三分法

香ばしい珈琲の香りで、気持ちが安らぐ。

この安らぐ香りを利用して、勉強への習熟度を高めて行く。

今日のところは、こないだの簿記一巡と違ってまだ分かりやすかった。


――――いや、やはり曲者的なところもあったなあ。


それとまあ、一応は土日にそれなりに復習した。この復習したときに江崎君に教えてもらったことや、ちょっとした余談の部分とかが簿記学習にリアリティをもたらしてくれて習得の効率が良かった気がする。覚えなくていいと言われた五大要素たちの勘定科目も、有名どころは暗記した。一応何が左に入って、何が右に入るのかだけは最初だけでもきちっと抑えておきたかったから。あんまり意味は無いのかも。けど私自身が江崎君のおかげで学習に余裕があったし、暗記してみたかった。こんな気持ち、小学校の時以来かもしれない。



三分法と言うのは、商品の仕入・販売の処理を、『仕入』『売上』『繰越商品』の三つを使って処理していく。


仕入れた時は原価で、例えば五〇円、現金払いだったとしたら、


<仕入>五〇 /<現金>五〇


意味としては費用勘定の「仕入」が五〇発生し、

元からあったであろう資産勘定の「現金」が五〇減った、と解釈する。


ここがお金を支払っていなくて、後払い方式だと、例の買いかかっているの『買掛金』。商品だけは仕入れてお金はまだ支払っていないから、商売の哲学としてはまだ未完成なのだ。


で、その商品の一部分を一五〇円、現金で販売したなら。


<現金>一五〇 /<売上>一五〇


資産勘定の現金が一五〇円加算、収益勘定の売上が一五〇円加算。

<商品>という勘定科目はなくて、<繰越商品>しかない。



どうして商品の在庫を把握するんだろうと思いきや、それは補助簿の『商品有高帳』に記載して把握。すみません、早合点‥‥落ち着きます。


在庫の管理や何個いくらで仕入れて、何個いくらで販売したかの詳細な受払記録はそちら。こちらはもうちょっとざっくり会社単位で見るイメージ。何を見るのか‥‥商品の原価である。売上に対して原価が把握できていないと、それは商売とは言えない。原価が分かっていて、『さて、なんぼで売ろうかな?』だ。さらに言えば送料や様々な手数料まで加算していかないと、これまた赤字になる可能性がある。


「これ、どうやって原価を把握するの?」


まだ習っていないところだったけど、江崎君は『まだ早い』とか『おまえはまだ分からなくていい』など、ぞんざいな態度は一切なく、優しく丁寧に教えてくれた。

前期からあった<繰越商品>を<仕入>勘定に持ってきて、当期末で売れ残った在庫を仕入勘定から繰越勘定に振替える。


通称『しーくりくりしー』だとか。なんだそりゃ?


仮に前期の繰越商品が一〇だったとしよう。そして当期が一五売れ残りが発生し、当期繰越商品が一五だったとする。難しい話をすれば棚卸減耗損(あるはずの個数が無くなっていて、あるいは多くあって在庫数に差異がある)や商品評価損(扱っている商品がトレンド落ちなどで売っている値段では売れないどころか、原価割れしてしまっている)もあるけど、それは今は割愛。


さっきの仕入れた五〇だけが当期の仕入の全部だったとして、


期首繰越商品一〇+当期仕入分五〇ー当期在庫分一五=四五。これが原価となる。


期首繰越勘定から仕入勘定に、一〇持ってきて当期の仕入五〇と足し、当期末地点で在庫になった一五を繰越商品勘定に移動させる。


販売もあの一五〇の分、一件だけだったとして、

で、原価は四五と分かった。原価四五だった当期の商売を売上で見れば一五〇で売っている。原価率三割。まあまあいい商売じゃない?


ということは、、つまり期首繰越商品は決算整理前試算表の段階では、期首の在庫金額を指している。ここは商品有高帳と違って動かないんだ。そして『しーくりくりしー』つまり決算整理をしてからやっと金額が期末のものになる。今の段階ではまだ『そうなんだ』程度でいいと江崎君は言うけれど、これ、何かの役に立つかもしれないなあ。



あと、たまにひっかけで、『原価率』『利益率』を訊いて来ているのか『値入率』を訊いて来ているのか、というのがあるらしい。まあ、あんまりそこまではこの時点では訊かれないかもしれないけど、知っておいて損はないんだって。


一五〇だと分かりにくいから、ここは売価一〇〇円で。後、原価は八〇円で。嫌な商売やなあ‥‥原価率八割って。これって利益率で言えば二割。二〇円。



ところが『値入率』で訊かれると、原価に対して何パーセントの上乗せをすれば一〇〇になるか、ということになるので、原価の八〇から見る。利益の二割を乗せれば良いのかと思って一、二倍しても九六円にしかならない。そう、値入率と訊かれれば、二五パーセントとなる。



この辺りで私の頭の中は、今のこの状況下で言えば、飲めないレベルの熱々ホットコーヒーのようになり、昨日の阿須那に乗せてもらった自動車で言えば、オーバーヒートランプ点灯で、オーバーヒート寸前。エンジンがもうシュンシュン言ってるよ、シュンシュン‥‥。


きっと頭から煙が立っているであろう私、白目を剥いてお口ポカーンになっているであろう私に、江崎君は電卓で実演してみせた。

そう、見える化してくれたら実は簡単なことだった。八に一、二かけても、〇、八が二つの一、六なんだから、一〇にはならないんだ。

あ、そっかあ。一、二五にしないと、一〇にはならない。



原価を『一(イチ)』としているんだ。



これが問題として出るなら、売価は原価の二五パーセント増しで設定されている。売価は一〇である。利益と原価を求めよ、と来る。


これを売価かける二五パーセントとすれば大きな間違いだ。利益二、五ではない。

この場合、一〇かける一、二五分の〇、二五としなければいけない。それで二と出る。これが利益。原価はその差分。原価だけ求めたいなら一〇割る一、二五でもいい。



これを値入率、あるいはマークアップ率、と呼ぶらしい。

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