第21話

オークジェネラルを討ち取ったままの勢いで周辺を蹂躙するオスカー達第8軍団第2連隊。


オスカーのハルバードが唸り、ソフィアが操るチャリオットが戦場を駆け、クララがチャリオットから攻撃魔法をばら撒く。


一見すると第8軍団優勢のままに戦況は推移しているが、


「隊長!そろそろ厳しい!」


チャリオットを操るソフィアが戦場全体を観察しながらオスカーへ進言する。


オスカーは眼前の敵を屠るために戦場全体の流れをしっかりと把握することができていなかったが、それをカバーするように副官のソフィアが戦場を駆けながらもその流れを見極めていた。


「他のエリアから徐々に敵が集まってきています!城門前にも敵が集結しつつある!このままだと敵陣真っ只中で孤立します!」


ソフィアがオスカーに戦況を伝えている間にもその周囲の魔物たちはひっきりなしに襲いかかってくる。それらをクララやその他のメンバー達が迎撃していくものの魔物側の数も一向に減る気配がない。


城門から打って出てすぐのタイミングにおいてはオスカー達が局所戦で圧倒していたが、敵も徐々にその兵力を第2連隊が暴れているエリアに寄せてきている。更にオスカー達への反撃と並行して城門への攻撃も苛烈さが増していた。


現在のところはオスカーやソフィア達騎馬隊・チャリオット隊は城塞都市からの援護射撃を受けられており孤立はしていない。


しかしこのままだと敵の物量に流され、城塞都市から援護を受けられない場所まで押し込まれた上に囲まれる危険性がある。


さらに城門付近も第2連隊の重装歩兵達が簡易陣地で持ちこたえているものの、敵が集結しつつあることから安全マージンがある内に城門を閉じたい。


それらの様子を認識した上でオスカーは周囲を再度確認する。


「ソフィア!第7軍団の先遣隊に動きは見られるか!?」


タイミング的にここが勝負どころと見たオスカーは、もしこのタイミングで第7軍団側に動きが見られなければ城門内へ撤退することを決心。頼む、来てくれと内心で祈りながら確認すると


「…第7軍団に動きあり!すごい勢いで戦場へ突っ込んできます!」


・ ・ ・


グレイシアンを囲む数万の魔物の大軍に向かって突撃していくアルファズ隊70+1騎。さすがにこの戦力差で突撃は無いわとジェズも珍しく内心で半笑いになりつつも全速力で突っ走っていく。


ジャミールも大概頭おかしいというか、肝が据わってるわなと頭の中の無駄に冷静な部分で茶化しながらも、あっと言う間に敵陣が迫る。


「一気にいくぞ!」


先頭を走るジャミールが指示を出す。アルファズ隊の70騎が一斉に弓を構え、戦術級マジックアローを打ち込んだ。その爆発により敵陣の一角に突破口が出来る。


「突撃!速度を緩めるな!」


全体から見ると本当に小さい敵陣のほつれからアルファズ隊が一気に雪崩れ込んだ。陣内で大暴れしている第8軍団に気を取られていた魔物軍はまさか背後から攻撃を受けるとは思っておらず、さらに混乱が深くなる。


その隙をついてアルファズ隊はわずか70+1騎で敵陣の中をどんどんと突破。


混乱からいち早く立ち直った一部の魔物たちも何とかジャミール達の邪魔をしようとするものの、ばら撒かられる攻撃により近づくことも出来ず、更にジャミール達が一目散に駆けていくことから有効な対応が出来ていない。


その突撃に気づいた第8軍団側も、進軍方向を一気に変えてアルファズ隊に向かって一直線に突き進んできた。


グレイシアンを囲む数万の魔物軍の陣内を突き進む第8軍団第2連隊とアルファズ隊。その2つの部隊がついに戦場で合流した。


「救援助かった!こちらは第7軍団先遣隊の百人隊長ジャミール・アルファズ!」


「こちらは第8軍団 第2連隊長 オスカー・ベイリーだ!こんなところで言うのも何だがグレイシアンへようこそアルファズ殿!貴殿らをこのままグレイシアンへエスコートさせてもらう!」


アルファズ隊を拾ったオスカー達第2連隊はそのまま戦場をぐるっと反転していき、グレイシアン城内へと帰投するルートに入る。


総勢571騎で駆けていく第2連隊とアルファズ隊。オスカーはアルファズ隊を守るべく集団の中央付近に彼らを寄せ、その周囲をチャリオットで守らせる。そして自身は集団の後方へ下がっていき殿軍を務めることにした。


オスカー達が第7軍団先遣隊と合流し、城塞都市内へ帰還しようとしている様子を確認した重装歩兵や弓兵、魔法兵が彼らを支援するために一斉に攻撃の出力を上げる。


戦場を飛び交う魔法や弓。それらを何とか掻い潜りながら攻撃を仕掛けてくる魔物の大軍。


そしていよいよ城門が見えてきた段階で、重装歩兵部隊が陣形を変えオスカー達を迎え入れる態勢を整えていく。


あと一息。


第2連隊、アルファズ隊の全員がそう思ったまさにその瞬間、わずかな隙が生まれ、


「「「なっ!?」」」


騎馬・チャリオット隊の集団後方右翼に位置していた一台のチャリオットに魔物の攻撃が直撃。投げ出される搭乗員。


そのすぐ近くに位置していたソフィア・クララ組のチャリオットが巻き込まれそうになるもなんとか回避しつつ、それを救助すべく戦列を離れて動いた。


これにより集団右翼側の陣形が崩れ始めるがこの様子を見たソフィアは


「止まるな!先にいけ!」


と周囲に指示を出す。やや離れた所にいたオスカーたちも騎馬の勢いからすぐ止まることも出来ずに「くそっ!」と悪態をつくと


「ソフィア、すぐに戻るっ!なんとしても保たせろ!」


騎馬やチャリオットの集団は急には止まれない。特にここまで勢いが出ている時には。まずは全軍を混乱させないためにもアルファズ隊を城内に送り届けることをオスカーは苦渋の表情で決断。


一方で集団から離れたソフィアとクララはすぐに自分たちのチャリオットに負傷兵達を回収。その周囲に近づこうとするモンスターは城壁からの支援射撃により何とか牽制できていたが


「オークジェネラルが来たぞ!」


城壁付近からの声に気づいたソフィアが振り返ると、大盾を構えて弾幕を超えてきたオークジェネラルがすぐそこにまで迫っていた。


「ひっ」


と隣のクララから悲鳴が上がる。絶体絶命の危機。なんとかクララだけでもここから逃がす、と覚悟を決めると同時に馬上槍を手に握りしめ敵を睨みつけるソフィア。


その気丈な様子に気づいたオークジェネラルはニヤリと笑うと大剣を一気に振り下ろすが、


「「「「「え?」」」」」


ソフィアに大剣が直撃する寸前。間一髪、ソフィアとオークジェネラルの間に飛び込んできた人影が、轟音を立てて足元の地面をめり込ませながらその大剣を受け止めた。


真剣・白刃取り。


戦場全体が一瞬の静寂に包まる。


人類も魔物も問わずその多くが何が起こったのか理解が追いついていない中、グレイシアン城門内についに辿り着いたジャミールとアルファズ隊の面々だけは「なんでアイツはあそこにいるんだ…」と頭を抱える状況で、


「あっぶね。…このクソオークが、ニヤニヤしてんじゃねぇよ」


戦場なのになぜか官服を身にまとった、完全に場違いな文官らしき風体の男が受け止めたオークジェネラルの大剣をそのままへし折る。


絶体絶命の危機、オークジェネラルの攻撃を受け止める官服を身に纏った男、壊れる大剣。…ん?官服??


そのどれもが情報量がありすぎてキャパオーバーになったソフィアは、


「…え?なんで文官??」


混乱した表情のまま一言呟いた。

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