第26話

グレイシアンに到着して早々に突撃態勢を取る第7軍団。それを見た第8軍団側も再び城外へ攻勢に出るべく準備に入る。


第2連隊が騎馬やチャリオットを準備しつつ、休憩をとっていた第1、第3連隊にも招集がかかり総力戦に向けた態勢が整っていく。


城外への攻勢は第2連隊が担当、各城門や城壁の守りには第1、第3連隊がつく。軍団長フィン・モーガンも第7軍団と連動した指揮を取るために城壁まで既に来ている。


そしてグレイシアン側の準備が整った段階で第8軍団から「出撃準備完了」を意味する信号弾が打ち上げられた。


タッシュマン王国においては戦場にて遠方の味方と連絡を取るために幾つかの信号弾や旗による連絡方法が取り決められている。


非常に便利な手段である一方で信号弾自体はかなり目立つ手段であり敵を誘引する場合も多く、かつ伝達可能な内容も限られる。


ジェズやジャミール達がこれまでこの手段を使っていなかった理由もまさにこの2点が原因であり、小規模な部隊が敵の大軍の目の前で使うものでは無かった。


話を戻すと、第7軍団側が攻勢に出るつもりである事を理解した第8軍団軍団長フィン・モーガンはそれに呼応すべく準備を整え、そして合図を送る。


その合図に返答する形で第7軍団側からも信号弾が上がるが


「…レネ姫も相変わらずだな」


第7軍団からの信号弾。その合図は「戦略級魔法を使う」であった。それを見たフィンは追加の指示を出す。


「全員見たな!耐熱結界も準備を!引き際も間違えるなよ!!」


・ ・ ・


第8軍団側の準備が整った事を確認したレネ姫は


「エリン、戦略級魔法を使う。だいたい30分後を目処に兵を引かせろ」


ニヤリと獰猛な笑みを浮かべながら指示を出す。それを聞いたエリンが信号弾で戦略級魔法の使用を伝達。


信号を確認した第7軍団の面々は更に引き締まった表情になる。全軍の準備が整ったことを確認したレネ姫は一つ息をつくと全軍を見回し、拡声魔法で檄を飛ばす。


「勇敢なる第7軍団の諸君!今日、我々はグレイシアンを、人類最前線の都市を守るために立ち、歴史にその名を刻む大いなる挑戦に直面している。この地は我々の勇気と決意を試す場所となるだろう。


我々の前に立ちはだかる敵は強大かもしれない。しかし我々には団結の力があり、それぞれの強さと、共に戦う誇りがある。我々一人一人の勇気がグレイシアンを守り、そして我々の家族と国土、人類を護る鍵となる。


出撃の時は来た。私は諸君と共に突き進もう。諸君の勇気に感謝し、諸君と共に戦うことを誇りに思う。我々はただ一つ、勝利のために戦うのだ!!


勇気を持ち、団結し、そして前進する!我々の絆は砕けず、我々の意志は揺るがない。第7軍団よ、今、グレイシアンの地で新たな伝説を紡ぐぞ!


全軍、突撃!!!!!」


タッシュマン王家に代々伝わる魔剣、炎帝剣フレイムソヴリンを抜き放ったタッシュマン王国第三王女にして第7軍団軍団長レネ・タッシュマンがついに突撃の合図を出した。


姫の檄により極限まで戦意を高揚させた第7軍団の面々が怒号を上げながら敵軍に突撃していく。それと同時にグレイシアン側の城門も開き第8軍団も打って出る。


攻城戦をしていたはずなのに挟撃を受ける形となった魔物軍側は第7軍団の突撃により一部の部隊があっという間に崩壊するが、その穴を埋めるように魔物がどんどん集まってくる。


グレイシアンを囲む魔物の数は10万に迫ろうかというほど。とにかく数が多いため一箇所敵を崩したところで全軍が崩壊するわけではない。


自らも騎乗して敵陣に突撃していたレネ姫も剣を振い近づいてくる魔物を片っ端から片付けていく。それに負けじと周囲を蹂躙するレネ姫直掩の近衛百人隊の面々やエリン達。


レネ姫達の攻勢を受け止めきれずに魔物軍側の一部戦線が崩壊しそうになるが、そこに数体のオークジェネラルが駆けつけてくる。


まるで暴風のように暴れまわるレネ姫に一直線に向かっていき、そのまま棍棒を力の限り叩きつけようとするが、


「ほう?私に用があるのか?だが残念だ、お前如きじゃ力不足だなぁああああ!あははははははは!!!」


オークジェネラルにより轟音と共に振り下ろされた棍棒を軽く躱したレネ姫は魔力を一気に炎帝剣フレイムソヴリンに流し込むと


「ほら、死ね!!!!」


オークジェネラルを頭から真っ二つに叩き切った。「やれやれ、全然手応えがないじゃないか」と戦場のど真ん中で余裕をぶっこいていた姫の後ろから更に別のオークジェネラルが攻撃を仕掛けようとするが、


「ごめんね、さっさと死んでくれるかな」


一陣の風が吹いたかと思うと突然オークジェネラルの首が落ちた。自分が斬られたことすら認識できなかったオークジェネラルが最後に見たのは双剣を振り抜いた女騎士の姿。


「姫殿下、戦場で油断しないでくださいよ」


「わかっている。エリンがいたから任せたんだよ」


そんな軽口を叩きながらも敵を片っ端から切り飛ばしていくレネ姫やエリン。そして彼女達に続く近衛百人隊。


そして第7軍団が突撃を開始してから約30分、斬って斬って斬りまくっていたレネ姫の手元の炎帝剣フレイムソヴリンがまるで鼓動を打つかのように魔力を放出し始め、淡く、赤く輝き出す。


それを確認したレネ姫が今日1番の笑顔で叫ぶ。


「全軍に通達!耐熱結界用意!これより戦略級魔法の準備に入る!全員私の射線に入るなよ!!」

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