返事。お姉ちゃんアクティブ!」

「へ?‥‥今ってご飯とおかずの話じゃあ?」


ご飯三杯行くか?じゃなかったっけ?


「何言ってんのお姉ちゃん。私は今、高校の時の生徒会のメンバーで花見があって、他にも友達を自由に呼んでいいことになっているから、良かったらお姉ちゃんもどう?って話よ」

呆気にとられた私に、訝し気に阿須那が違うでしょと指摘してくる。

「昔からそういうところあるよね~」

とお母さん。


とりあえず二杯目おかわり。お茶碗を渡す。

「食べっぷりが気持ち良いけどな」

とフォローしてくれるお父さん、ありがとう。

だけど、

「それ、私なんかが参加していいの?同い年ばっかの友達じゃないの?」

「ううん、お父さんお母さんや姉妹やその子供さんとかも連れてくるよ。生徒会の子らだし、お姉ちゃんみたいなパリピはいないから」

「パリピちゃうし‥‥」

ご飯をお母さんから渡され、ちょっと口先を尖らせてから、高菜をアツアツのご飯に乗せて食べる。



そう言われたらパリピかもね。あの最悪の男・吉川といる時は確実にパリピだったと思う。派手な服着て、クラブのVIPルームで仲間たち?とシャンパン抜いて、爆音に縦ノリで飛び跳ねて‥‥

そりゃあ少なくとも阿須那と比べたら、吉川といる時じゃなくても『パリピ』には見えていたかもしれない。生き方や振舞いは派手だったと思う。



今となっては調子に乗っていた落ち着きのない様が恥ずかしい‥‥

「専門学校行きだしてからめっちゃ勉強しているよね、たまには息抜きもいいんじゃないかなって」

そういえばまだ四日しか経過していないけど、江崎君とお茶しながら勉強している時間も入れたら、十五時間以上‥‥しているかな。まあそれは予備校時代の私から比較すると『楽しくなって来たからしている』ということなんだけどね。

「息抜きかあ‥‥」

楽しいから息は抜かなくていい。けど阿須那は嫌味もいうけど、素敵な提案してくれる子だ。


「俺たちは予定があって行けないけど、亜香里、行ってきたら?」

でも、もう一つ問題がある。最大かつ最強の難問、それは‥‥お金だ!

「ああ、ちょっと待ってて」

お父さんは察してくれたのか一時退室。そして戻って来た時に私に渡してくれたのは、



――――五千円札一枚。。。

微妙‥‥一万円じゃないのかよ。。。



いやまあ、でもジリ貧の私にとっては、この臨時収入はめちゃありがたい!

「ありがとうお父さん」

「じゃあ、これで参加でいいね?」

「うん、よろしく」

阿須那の確認に、参加の意志を表明した。

きっとライトな集まりなんだろうと想像できる。私はボーッとして桜や周囲の風景を眺めて、たまに阿須那や阿須那のお友達らとちょっとだけ話して、自分で買って行ったサンドイッチとビール片手にゆるーい感じの花見。今の私には良いなあ‥‥



あ、節約したら、江崎君に何かお返しの品、買えるんじゃないかな?

あ、それ良いかも。あんまり節約しすぎて周りから浮くのは良くないけど、そこそこ程度になら節約して、何かお返しのアイテムを買おう。



ご飯二杯目終了。予定通り三杯目をいただくために、お母さんに茶碗を渡す。

「すごいなあ」

「大物やなあ」

両親ともに驚嘆している。


食べれるんです、お腹空くんです、代謝が良すぎるんです。


「お姉ちゃん、最近仲良くしている専門学校の人も連れてきたらいいじゃない」

「ブッ!」

また突然こちらの患部をいじるようなことを言うから、咽せて口の中のご飯を吹き出しそうになった。

「ちょっと!‥‥今度は鼻からお米?」


毎回そういう芸ができるとでも思っているのだろうか――――

「今度はセーフや!」

そんな毎回鼻から出せるほど私は芸達者ではない。


「替え歌の人じゃなくて、鼻から豆飛ばす芸人さんもおったなあ」

「越路吹雪さんの『ろくでなし』歌いながら?」


お父さんとお母さんのやりとりの後に、私以外の家族一同が全員私を見る。

ああ、この家の中で、私のイメージてあんな感じなの?

話元に戻して‥‥

「そんなん‥‥絶対来てくれへんわ」

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