第41話

ファティマとの接触に成功した第10軍団、第9軍団、第7軍団第2連隊の面々は翌日の反攻作戦に向けた準備を進めていた。


マリア・ヴァレンティ、イーサン・モリス、そしてセレナ・カスティロといった高級将校たちはファティマ・カズミとの情報交換の後に本格的な軍議に入る。


これまでの戦い、相手の構成、オークエンペラーの性格、地形、こちらの状態などを踏まえて着々と作戦が練られていく。


オークエンペラーは未だ発見に至らないが、一方でこちら側のレネ率いる1000騎もおそらく相手側はその存在に気づいていない。


タッシュマン王国側、魔物側。そのどちらも最強のカードを伏せたままの戦い。その最強のカードをどのタイミングで切るかが勝敗に直結する。


軍団長冥利に尽きる痺れる戦いの予感に自身でも気づかないままにセレナの笑顔は獰猛に、そして恍惚としていく。


その様子に気づいたイーサンは「レネ姫とセレナ軍団長、こんなところも似ているんだな」と割とどうでもいい事を思いながらも王家の血筋に若干の呆れを感じつつ、それ以上に心強さを感じていた。


そして数時間後。


全ての作戦を立て終えた彼らは翌日の作戦開始に向けて全軍に指示を出す。


ここで再びファティマは野戦陣地を離れてレネ率いる1000騎の元へ伝令として駆ける事になった。今回の作戦の肝はまさに彼ら第78戦時混成軍団の1000騎である。


そのためにもファティマがレネ姫たちと合流して作戦を伝える必要があった。セレナ達が見送る中、暗闇の中に消えていくファティマ達アルファズ隊の別動隊。


その後彼女達は半日弱で無事にレネ姫達に合流する事ができ、セレナ達の作戦の全容を伝えることに成功する。一見すると地味に見えるがこの戦いでもアルファズ隊が果たした役割はとてつもなく大きい。


こうして全ての準備は整った。


・ ・ ・


翌日。この日は朝からタッシュマン王国側がついに攻勢に出る。これまでは守りに回っていた人類側であったが全ての鬱憤を晴らすかのような苛烈な攻めを見せた。


連戦連勝ムードで士気が緩んでいた魔物軍にとっては最悪な1日のスタートだ。


この歴史的な1日となる戦いの一番槍を務めるのは


「耐え忍ぶ時は過ぎた!我らの哀しみ、我らの悔しさ、我らの憎しみ、全ては今日晴らす!!」


整然と並ぶ全軍の中央、その先頭で第9軍団暫定軍団長マリア・ヴァレンティの指示と共に颯爽と掲げられたのは深碧の第9軍団軍団旗。


「永遠の地獄にも感じられた1週間を超えて今、私たちはここに立っている」


自身が率いる第9軍団の2000人をゆっくりと順に見据えながらマリアが熱い想いを吐露する。


「私たちは誰だ?今は亡きエリオット・クレインならばきっとこう言うだろう!人類国家群の盾たる人類の守護者にして開拓者、タッシュマン王国の王国民。そしてその中でも最前線を守る最強の盾の一角、第9軍団。それが私たちだ、と」


マリアは掲げられた軍団旗を様々な想いが入り混じった複雑な表情でしばらく見つめる。そして一瞬目を瞑り気持ちを整えるとカッと目を見開き気合を入れ直し、そのまま剣を抜き放ち空に捧げた。


「失ったもの、守れなかったものはあまりに大きい。だが、それでも私たちは前に進むしか道はない。旅立った戦友達に捧げる事ができるのはただ勝利のみだ。行こう、諸君。全てを清算するために!抜剣!!」


マリアの号令と共に第9軍団の2000名が一斉に武器を構える。彼ら一人一人の表情を確認したマリアは満足そうに頷き、一つ大きく息を吸うと、


「全軍、突撃ぃいいいいいい!!!!!」


腹の底から戦場全体に響き渡るような声で檄を飛ばすと、自ら全軍の先頭を駆け敵軍に切り込んでいった。


・ ・ ・


「マリアのやつ、一皮剥けたな」


戦場で狂ったように暴れ回り、これまでの鬱憤を晴らすように敵軍を蹂躙する第9軍団。それを後方から支援していたセレナは満足そうに呟いた。


敵からしたら予想外であろう第9軍団による敵陣突撃。これにより敵陣の前線は大いに混乱している。タッシュマン王国側有利に戦闘は進んでいるが、しかし敵軍9万の全体からしたらまだまだごく一部。


しかもまだオークエンペラーの姿も把握できていない。むしろここからが本番だろう。


第9軍団の突撃から1時間が過ぎようとしている頃。やや疲労の色が見え始め、動きが鈍くなるかどうかと言うタイミングで攻撃をスイッチするようにセレナが前に出る。


「準備はいいな!?第9軍団があれだけ熱い戦いを見せてくれているんだ。私たち第10軍団も負けてられないぞ?」


セレナの言葉に合わせて第10軍団も支援陣形から突撃陣形に組み替えていく。


「マルコス、デレク、イザベル。準備はいいな?」


セレナ率いる第10軍団が誇る3人の連隊長。マルコス・レイノルズ、デレク・ミラー、イザベル・マーチンが頷いた。むしろ準備ができてない時など無い。それが第10軍団が第10軍団である所以だ。


「予定通りタイミングを見計らって戦略級魔法を使う。それまでは任せる」


指示を出し終えたセレナは愛用する豪奢な大剣を背中の鞘から抜き放つと、封印指定の一つを解くために大剣に巻かれていた装飾の一つを取り去った。


「古の絆を呼び覚まし、眠りし力を我が前に示せ。光の精粋、万象の理、結集せし刃よ、真の姿をこの世に顕現せよ」


セレナの詠唱と共に七色の光が大剣から不規則に漏れ始める。


「光の道標となり我が意志に従い行動せよ。輝きを増す光に導かれ、我が敵を切り裂き、我が道を照らす。第1指定封印解除。起きろ、光輝万象剣オーバーレイ」


セレナが持つ豪奢な大剣から圧倒的な魔力の波動が放出された。光輝万象剣オーバーレイ。セレナ・カスティロの戦略級魔法の要にしてタッシュマン王国公爵であるカスティロ家に代々伝わる宝剣だ。


レネが使う炎帝剣フレイムソブリン同様、アーティファクトの一種である。その大剣を構えたセレナは獰猛な笑みを浮かべると。


「狩りの時間だ。遅れずついてこいよ?全軍、突撃!!」


第9軍団が暴れ回る戦場に、虹色の大剣を掲げる戦乙女率いる漆黒の軍団も参戦した。

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