第22話
時は少し遡りジェズがオークジェネラルの大剣をへし折る約2分前。
オスカー率いる第8軍団第2連隊と戦場にて無事に合流したアルファズ隊とジェズ達は、その周囲をチャリオット隊に守られながらグレイシアン城内に向かっていた。
この1週間弱、完全に孤立無縁な状態の中で連戦に連戦を重ねてきたアルファズ隊の面々は久々の大規模な友軍にほっとしながらも最後まで気を抜かずに陣形を維持したまま駆けていたが、城門がすぐそこに見えてきた時に不測の事態が起きる。
アルファズ隊を守るように展開していたチャリオット隊の右翼後方が敵の攻撃により崩れたのだ。
数台を巻き込んで本隊から外れてしまうチャリオット隊の負傷兵達。それを遠目に確認したジャミールはマズイと思いながらも、
「止まるな!ここで止まると後ろと衝突するぞ!」
集団行動中の騎馬隊は中途半端な行動を取ると大きな事故につながる。そのために迅速な指示を出してそれを予防。まずはグレイシアン城内に入ることを優先する苦渋の決断を下した。
どうやら殿軍のオスカーも同様の指示を出しているらしい。
そんなジャミールの指示を聞いていたとあるアルファズ隊の隊員の目の前には例の文官が馬で駆けていたが。
「よっと」と軽い掛け声と共に爆速で走る馬上の鞍の上にまるで曲芸のように立ち上がる。
「ジェズさん⁉︎」
「お?おぉ?」と鞍の上でバランスを取るジェズに対してアルファズ隊の若手有望株、メイ・カーターは文官の奇行にギョッとしたような視線を向けるが、
「カーター、すまんがちょっと行ってくる。ジャミールにも伝えといてくれ。あと俺の馬を頼む」
そう言い残すと足に込めた魔力を解放しながら「ほっ」と軽い掛け声と共に鞍から盛大にジャンプした。
周囲を走るメイ達のアルファズ隊や、更にその周辺のチャリオット隊を飛び越して綺麗に着地を決めたジェズが走り去っていく様子を見届けたメイは、
「ジャミール隊長にはなんて報告すれば…」と非常に戸惑いながらもジェズが残していった馬の手綱をなんとか巻き取りそのままグレイシアン城内へ駆けて行った。
なおこの直後、若手故に直接ジャミールへ報告する事にやや緊張してテンパったメイが放った「ジェズさんが飛びました!」という非常にシュールな台詞の不意打ちを受けたジャミールは柄にもなく吹き出す事になる。
そしてメイはしばらくの間このネタでアルファズ隊内で弄られる。若手の微笑ましい仕事失敗ネタに割と容赦が無いアルファズ隊の先輩達であった。
・ ・ ・
そして話は現在に戻る。ソフィアとクララを守るようにオークジェネラルの前に立ち塞がったジェズは振り下ろされた大剣を真剣白刃取りし、腕に力を込めてそのままへし折った。
その様子を見たオークジェネラルは折れた大剣を捨てると、ジェズを警戒するように油断なく構える。
ジェズもオークジェネラルやその周辺の魔物達を警戒しつつ、
「大丈夫か?」
と背後に確認。ジェズに声をかけられたソフィアとクララはハッとすると、
「すまない、助かった」
「ありがとうございます、助かりました」
と無事な事をジェズに伝えた。負傷兵達の回収も済んでいる。このままチャリオットで離脱も可能だ。目の前の官服の男は何なんだ?といまだに混乱しつつもソフィアは
「負傷兵の回収も済んでいる、このままチャリオットも出せるがどうする?」
と眼前の謎の文官?に確認すると、
「わかった、ちょっと待ってくれ」
その一言と共に男は一気に身に纏う魔力出力を上げるとオークジェネラルに接近。それに反応したオークジェネラルが殴りかかるが、その場でくるりと回転して攻撃を捌きつつ足に魔力を込めて振り抜く。
後ろ回し蹴り。
敵を爆散させないギリギリのラインで手加減された一撃を腹に喰らったオークジェネラルは悶絶しながら周囲の多数の魔物を巻き込み吹っ飛んでいく。
飛んできたオークジェネラルにより周囲の魔物が混乱し対応に追われる中、更に足に魔力を込めたジェズは気合と共にその場でただただ強く全力で踏み込んだ。
震脚。
地面を魔力と物理的な振動が伝わり、ジェズ達に迫ろうとしていた魔物達の足元が爆散、ひび割れ、亀裂が入り周囲一帯の魔物達が阿鼻叫喚の地獄絵図に叩き込まれる中、
「出してくれ!」
ソフィアやクララ達のチャリオットに飛び乗ったジェズが催促する。「…え?何これ?」と呆気に取られていたソフィアはハッと我に返ると慌てて馬に鞭を入れてチャリオットを動かした。
グレイシアン城壁からの援護射撃を受けたソフィア達一行はこうして無事にグレイシアン城内に辿り着く。
彼女達が帰投すると同時。城門付近に展開していた重装歩兵部隊も最後にまとめて攻撃魔法をばら撒くと、敵が怯んだ隙に一気に城内に撤収。城門を無事に閉鎖する事に成功した。
こうして第8軍団第2連隊の活躍もありアルファズ隊とジェズ達はついに無事にグレイシアン城内に辿り着く。
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