第4話 私はどうやら美人らしい
高校生活も早いもので、あっという間に一ヵ月。
どうしてこんな事になってしまったのだろう?
あの事件以来、学校へ行く時はお姉ちゃんが送り迎えをしてくれる。
タクシーの時は駅で乗り降りしていたけど、お姉ちゃんは心配だからと言う理由で校門まで乗せていってくれる。
それだけなら大した問題でも無かったんだけど、お姉ちゃんの車が高級車らしく、そんな車で毎日送り迎えして貰っているから、ちょっと悪目立ちして居心地が悪い。
今日も授業が終わった。
普段なら校門へ行ってお姉ちゃんの車に乗って帰るけど、今日は迎えに来てもらうのを断っている。
部活を始めようと思うし、見学をしに行くからだ。
見学しに行く部活は体操部。
理由は単純で、運動をするのを楽しめる様になったし、体操は格好良いと思っているから。
私に出来るか分からないけど、とりあえず見学だけさせてもらう事にした。
体操の練習をしている人達を眺めながらブラブラしていると、体操着を着た人がこっちへ向かって走って来た。
「あなたは……ええっと、一年生の美鈴さんですよね?」
「はい、見学させてもらえますか?」
「勿論! 私は体操部の部長をしている
美鈴さんは体操の経験があるんですか?」
「ないんですけど、格好良いなって思ったんで見に来ました」
「そうなんですか。
うちは小学生の頃から体操やっている子ばかりだけど、美鈴さんなら大丈夫そうですね!」
「あまり大丈夫そうじゃないですけど、本当に大丈夫なんですか?」
「人づてに聞いた話だと美鈴さんって運動は得意ですよね?
体は柔らかい方ですか?」
「柔軟性……あまり自信はないですね」
「身体が硬いと怪我しちゃいますから。
ちょっと見てみましょうか」
部長さんの真似をすればいいみたいなので、制服を着たままだけどやってみる。
あれ? 何かおかしいぞ?
部長さんのやっている事を私は難なくこなせる。
私の体はこんなに柔らかくなかったはずだ……。
「体柔らかいですね! バレエとかやってたんですか?」
「いえ、運動自体あまりやってなかったんで……ちょっと他の部活も見て周りたいので、今日はこれで失礼しますね」
体育館では他の部活もやっていたけど、それどころではない。
私の体……明らかにおかしい。
実は運動が得意だったのかもしれないと思って気にしていなかったけど、私は元々運動音痴で高校生になっていきなり得意になるわけがない。
でも、実際に得意になっているし……。
こんな時はやっぱり、お姉ちゃんに相談してみよう。
「美鈴様ー!」
「酉城さん? どうしたの?」
「部活の見学ですよね? どうでした?」
「待ってくれていたの?
部活は……もう少し考えようかなって」
「そうなんですかー。
それじゃあ話は変わりますけど、美鈴さまのお姉様って素敵ですよねー!」
「お姉ちゃん? うん、自慢のお姉ちゃんだからね!」
「やっぱりそうですよねー。
二人とも背が高いし、スラッとしていて美人だし、私にも血を分けて下さーい」
「え? 私も美人なの? お姉ちゃんが美人なのは分かるけど」
「美人ですよ! もう親衛隊も出来てますからね?」
「親衛隊って……なに?」
「美鈴様のファンクラブです!
ついこの間、元々一つだった親衛隊が、揉めに揉めて女子による美鈴様ファンクラブと男子による美鈴様愛好会が発足したばかりです!
ちなみに、お姉様の注目度も高くなっているみたいです」
「えっと……どうしてそんな事になってるの?」
「どうしてって……もしかして、自覚がおありでない?」
「ナイナイ」
酉城さんがすごい驚いた表情をしている。
何をそんなに驚くことがあるのか……?
ファンクラブとか愛好会とか、悪目立ちどころではないし、本当だとしたら流石にちょっと居心地悪いかも……。
「財閥のお嬢様ってだけでも注目されるのに、姉妹揃って絶世の美女!
そのうえ美鈴様は運動神経万能で、この間やった学校のテストでも1位でしたよね?
ファンクラブの一つや二つ、出来て当然です!」
姉妹揃ってって……お姉ちゃんとは血は繋がってないんだけどなぁ……。
でも、お姉ちゃんはお姉ちゃんだし、それはいいか。
財閥の事はよく知らない。
ただ、お父さんが大きな会社の社長だか会長だかをやっていると聞いた事はある。
だから、それもいいとして……運動は得意になったから事実だし、勉強の順位なんて気にしていなかったけど、テストが簡単だったのを覚えている。
学年1位? 簡単だったし満点で同率一位の人なんてわんさかいるんじゃないのかな?
「私、そんなに美人でもないでしょ?
それに、テストの点数も同率1位の人って沢山いるんじゃない?」
「美鈴様が美人じゃなかったら私なんて河童か小豆荒いですよ!
美人だと言う自覚を持って下さい!
この間のテストの順位見てないんですか?
1位は美鈴様だけですよ」
中学の頃はちょっと背が高いと言うだけで馬鹿にされていたのに、美人だなんて思った事なかった。
勉強は得意だったし、納得せざるを得ないけど……。
「じゃあ……みんな私の事、美鈴様って呼んでるけど、あれってそう言うノリでふざけてるって感じじゃなかったりするの?」
「ふざけて言っているわけじゃありません!
純粋な敬意からくる敬称です!」
「じゃあ、今日から様付け禁止!
様って言われたら絶対に振り向きません!」
「ええ! 美鈴様!?」
「様付け禁止です。
友達にそんな敬称なんて付けて呼ばれたくありません」
「友達!? 私が美鈴様……美鈴さんのお友達?」
「友達じゃないんですか?」
「私、一目見た時から美鈴さんに憧れて……付き人って言うのかな?
何かお役に立てればって思いで、接してました」
「じゃあ、これからは友達として接して欲しいな。
敬語を使ったりも駄目だし、美鈴さんじゃなくて、澄玲とかあだ名で呼んで。
仲良くなりたくないなら、今まで通りでもいいけど」
酉城さんは私にそっと近づき、耳元で小さく「澄玲ちゃん」と囁いた。
だから私もお返しに、「千穂ちゃん」と返してあげる。
二人揃って笑顔になって少し幸せな気分になった。
「えっと……敬語を使っちゃ駄目って言われると緊張しちゃうな。
でも、改めてよろしくね、す……澄玲ちゃん」
「ええ、こちらこそよろしく、千穂ちゃん!」
その後、千穂ちゃんとは校門でお別れをして、私は駅へと向かった。
今日はお姉ちゃんが迎えに来ないし、久しぶりにタクシーで帰る。
元々予約して乗せて貰ってたけど、駅には沢山タクシーが止まっているしすぐに捕まると思う。
行先を伝えるのも目立つマンションだし問題ない。
駅の方へ向かって歩いていると、最近よく見かける黒い車が私の後ろを着いて来る。
止まったり発進したりを繰り返しているし、危ないなぁ……。
人通りも多いし、迷惑だと思っていると、私に追いついてきて、すぐ隣で停車させた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます