第24話
「なに?モンスターがトンネルを掘っていた?」
フィンに第8軍団基地司令部へ案内されたジェズとジャミールはコハネを出てからここまでの経緯を居並ぶ諸将に説明していた。
「はい。グレイシアンから見て南東約10km地点の丘陵地帯裏側にオークキング率いる数千体と、トンネル入り口らしき構造物を発見しました。この構造物を昨日破壊。本件を伝えるためにグレイシアンと直接連絡が取りたかったんです」
この報告を聞いたフィンは即座に哨戒部隊に対して地下への探知魔法の使用を指示。一般的に探知魔法は術者が探知しようと思った場所、すなわち認識の範囲内でないと作用しない。
そこに何かあるか?と意識しながら魔力波動をまるでソナーのように当てる事で探知する。そのため特に地下や水中は意識して探知しないと意味をなさない。同様に構造物の裏側などの死角にも弱い。
もちろん地下資源掘削や街道整備などの土木工事を行う際には地下に探知魔法を利用することもあり、ノウハウ自体はある程度存在するものの戦場で地下に探知魔法を使う事例などそうそうなかった。
モンスターがトンネルを掘って都市を攻略しようとするなど、この一事だけ見ても今回の敵軍の異常さがわかる。
さらにジャミールやジェズによるとオークキングもその場にいたとのこと。オークキングが最前線に出ずにこんな作業の監督に従事しているという事はそれ以上の存在、すなわちエンペラー級の存在も想定しておく必要がありそうだ。
こうしてジャミールやジェズ達がリスクを負ってでもグレイシアンに届けた情報により第8軍団内の敵軍への警戒度はさらに上昇した。
・ ・ ・
その日の夕方。グレイシアン中の地下を隈なく探知魔法により索敵した結果、未だ開通はしていないが坑道らしきものが発見され城砦都市内全体で大慌てで緊急対応が実施されていた。
もしジャミールやジェズ達の活躍、報告がなかったらグレイシアンは墜ちていたかもしれない。フィン達第8軍団司令部の面々は顔面蒼白になりながらも迅速に坑道付近への陣地構築や、仮にトンネルが開いた時に備えて熱した油などの準備を進めていく。
そんな喧騒の中、休息を命じられたアルファズ隊やジェズ達は夕食を取るため基地内の士官食堂に向かっていた。
「休むのも大事だとわかってるんだけどな。こういう空気感の中で休んでるとムズムズする」
ジェズと歩いていたジャミールが頭を掻きながらも軽くボヤく。
「気持ちはわかるけどな。ただ隊長がそれ言ったらダメだろ。ちゃんと休め。お前が休まないと部下も気が休まらんだろ」
とジェズが常識人的な発言をすると一瞬驚いたジャミールは「そうだな」とやや緊張を解いた表情で頷いた。
その様子を見たジェズは「そんな驚くなよ」と憮然とした表情になりながらも士官食堂に入って行き、配膳の列に並び食事を受け取る。
さてどの辺りに座ろうか?と食堂を見回したところで、
「ジェズさん!ジャミールさん!こっちこっち!」
慣れない食堂でキョロキョロと辺りを見回していた2人に声をかけたのはクララ・ベネット。ソフィアと同じチャリオットに搭乗していた魔法職である。
昼間に出撃した第8軍団第2連隊も現在は非番らしく、クララとソフィアも士官食堂で食事をとろうとしていた。手招きするクララの横でソフィアも手をヒラヒラと振っていた。
2人と同じテーブルについたジェズとジャミール達は他愛のない会話をしながら食事していく。
「ジェズさんも食べる物は普通なんですね!」
「…俺のこと何だと思ってるの?」
「はいはい、ただの文官なんでしょ」
クララの屈託のない笑顔と共に放たれたコメントにやや傷つき、今日会ったばかりなのに最早発言を先読みされたソフィアをジト目で睨むジェズ。
その様子を見ていたジャミールは笑いながらも、
「しかし本当に2人とも無事で良かった」
「えぇ、改めて本当にありがとう。ちなみにジャミールはジェズとの付き合いは長いの?」
「いや、実は作戦行動を共にしたのは今回が初めてなんだ。組んでからまだ1週間くらいだな。第7軍団基地内で顔見知りではあったけど」
とソフィアとありきたりな会話をする。クララの方は興味津々にジェズを見ながら、
「普段はどんな生活してるんですか?」
「本当に普通に生活してるぞ?」
と立て続けに質問を重ねていく。なんだろう、普通はドキッとする質問のような気がするのに全然ときめかない。完全に珍獣扱いだな、これはとジェズは思いながらも穏やかな一時の団欒は過ぎていく。
・ ・ ・
グレイシアンにジェズ達がたどり着いた日の夜。ジェズやジャミール含めたアルファズ隊が久々に屋根があり柔らかいベッドで泥のように爆睡する中、グレイシアンは魔物軍からの大規模な夜襲を受けた。
これらの夜襲は第8軍団の第1連隊と第3連隊の活躍により退けられるものの、どうやらオークキングも出張ってきたようで小さくない被害が出る。
トンネルを潰された事からどうやら敵方も本格的な攻城戦に取り掛かったらしい。こうしていよいよグレイシアン攻防戦の最終幕が始まろうとしていた。
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