孵化させたんだよ

「お邪魔します。ガレットいる?」


「あ、アル来たんだね。」


「おう、それでこれが例の卵なんだけど。」


「了解。ちょっと失礼するね…」


そうして、真剣に卵を確認するガレット。撫でたり、軽くつついたり、日差しに当てたりと忙しいが正直何をしてるかはわからん。


「うん、卵だね!なにもわからないや!」


「天然かよ!」


マジで意味のない行動だったよ!攻めて、こう!魔力を調べてるとかあるでしょ!


「それで、これを羽化させて良いかの相談だよね?いいんじゃない?」


「そんな軽い感じで言われても…うちはお金ないから大食間は育てられないし、飼育に必要な道具も買うような余裕もないんだけど。」


「魔獣はテイマーの魔力があれば問題ないし、よほど変わった魔獣でもない限り、勝手に育つよ?まあ、その成長のコントロールするってなるとかなり難しくて、楽しんだけどね。」


「へー、確かにアイリスは俺が食べてるものに興味は持つけど、空腹を訴えたことはないな。」


「そういうものだからね。なので、今すぐ羽化させるべきだと思うよ。そうだ!そうしよう!」


あ、ガレットの顔に「俺にも見せろ」って書いてあるわ。まあ、構わないけど。


「そういうことならやりますか。なんか間違えてたら指摘は頼む。」


「その辺任せて。それより早く早く!」


ではやってみますか。まずは卵に魔力を流すんだよな。…お、流れてきた。


「いい感じ。多分もう少し流すと胎動し始めるけど、気にせず流して上げて。」


「了解」


少しするとガレットが言ったように卵が胎動を始めた。それは、本当にわずかな鼓動。しかし、魔力を流すごとその存在感を増していく。


パリ…


乾いたおとがした。同時にこれまでとは違う揺れを感じる。


「来るよ…」


パリ…パリーン 「ピー!」


卵が弾ける。同時に現れた灰色のひよ子が俺を見つめている。


「生まれた!アル名前をつけてあげて!」


「そうだな…」


見た目は灰色?いや、見ようによっては銀色かな?何かあるかね?シルバー?


(安直)


厳しい。バレット…は厳つい。マグネシウムはもはや生物の名前でもない。後は、アルミニウム?


(少し元素から離れなよ?)


あーちょっと待ってくれ。アルミ…ルミなんでどうだ?確か輝くって意味だった気がする。


(少し呼びにくいんだよ。)


ならルミナスで。


(いい感じなんだよ!)


「よし!おまえは今日からルミナスだ。よろしくな。ルミナス!」


「ピヨ」


その名前を受け入れたようにルミナスは小さく鳴いて、頬を俺の指に押し付けるのだった。


「それにしてもアルは運がいいね。また色つきだよ。」


「まあ、もとの色を俺は知らないんだけどな。」


「そんな無知な君に僕が説明してあげよう。」


「お願いします博士。」


「よろしい!で、これやめ時どこ?」


「その言葉で既に吹き飛んだよ。でも、説明は頼んだ。」


「この子はピヨヨっていう魔獣だね。通常は黄色の羽毛なんだけど…まあ、元が剣脚鳥っだったから鋼属性を産まれ持ってる故にこの色なんだと思う。たぶん。」


「へー。因みに色つきってどのくらい珍しいの?」


「普通の環境での魔物だとほとんど見ないよ。基本的には、属性の片寄った環境とか、一度属性を獲得した個体が産まれ直す。後は、属性を獲得した魔獣の交配なんかで産まれるのが普通だね。少なくともあの森で見つけるのは間違いなくレア。」


「あ、だからアイリスはあんなに驚かれたのか。」


「そういうこと。あ、ちなみに色付きは俗称で、正しくは適応進化型っていうんだ。だから、アイリスの場合はコモン種 リトルスネーク 適応進化型が正式名だね。まあ、図鑑ぐらいにしか書いてないけどね。それから…」


あ、エンジン入った。仕方ない、適当に合図ちしながら聞き流すか。


「シュルルー♪」


「でも、俺は人懐こくて、色々手伝ってくれるアイリスなら、色つき特別でなくても嬉しかったよ。」


俺はそっとアイリスを撫でた。


「シュルルー♪」


「うんうん!アドバイスした身としては良好な関係を築けてて嬉しいよ。因みにピヨヨの進化先のひとつはこの店でも売ってる、コッコだだったりするだ。買ってく?」


げ!聞いてやがった。そのニコニコフェイスやめろ!お前みたいなタイプがすると危機感しかない!


(同族嫌悪?)


いや、同族故の危機感。まあ、今回は聞き流した腹いせだったみたいだし、会話に戻りましょうか。


「飼育体制がまだできておりません。そして、それを準備する金もないです。それはそれとして、ルミナスが卵を産んでくれる可能性は?」


「無いとは言わないけど、基本的にコッコの卵とかって余剰魔力から産み出されるドロップ品なんだよね。だから鳥形の魔物からといって、もらえるのは卵とは限らない?」


「そうなのか…因みにピヨヨをコッコにしようと思ったときの進化の条件は?」


「コッコが卵を暖めて羽化したピヨヨ。だから諦めて。」


既に条件から離れてるんじゃん。まあ、どんな成長をするかはわからないけど…


俺は視線を机の上に向ける。そこでは、ルミナスの頭を尻尾の先で器用に撫でるアイリスの姿が。


「2匹がじゃれ合う姿はかわいいのでそれだけで十分なのかもしれない。」


「だよねー」


結局可愛いは正義。そう俺たちは結論付けるのだった。

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