私は衝突安全ブレーキレス仕様パート2

「洗濯や掃除は全部自分でするんだけど、、、料理はね‥‥一応自炊はしているけど‥‥今日はちょっと面倒だなって時には実家に帰って、晩御飯が同じタイミングだったら食べさせてもらうか、あるものを適当に漁っている。めっちゃ甘えているよね」

「ううん、そんなもんだよ。私もここ最近だもん、こんなお弁当とか作るようになったの」

その通りだ。がっつり家事はできるものの、昔は気が向いたらしていたぐらい。ここ最近はお金が無いから必要にかられてやっている。

しかも前日の残り物だから、前日はお母さんが作ったもの‥‥そこに冷食プラス。。。恥ずかしい。



「いやあ、僕なんてとりあえずネットで何か興味ある料理見て、レシピ見て、『あ、これなら作れそう』って思って、それで作って‥‥後の残りをどうアレンジしていいか分からなくて、全部雑炊、とかだよ。たまにとんでもない味する雑炊ができてしまう」

全部雑炊って、やるなあ江崎君。若者なのに渋い!


ちょっとだけ固くなって卑屈になっている自分が溶けた気がした。わざとなのか、わざとじゃないのか分からないけど、ステキな王子様なのに、凄く庶民的な日常の一コマのような話しを持ってきてくれるのがたまらなく温かくてほっこりしてしまう。

だからついつい‥‥


「アハハハ、江崎君それおもしろい。でも私も似たようなことしたことあるよ」

「どんなの?」

「冷凍のそばめしが残っていたの。後、冷凍のえびピラフも残っていたの」

これは私の引きこもり時代の実話だ。いい加減なものでちょっと元気さが上向きだしたら、お腹が減る減る‥‥元々大食いだし。で、その日に限ってホント冷蔵庫に何もなくて‥‥

「うんうん」

「そこに冷凍してあった残りの白ご飯もあったの」

「アハハハ、何となく分かった」


「分かった?全部解凍してフライパンで混ぜて食べたのよ」

「やっぱり」

嬉しそうに笑ってくれる。


「どうだった、味は?」

味はね、そりゃあもう、

「めっちゃ薄味のカオスよ」

今度はさっき以上に手を叩いて笑ってくれた。



ええーい、じゃあ冷蔵庫失敗ネタのとっておきを話してあげよう!出血大サービスよ!

もっと小さい頃の話。朝ゆっくり目に起きてきて‥‥多分週末だったかな。たまたま誰もいなくて、

「とにかくお腹空いててね、冷蔵庫開けたら目の前に銀紙に包まれた物があったのよ」

「それってチョコレート?」



「ううん、食べたらカレーのルーだった」



「食べたのかよ??」

「おもいきり齧ってしまって一部飲み込んだ」

そうよ‥‥どこのメーカーのかは知らないけど。だって冷蔵庫で銀紙に包まれているとなったら、普通は『あ、チョコレート誰かが食べ残してある!』と思うじゃない?けど、銀紙に包まれた食品は何もチョコレートだけではないということに頭が回っていなかったのよ。それからはカレーのルー、小分け包装になってしまってあんまり見かけなくなった気がするけどね。

「アハハハハハ!」

道端で声をあげて笑ってくれた。

「角谷さん、めっちゃ面白い人やねえ、いやあもっとクールなんかと思った」

ギクリ‥‥クールな方が良かったのかな?


でも私、クールなキャラってあんまり持ち合わせていない。スクールカースト上位時代は勝手にクールに仕立てあげられていた、という時はあったけど。。。


「良かった。こないだはもっとクールで、私のことにはあんまりかまわないでって感じが、何かチラチラしていて、ちょっと不安だったんだ。ホラ、僕って既に知られていると思うけど、そんなに女性とのコミュニケーション上手くないでしょ?」

――――女性とのコミュニケーションがうまくない??いやいやいや、ありえないんですけど。

「凄く上手いよ?感じがとてもいい」

「全然ダメなんだよ、慣れてないっつうか、慣れないし‥‥」

御謙遜!もういいって!

「普通に喋れてるよ」

普通以上に喋れているよ‥‥私なんてヤバイもん。ヤバイヤバイ‥‥



あれ?‥‥あのオフショルダーの子。。。もっと前歩いていたのに、何かいつの間にか近くなっている気がする。気のせいかな‥‥この距離だったら会話が聞こえちゃうかも。

こないだと違って一人で歩くあの子との距離感に少し違和感を覚えた。

「だから、角谷さんがクールじゃなくて良かった。フランクな人の方が僕にとってはありがたいんだ」

フランク‥‥にしかできない、多分。お嬢さまキャラなんて絶対無理だし。クールキャラでもないし。そんなクールキャラできるような優位性が今の私には何もない。

それになんか、私の中の、日常的な私ってこんな感じ、を肯定された気分になって、、、じわーっと、けど凄く大きな喜びが込み上げてきた。また一つ心を温かくしてくれた。



――――配当もらえちゃったかな。



江崎君、この人のイケメンさは、自分だけの少女漫画的な王子様、なんかじゃないんだ。私だけに、じゃないかもしれない。けど、確実に周囲を優しく温かい気持ちにさせてくれるイケメンさ、なんだ。


もっと私のこと、分かって欲しいなあ。もっと知って欲しい。もっともっと‥‥それを望めば、私だけをもっと温かくして、となる。それはきっと違うんだ。

けど今は、この配当でもって、私の繰越剰余愛マイナスを、少しでもプラスにするんだ。



そうしたら‥‥ひょっとしたら‥‥衝突安全ブレーキレスな私でも、大丈夫だったりするのかな。

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