曲者、発送費・前払金・前受金

ここまでは良かった。

江崎君から教えてもらっていたから全然抵抗なく、サクサク頭に入った。

しかし、ここからが曲者どもだった。



ところ変わって家で復習中。三階の私の部屋で、空気を入れ替えるためにベランダへと続く窓を開けて、「桜まじ」を全身で感じている。

阿須那が洗濯物を今日は少ないからと言って全部入れて、たたんでそれぞれの主ごとにわけてリビングのソファーの上に置いておいてくれた。私は晩御飯までなにもしなくていい。出来た嫁である‥‥嫁じゃないか、誰の嫁やねん?てなるけど‥‥それなら私だ。


だから阿須那をたぶらかす男は許さない。阿須那には付き合う前には必ず私に相談しなさいと言っているが、「お姉ちゃん失敗ばっかじゃん。あてにならない!」と疎まれている。ショボーンだけど負けない。「いや、そうじゃない、遊び目的の身体目的の男を何人も経験したから特性が分かる!」と胸を張って自分の優位性を主張するものの、「何人も経験していて、それ?」と言われて愕然としている。それでもめげない。阿須那の貞操は私が守る。あとそれと、あんまりわき目を振らずに幸せになってもらいたい、それが一番かな。



さて、純粋でちょっと小悪魔的要素のある愛しいあいつを思い出したところで、頭がすっきりしたからこの簿記の『曲者』どもの復習をもう一度しよう。



発送費‥‥こんなことあるんか?ってパターンがあるんだけど‥‥。


まず私が二〇円仕入れて、発送費一円を私持ちで、現金で払いますのパターン。これは「仕入」に全部込める。「仕入」という費用の一環なんだ。これは分かりやすい。仕入にかかった費用なんだから仕入とするのは理にかなっている。だから、


<仕入>二一 /<現金>二一


分かりやすい。けどボーッとしていたら<仕入>二〇 <発送費>一(いち)にもしかねないところではある。


で、こんなことホンマにあるんかな?って思うんだけど、一応パターンとして、

発送費を一旦私が立て替えて、後で返してもらうパターン。送料無料の通販をしたことがあるけど、そんなことは一度もなかった。なので実感がないけどまあ一応。


これは「立替金」勘定を使う。


<仕入>二〇 <立替金>一(いち) /<現金>二一


後で立替金を返してもらう。


そして私が掛けで二〇円売って発送した際、発送費一円を私が現金で負担する時、


<売掛金>二〇 /<売上>二〇

<発送費>一(いち)/<現金>一(いち)



相手が送料を負担してくれる時は、

<売掛金>二〇 /<売上>二〇 

のみ。私が一円立て替えるのなら、

<売掛金>二〇 /<売上>二〇

<立替金>一(いち)/<現金>一(いち)




前払金て‥‥前払費用って書いているところあるよね。後々は前払費用として出てくる方が多いとか。。。

――――なんで『資産』勘定やのに「前払費用」って『費用』ってつくんじゃい?!って。

前受金も‥‥前受収益と出てくる事の方が多くなるらしい。収益なんて書いてあったら「収益」勘定やと思うやろうがい?!なんで『負債』勘定やねん?!て。



というのは先に費用を払うという義務を果たしているよねってところで、資産。


先にお金だけもらっちゃった。わあ、義務を履行しないとえらいことになるぞ、という意味で負債なんだそうで‥‥江崎君から教えてもらった。


ええっともっと具体的に言えば、私が絶対仕入れて売りたい商品があります!もうとにかくうちが一番に仕入れて売るんじゃー!!お金は先に手付だけつけたるわ!と、商品全体の額は六〇として、一〇だけ先に現金渡してきたよ、とする。その時は、


<前払金>一〇 /<現金>一〇。


となる。

で、実際に商品を掛仕入したときに、


<仕入>六〇 /<前払金>一〇 <買掛金>五〇。


と、仕分けを切って処理をする。

これ、立場逆で、私に誰かが「おたくの商品を絶対誰よりも先に売って欲しい」と言われて、お金を置いて行かれた際は、


<現金>一〇 /<前受金>一〇。


そして掛け販売したときは、

<売掛金>五〇 <前受金>一〇 /<売上>六〇。


と、仕分けを切って処理をする。



なるほどなるほど‥‥先に与えているんだね。あるいは先に受け取っちゃっている、かあ。


そう言われれば、さきにこっちが与えるもの与えているのに、ちゃんと義務を履行しない男たちが多かったよなあ、、、思い出したらイライラしてくる。

あいつらは「自分らの私に対する(勝手な)負債を払わずに終わった、というか私が損切りした」ということか。ということは私からすればちゃんと費用は前払いしていた。つまり奴らにちゃんとしてもらう「前払費用」を持っていたといえる。


なるほど、そう考えれば、おい、おまえら、ちゃんとせいよ!と言うことができる、資産勘定なのが分かる。


逆に私の親からすれば、私が立派に思った大学へ行ってくれるだろうと思って予備校の費用を投資し、その他諸々、日頃のご飯代やら衣類代に至るまで出してくれた。制服を着なくなったら服はたくさん要るようになるしね。


その辺私にしたら親の心の前受収益。

晴れて合格したら‥‥責務を果たしたはずなのに。。。そう考えたらこいつはなかなかえらいこっちゃな負債勘定だわ。ちゃんとします‥‥そのうち‥‥はい。

ちょっと自虐的に自分の黒歴史を考えると、私の場合は理解がしやすい。

この程度なら、まだ分かるのだよ、この子たち。

ここに決算整理仕訳が入ってきたら、これが超ややこしくって一級目指す人でも間違えることがある問題が起きる。



たとえば保険料。必ずしも期首に保険に加入して、期末で保険終期を迎えるなんてあり得ないでしょ。×六年八月一日に二年分の火災保険に加入し、火災保険料を前払いしたとするよね。この保険料が四八、〇〇〇円やったとする。


決算は三月末。となると今期費用として計上するのは×七年三月末までの分。それ以降の分があの「前払費用」となる。今期保険料として計上するのは、


四八、〇〇〇円×二十四か月分の八か月=一六、〇〇〇円。

一六、〇〇〇円でそれ以外の三二、〇〇〇円が「前払費用」である。

つまり保険料を支払った地点で、当座預金で支払っていたら、


<保険料>四八、〇〇〇 /<当座預金>四八、〇〇〇。


それを決算整理で、繰延処理を行う。

通称『くまのみみ』というそうだ。繰延は、前払、前受(く、ま)と、見越は、未払、未収(み、み)


保険料から、来期に費用配分される分を繰り延べる。それがこうだ。

さっきの「それ以外の三二、〇〇〇円」をこうする。


<前払費用>三二、〇〇〇 /<保険料>三二、〇〇〇。


差し引き、当期の保険料という名の費用は、一六、〇〇〇円となる。


あと、ここでは割愛するけど、流動資産と固定資産という考え方があり、決算日から翌年の決算までで処分してしまう資産は流動資産、それより長期間になるものは固定資産として、投資その他の資産の項目にくる。一応記しておくと


<前払費用>二四、〇〇〇 <長期前払費用>八、〇〇〇 /<保険料>三二、〇〇〇。


江崎君に教えてもらったけど、彼もここまで頭が回るようになったのは多分年単位での時間がかかったらしい。


あと、実務ではほとんどしない。

よっぽど大手で高額な保険料を期間で分けることに意味があるようなもので無い限り、ほとんどの中小企業は、


<保険料>×× /<当座預金>×× (口座振替の場合)で終わり。

そりゃそうだと思うわ。。。。



あと、段々と積み上げて行ったら、問題で問われるのはこの「決算整理事項」というところになるらしい。ここが本命みたいなところやから、そこに至るまでに、今学んでいるところをしっかり踏み固める必要があるんだって。



江崎君‥‥ホンマにありがとう。助かる‥‥天使やわ。

本人は居てないが、完璧にできた復習用の問題集を再度眺めて心の中で呟く。

そして、さっき開けるために使った家の鍵を出す。。。江崎君の組紐‥‥私の家のキーホルダーにしちゃったよ。お揃いのキーホルダーだよね‥‥そのうち、鍵も一緒にしちゃう?

「アハハハ‥‥バーカ、私」

また自虐的に独りごちる。


そんなこと、できるわけないやんか‥‥

でも、触って、少し握って、見ていると、にやけてしまう。

――――彼は何しているんだろう、今。自炊、、、してるのかな。

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