第42話
昼過ぎ。
戦場全体を眺める事ができる小高い丘の上にレネ率いる1000騎がついに辿り着いた。
コハネ〜バスティオナ間の街道含めてタッシュマン王国の街道はやや遠回りになったとしても基本的に平坦な場所を均して整備される。
そのため街道の近くには丘や山、急峻な地形などが散在していた。レネ達が密かに陣取ったのもそんな丘の一つ。
明け方早くに戻ってきたファティマからセレナ達の作戦を聞かされたレネ達はその流れに乗るために行動を起こす。
セレナやマリア、イーサン達が立てた作戦は至ってシンプル。今回の作戦のポイントはひとえにどうやって確実にオークエンペラーを討ち取るか。そのための筋書きである。
まずは明け方から昼過ぎまでかけて敵をある程度削り、かつ相手の布陣を誘導する。さらにそこからセレナの戦略級魔法を使い敵の半数程度を削る。
セレナが戦略級魔法を使った直後、おそらく潜んでいるオークエンペラーがセレナ達を奇襲するだろうから、それを逆に奇襲して欲しいというのがセレナからレネへの依頼だった。
要するにセレナは自分を囮に使う事で慎重で小心者のオークエンペラーを釣り出し、確実に仕留めるつもりだったのだ。
この作戦を遂行するためにレネ達は敵軍にその存在がバレないように位置取り、いつでもセレナへの支援ができる準備を整えた。
オークエンペラーへの対応はレネ姫がありったけの魔力を込めた戦術級魔法で対応する想定である。
「それにしてもさすがセレナ姉さんだな」
眼下に広がる戦場で一際目立つ黒い軍団と虹色の輝きを見てレネがしみじみと呟いた。レネ達の視線の先では魔物軍約9万体を相手に、第9軍団、第7軍団第2連隊、そして第10軍団が大いに善戦していた。
数ではやや不利、野戦陣地や地の利を踏まえて概ね互角程度の戦力比のはずなのにそれを感じさせない攻めっぷりである。
「第9軍団も凄まじい攻勢ですね。ファティマから第9軍団は一個連隊強の戦力しか残ってないと聞いてましたけど」
レネの隣ではエリンが第9軍団の奮戦ぶりに驚いていた。ファティマから事前に聞いていた内容では第9軍団は損耗激しく元の戦力の半数以下と聞いていたのだが。
残存する兵の数だけ聞くと完全に崩壊していておかしく無い部隊のはずなのに、それを全く感じさせない力強さである。
「イーサンもちゃんと頑張ってる見たいですよ?」
レネやエリンと同じく戦場を眺めていたリリーも戦場に翻る紅い軍団旗を見つける。第7軍団第2連隊はどうやら第9軍団と第10軍団の間でカバー役に回っているらしい。
一見すると派手さが無い地味な作業だが、その実かなり緻密な用兵能力が求められるイーサンらしい渋い働きぶりだった。
そんな戦場の流れを確認しつつ、
「……そろそろか?」
タイミングを見計らいつつレネ達も静かに闘志を滾らせる。
・ ・ ・
「はははははははは!!!!そらそらどうした!!!!そんなものか!?」
戦場の中心では虹色の大剣を振り回すセレナ・カスティロの高笑いが響き渡る。第1指定封印が解除された光輝万象剣オーバーレイはその巨大な刀身に圧縮された魔力を纏わせる事で、更に巨大な大剣となっていた。
圧縮された魔力同士が干渉する事でまるで虹のように七色の光が大剣から溢れ出ている。そんな幻想的にも見える大剣を戦場のど真ん中で振り回すセレナ。
近寄る魔物を悉くバターのようにあっさりと切り裂いていくが、あまりにも数が多く流石のセレナも若干辟易としてきていた。
まさにそんなタイミングで戦場の三箇所から信号魔法が打ち上がる。
「準備ができたな!」
それを見たセレナはニヤリと笑うと、こちらも空に向けて信号魔法を放った。その信号を見て一斉に退却を始めるタッシュマン王国側。
戦場では第10軍団の3人の連隊長達、マルコス・レイノルズ、デレク・ミラー、イザベル・マーチンがそれぞれ率いる部隊と共に配置につき、戦場全域を網羅するような位置取りで巨大な三角形を構成していた。
その巨大な三角形の中央、重心の位置にセレナが位置している。陣形は整った。味方の配置を確認したセレナはついに戦略級魔法を使うための準備に入る。
第1指定封印に続いて更なる封印を解除するため柄に巻かれる装飾を外した。
「深き光の井戸より力を引き上げ、眠りし刃の魂を呼び覚ます時」
セレナの詠唱と共にさらに虹色の光が強くなる光輝万象剣オーバーレイ。
「輝き増す光の渦、万象を映し出す鏡よ、我が手中に真の力を顕すべし」
さらに空に掲げられる大剣に向かって、連隊長達が位置する大三角のそれぞれの頂点から光が収束されていく。
「刃はさらなる輝きを得ん。我が敵を討ち、我が道を示せ。光輝万象剣オーバーレイ、その真実の力、今、我が前に!第2指定封印解除!」
セレナの宣言と共に、虹の剣の刀身が多数の破片に砕けた。その無数の破片はキラキラと光りながら宙に舞う。
柄だけになった剣を握ったままセレナはそのまま己が魔力を込めて一気に柄を振るうと、戦場全体の空を囲うように砕けた刀身が広がっていく。
「天よりの光、万象を照らす輝きよ、地を穿つ煌めきとなり、全てを浄化する力を示せ」
それはまるで戦場全体が祝福されたかのように光の粒子が空を舞い、
「神々しき光の洗礼をもって敵を滅ぼし、平和への道を照らす光となれ」
セレナが空に掲げる刀身のない剣に膨大な魔力が集まっていく。
「全てを浄化する光よ、今、天からの祝福として地に降り注ぎ、我が敵を灰に帰せしめよ。光よ散りゆけ、煌々として止めどなき光の雨となり、この戦場に最後の審判を下せ!」
宣言と同時、刀身のない剣から巨大な光が空に向かって伸びると、その光がどんどんと別れて光の粒子達を輝かせる。
「第9階梯光魔法 煌光の雨、この戦場に終焉を告げる光の雨となれ」
セレナがまるで天に祈りを捧げるように詠唱を完成させると。戦場全体に光の雨が降り注いだ。
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