第三章 3

アコスタでは、アイシャが膨れた腹を抱えて部屋を歩き回っていた。

 臨月を迎えた彼女は、もういつ子供が産まれてもおかしくない身体を持て余してあちこちをうろうろするしかなかった。

「もう、報せはまだなの? 早く小娘の首を持ってきてよ」

 いらいらと指の爪を噛み、髪をねじると、またあちこちを歩き回るということを、彼女は繰り返していた。

 赤い唇、黒い巻き毛、青い瞳。魅惑的な容姿だが、よくよく見るとそれが品のないものであることが見て取れる。

「あの女さえいなければ、私はお妃になれるのよ!」

 アイシャは癇癪を起こして花瓶を壁に投げつけた。廊下を歩いていた召使いが、ため息をついて首をそっと振る。そして、側にいた別の召使いに、

「育ちがもう少しよろしかったら、絶対にこんなことはなさらないのにね」

「そうね、もう少し品がよろしければ、ね……」

 生まれが卑しいがばかりに、王子との子供ができたという絶対的な事実があるにも関わらず正妃になれないということに気がついていない主人の頭の足りなさに、召使いたちはそれを嘆くしかない。しかし、なんとしてでも、相手の女を殺してでも正妃にならんとする彼女の容赦のなさをも知ったなら、召使いたちはどう思うであろうか。

「王子は最近来ないし、刺客には大枚はたいたし、ほんっとやってられないったらありゃしないわ。それでも、私にはこの子がいる。この子がいる限り、私は王子には捨てられない。大丈夫、私は大丈夫。私は平気。私は大丈夫。あの小娘さえ死ねば、私は平気……」 アイシャはでかい腹をうっとりと撫でて、ぶつぶつとただそれだけを呟いていた。

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