第40話
オークキングとその手勢を殲滅した後に休息を取っていた第78戦時混成軍団の面々。
ジェズは未だ魔力切れは回復していないものの、エリンに治療してもらったことで右手の違和感は問題なくなった。
当初想定していた合流予想ポイントまでは慎重に進めば残り1日程度。翌日の昼頃には第9軍団残存兵などと合流できる可能性が高い。
ここでジャミールは1000騎の本隊に先立って再びアルファズ隊の面々を10騎ずつに分けて先行させる事にした。
本隊が再度行軍の準備を整えている中で先発するアルファズ隊の面々。そしてこの先発隊の中でファティマ率いる10騎がこの日の夜に無事に第9軍団や第7軍団第2連隊、および第10軍団と合流を果たすことになる。
・ ・ ・
その日の夜。想定合流ポイントまでもう一息という距離まで来ていたジェズたちは簡単な野営地を構築。
明日の昼頃には第9軍団と合流できるかどうかは分からないにしても、いずれにせよコハネ〜バスティオナをつなぐ街道に出るため高い確率で魔物群と遭遇する事が予想された。
そのためレネやエリンにリリー、ジェズやジャミール、ソフィアやクララと言った面々も翌日の戦闘に備えてしっかりと休息をとる。
日中はへにゃへにゃになっていたジェズもやや持ち直していたものの、未だに魔力の完全回復には程遠い。明日の戦いでも魔力の回復は間に合わないかもしれず、ジェズはさてどうしたものか?と悩んでいた。
日中のオークキング戦で奥の手の概念武装を使った事自体は後悔していないし、あそこで使ってなければ行軍がかなり遅れていた可能性が高いので優先順位としては間違ってなかったとは思っている。
しかし今回はオークエンペラーがいる戦場。中途半端にちょっかいをかけても返り討ちに合う可能性が高い。
まぁ戦略級魔法を使えるレネ姫やリリーが万全の状態であり、さらに恐らくだが第10軍団のセレナさんも来ている事を考えれば問題ないと思うのだが。
そんな事を考えながらも第78戦時混成軍団の主要メンバーを集めた簡単な軍議に参加していた。
「という事でグレイシアン出発時から概ね想定通りのルートを通り、想定通りのスケジュールでここまで来る事が出来ました」
ジャミールが軍議の参加者に向けて改めてこれまでの経路やスケジュールを説明している。
「途中で敵の連絡係や斥候に遭遇し全てを討伐、今日の昼にはオークキング率いる伏兵にも問題なく対処することができました。これらの敵の出現傾向や個体数から見てこれから我々が向かうコハネ〜バスティオナの主要街道にはかなり大規模な敵軍が展開している可能性が非常に高いです」
ジャミールの説明や予測を聞き、レネやエリン、リリーなども頷いている。
「恐らくですがグレイシアンを襲った兵力と同等程度かそれ以上の敵戦力があると思っておいた方が良さそうです。さらにオークエンペラーの件もあるので」
オークエンペラーと聞いてソフィアやクララたちは非常に難しい顔をしていた。彼女たちはオークエンペラーどころかオークジェネラルに殺されかけているのだ。
毎度ジェズが簡単そうに倒しているため感覚がおかしくなりそうではあるのだが、ジェネラル級でも充分脅威。キング級は軍団で対処するレベル。エンペラー級は複数軍団で対処する必要があるレベルの魔物である。
改めて今回の魔物軍の侵攻の規模の大きさを各々が認識する。そしてこれまでの経緯と、明日の予定や予想される敵味方の動きなどを擦り合わせた第78戦時混成軍団の面々はそれぞれ持ち回りで休息を取る事になった。
・ ・ ・
軍議の後。
最初に野営地の哨戒を担当する事になったエリンは部下たちに適宜指示を出し終えた後、自身は指揮所の天幕すぐ側に作った野外の焚き火そばに腰掛けて暖かいハーブティーを飲んでいた。
警戒任務中ではあるものの、明るいうちに付近の魔物を片付けていた事もありエリンは暖かいハーブティーを手に夜空を眺めながら物想いに耽っている。
そんなエリンに
「エリン先輩、任務中にぼーっとしてたらダメじゃないですか」
と朗らかな笑顔でリリーが近づいてきた。公式の場で無い所ではリリーはエリンの事を先輩と呼ぶ。
リリーはレネ姫と同じ22歳、エリンはジェズと同じ26歳で、リリーとエリンの二人も付き合いは8年ほどになる。
エリンがレネ姫のそば付きとなって以来の付き合いだ。エリンは王立学園卒業と同時、18歳でレネ姫のそば付きとなっている訳だがその当時はリリーはまだ14歳。
エリンやジェズが王立学園を卒業してからレネやリリーは王立学園に入学していたため、リリーはエリンの事を先輩と呼んでいた。
「リリー。どうしたの?休憩中でしょ?」
横に腰掛けてきたリリーに新しくハーブティーを準備しながらもエリンが不思議そうに尋ねた。
「ちょっと眠れなくて。少し話しませんか?」
少しいつもと違うリリーの様子に内心で首を傾げながらも雑談に興じる二人。そしてしばらくした後におもむろにリリーが尋ねた。
「日中、エリン先輩がジェズさんと親密そうにしてる所を見ちゃって」
「……あー。そっか」
エリンの様子を探るようにリリーが切り出すと、エリンは苦笑いする。
「エリン先輩はジェズさんの事がまだ好きなんですか?」
リリーは相変わらずストレートだなぁと思いながらも、その性格だからこそ王族の幼馴染にして近衛隊長なんて利権バリバリのポジションを平常心で務められているリリーの事を好ましく思うエリン。
「……うーん。実際どうなんだろうね?もちろん嫌いじゃ無いよ?でも好きかと聞かれるとどうなのかな?」
「そうなんですか?」
「うん。ほら、付き合い長くなると良い所も悪い所も見えてくるでしょ?ジェズも私もお互いに結構長所と短所が極端だからね」
相変わらず考えが読みにくい人だなぁとリリーは思いながらも一当てして見るかと
「ならジェズさんはレネちゃんが貰って問題ないですよね?」
その瞬間。
リリーは久々にガチで身の危険を感じた。首筋がゾッとして思わずその場で立ち上がる。
目の前にはニコニコと穏やかな表情をしたままのエリン。この先輩、マジでこういうところあるから怖いんだけどと内心でちびりそうになりながら、
「……問題ないですよね?」
と更に一押しした。リリーもリリーで良い性格をしている。お互いにそのまま無言でしばらく見つめ合うと。エリンがため息を吐き、
「好きにしたら?私も好きにするから。ただ全部戦いが終わってからにしてくれるかな?」
と真っ当な事を言う。そんな言葉を聞いたリリーは
「騎士が色恋がらみで“戦いの後で”なんて言ったら不吉なジンクスがありますよ?」
とエリンを揶揄うと、
「大丈夫だよ、そのジンクスは騎士のジンクスでしょ?ジェズは文官だから関係ないよ」
とあっさり言い放った。……確かに“俺、この戦いが終わったら”なんてセリフを文官が言っているのは聞いた事が無いなとリリーは脱力しながら妙に納得する。
にしてもエリン先輩マジ怖ぇ。レネちゃん、ちょっとマジで頑張んなよ。とリリーは半笑いで適当に星に願っておいた。
いよいよ決戦の時は近い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます