第27話
レネ姫が戦略級魔法を発動する約30分前。
城砦都市グレイシアンを囲む10万にも迫ろうかと言う魔物の大軍に一切の躊躇なく突撃した第7軍団。それを見た第8軍団も昨日に続いて城門から打って出た。
オスカー率いる第8軍団第2連隊は騎馬隊とチャリオット隊約500騎が先行する形で突撃し、敵陣に生じた綻びに対して重装歩兵部隊1000が押し込んで行く。
更に今回は第1連隊、第3連隊も支援攻撃を実施。文字通りグレイシアンの全兵力を挙げての反抗作戦がスタートした。
敵主力であるオークキングとレネ姫達の位置関係はグレイシアンを挟んでちょうど反対側にあった。そのため第8軍団軍団長のフィン・モーガンは敵を釣り出し、レネ姫側に敵を誘導するように部隊を動かす。
第7軍団が攻める反対側の城門から出撃した第8軍団が敵を追い立てるようにして第7軍団側に寄せていく。
第7軍団の勢いに押されていた仲間を救うため救援として第7軍団側へ流れていた魔物達だったが、その流れに更に押されるようにして第8軍団にも攻め立てられた。
グレイシアンをぐるりと囲んでいたはずの魔物の大軍が、こうして徐々に視界の開けた平野部に集結し始める。
この繊細さが求められる動きを最前線で直接指揮していたのが軍団長のフィン・モーガン。参謀部の面々には止められたがここが勝負どころと見た彼は、直掩隊を率いて自ら直接オークキングと対峙していた。
「グルァァァァァァァァッ!!」「ぬぅうんんんんんん!!」
オークキングが振るう禍々しい大剣と、フィンが振るう戦棍がとんでもない音を立てて何度もぶつかり合う。
周囲の魔物を巻き込みながらも激しい剣戟を交わし合うオークキングとフィン。そして彼らから少し離れたところでフィンをサポートするようにフィンの直掩隊が魔法攻撃をオークキングへ撃ち込んでいく。
フィンとその直掩隊がオークキングを抑える中、更にその周囲をオスカー達が援護して余計な魔物がフィン達に近づかないようにしていた。
フィンの直掩隊を率いるのはサム・ホーキンス。第1連隊の百人隊長にしてフィンとは長年コンビを組む生粋の叩き上げの武人。
フィンとサムが出会ったのは20年以上前のとある戦場で。それ以来の付き合いになる。フィンが指揮官としての頭角を現し軍団長に登り詰める間、現場から彼を支え続けたのがサム・ホーキンスと言う男である。
そのためお互いをフォローする動きは完全に統率が取れている。フィンが望むタイミングで牽制の攻撃を次々と浴びせかけるサム率いる百人隊。
それらの攻撃を煩わしそうに手で払い除けたオークキングは先に周囲の雑魚を片付けようとするが、
「よそ見するなよ!!!!!」
大楯を構えたフィンがとんでもない勢いでオークキングに突っ込んでいく。シールドバッシュ。ダメージこそほとんど通っていないものの、これにより徐々にオークキングは誘導されていく。
第8軍団軍団長フィン・モーガン。経験を積んだ熟練の軍団長であり、性格的にも守りを是とする安定感が非常に高い指揮官である。タッシュマン王を含めた王国上層部からの信頼も非常に厚い。
最近では後進育成のために自身が最前線に立つことも少なくなってきており、特にフィンの若かりし頃を直接知らない若手からは10人いる軍団長の中でも珍しいインテリ系などと見られている節もあったが。
「うらぁあぁあああああああっ!!!」
彼もまた身の丈を超える戦棍と大楯を軽々と振り回し、オークキングとタイマンを張れるだけの脳筋であった。要するにタッシュマン王国とはそういう国なのだ。
「ふんっ!!!」
シールドバッシュで体勢を崩したオークキング目掛けて全力で戦棍を振り下ろすが回避される。空ぶった戦棍が地面に激突し盛大に爆ぜる地面。
その隙をついて大剣を振り下ろそうとしてくるオークキングへ牽制の攻撃を放つフィンの直掩隊。
オークキングを倒すまでは行かずともこうして徐々に盤面は整えられていく。
・ ・ ・
そして場面はレネ姫がまさに戦略級魔法を放とうとしているところに戻る。
フィンや第8軍団の尽力により盤面は整ってきた。更に炎帝剣フレイムソブリンも充分に魔物の血を吸って覚醒状態に。
「エリン!合図を!」
レネ姫からの指示に応えたエリンが信号弾を打ち上げた。それを確認した第7軍団も第8軍団も一斉に後退の動きを取る。
更にレネ姫直下の近衛百人隊がレネ姫の周囲を囲うように配置についた。この百人隊、全員が特殊な盾を装備するまさにレネ姫のための百人隊である。率いるのはリリー・ジョンソン。姫の幼馴染だ。
「レネ姫、配置についた!」
レネ姫を中心にまるで魔法陣を構築するかのように陣取ったリリー率いる近衛百人隊。それぞれが装飾が施された丸盾を構え、装備された特殊な魔石に魔力を通していく。
そしてついに詠唱が始まる。
「九つの階梯を超え、我が手に集う業火よ」
炎帝剣を構えたレネ姫の足元から突如赤い光が発光し、配置についた近衛百人隊の特殊兵装を介して複雑で大規模な魔法陣が構築されていく。
「古より伝わる炎の龍よ」
凝縮されていくどこまでも紅い魔力により黄金に輝くレネ姫の美しい長髪が紅く染まり、その蒼い瞳も紅く染まる。
「天を翔け、地を焦がせ」
剣を構えるレネ姫の背から炎の羽が顕現し、彼女の周囲を火の粉が舞う。
「我が敵に対し、その絶対の力を示せ」
天に向けて突き出された炎帝剣から極大の魔力が放出され、天まで届く炎の柱が現界した。
「王を超える王、その戴たる炎帝剣フレイムソヴリンの導きにより、全てを焼き尽くす炎龍よ、今、咆哮せよ!」
炎の羽を羽ばたかせたレネ姫がふわりと浮かび上がると、
「第9階梯魔法 熾裁の炎」
詠唱の完了とともに天に掲げた炎帝剣を敵の大軍目掛けて振り下ろす。
遥か遠方のコハネからも観測された巨大な炎の柱が天から堕ち、そして世界が紅く染まった。
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