第23話
「なぁ、あれだけ強いなら敵の殲滅もできたんじゃないか?」
無事にグレイシアン城内に辿り着いたジェズやソフィア達。お互いの自己紹介を済ませた後、自身やクララ達の命を救ってくれた礼を伝えたソフィアは先ほどから気になって仕方がない幾つかの事を確かめていた。
眼前のツッコミ所満載な男について、まず聞きたいのはその武力。あれだけの力があれば単騎で相当の戦いができるはずだが、
「あぁ、それな。単純に俺は継戦能力が極端に低いんだよ」
と非常に大事な情報を何事もないかのようにさらっと答えた。ジェズが言うには彼はどうやら魔力圧縮が非常に得意な反面、魔力放出が極端に下手。と言うか放出が下手だからこそ圧縮が得意らしい。イメージ的には栓が詰まった水道のようなもの。
そのため一度魔力を練って魔力を放出しようとすると、どデカい一発しか放てず調整が効きづらい。要するに燃費がすこぶる悪いのだ。
魔力放出が下手なためにろくに遠距離魔法も使えないが、その代わりにとんでもない威力の近接攻撃が可能。
これらの前提を踏まえると目の前の彼は一撃離脱戦法や強敵の斬首作戦には非常に親和性が高い一方で、雑魚敵も多く移動もある会戦系の戦には相性が悪い。
実際にジェズはコハネを出立してからここまでの6日間で、街道で遭遇したオークジェネラルに一発、トンネルでの山突き、そして先程の後ろ回し蹴りに震脚と大技についてはたったの四発しか放っていない。
街道での戦いの際にはオークウォーリア達を瞬殺していたが、あれもオークジェネラルへの一発のための準備運動のようなものである。いずれにせよ戦闘時間自体はどれも1分もかかっていない。ウル◯ラマンかよとジェズは内心で自身の戦闘スタイルに突っ込んでいた。
グレイシアンに来てからは小物への対応はジャミール達アルファズ隊が上手くカバーに入っていたのだ。余談ではあるがこのような背景もあり、弓がメイン武装で手数は多いが一撃の重さに欠けるアルファズ隊と一撃の重さは圧倒的だが継戦能力に欠けるジェズはチームとして非常に相性が良かった。
ジャミールとしてはとんでもない攻撃力の爆弾を守りながら抱えて運び、それを1番強い敵に投げつけて後は爆発するのを待つような感覚でここ数日部隊運用をしている。なおこの感覚は流石にどうかと思ったのでジェズには言っていない。
ジェズからこれらの説明を聞いたソフィアは内心で「…え、何その脳筋仕様」と若干ひきつつ話を続ける。
「ありがとう、確かにそれならこの対応も納得できる。…次の質問もいいか?」
「ん?全然いいぜ?」
「…何で官服なんだ?」
ソフィアとジェズの会話をそばで聞いていたクララや第8軍団の面々がその疑問に同意するように頷く。ある意味当たり前なそのリアクションを見たアルファズ隊の面々は生暖かい目になっていた。
「なんでって。そりゃ文官だからに決まってるだろ」
答えるまでもないだろ?と言いたげな雰囲気であまりにも当たり前すぎる回答をしたジェズの様子を見たソフィアは「あれ、私が間違ってるか?」とやや困った表情でジェズを見ていると
「ジェズ、相手が困ってるだろ」
とジャミールが近くにまでやってきた。軽く挨拶を交わすソフィアやジャミール達。第8軍団の戸惑う様子に苦笑いしながらジャミールが説明する。
「彼は本当に文官なんだ。第7軍団参謀部付きの。ただまぁなんだ、ちょっと力が有り余ってる感じのな。ちなみにレネ姫のお気に入りだ」
ジャミールの説明を聞いていても半信半疑だった第8軍団の面々だったが、最後の「レネ姫のお気に入り」という言葉を聞いて「あぁ、そういう部類ね」と消化不良ながらも納得する。
このやりとりを見たジェズは「解せぬ」と思いつつも余計な一言は挟まない。こうして若干わちゃわちゃし始めたところで
「ジェズじゃないか!すっかり大人になったな!」
と第8軍団軍団長のフィン・モーガンがやってきた。
なお後日談として。派手に命を救われたことから第8軍団の女性陣から興味津々に問い詰められたソフィアとクララは「確かに彼のことは気になったが気になるの方向性が違う、色々とインパクトが強すぎて全く恋愛対象に見えない」と血も涙もないコメントを残していた。
・ ・ ・
その後。城門前から移動して馬や装備を第8軍団基地内で預けたアルファズ隊の面々は約1週間ぶりにちゃんとした屋根がある部屋で休息に入るが、ジャミールとジェズだけはフィンに連れられてそのまま基地司令部へ向かう。
「そう言えばジェラルドは元気にしてるか?」
「えぇ、最後に会ったのは数ヶ月前ですけど。父は相変わらずぴんぴんしてますよ」
フィンからの質問に答えながら歩くジェズ。2人の会話に出てきたのはジェラルド・ノーマン。ジェズの養父にしてノーマン辺境伯家当主。そしてタッシュマン王国最強の男にして人類最終兵器の異名を持つ北方戦線を守る軍団長でもある。
「アイツは殺しても死ななそうな奴だしな。それで?ジェズのその格好は?」
「官服ですね。文官やってるんですよ」
「ふむ?お前が文官?…あぁ、弟達のためか?」
「まぁそれもありますけど。仕事の内容自体も結構好きですよ?」
と一見すると久々に会った近所のおっちゃんと話す他愛のない内容に見せかけて色々と重要な情報が断片的に聞こえてくる会話。
一緒に歩いていたジャミールは「これ、聞いていいのか?というか貴族の家が絡むような話は出来れば余計なことは聞きたくないんだが」と微妙な表情になっていた。
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