第19話
ジェズ達がコハネを出撃してから6日目、グレイシアン近郊に到着してから4日目の夜。
トンネルを破壊した後、無事に敵の勢力範囲から離脱することに成功したジェズやジャミール達は簡易的に構築した野営地にて今後の方針を相談していた。
まずはジャミールがこれまでの経緯を焚き火の灯りを頼りに地面に木の枝で矢印など書きながら整理していく。
「俺たちがコハネを出撃したのが6日前。以降はコハネ出撃を起点として日数をカウントする。3日目にはコハネ-グレイシアン間の街道にて敵の伏兵に遭遇。これを撃破。ジェズがワンパンでオークジェネラルを倒してたな。その後そのまま進軍してグレイシアンに到着」
ジャミールの周りではジェズやテオ、アルファズ隊の面々が車座になって座り、コーヒーを飲みながら話を聞いていた。
「グレイシアン到着後には軍団旗を出してグレイシアン側へ到着を伝達。その後ファティマを伝令に出した」
確認のため一拍取ったジャミールは周囲の面々を見回すと「ここまでで何かあるか?」と問うたが全員が問題ない旨をリアクションするとそのまま話を続ける。
「それから3日はグレイシアン周囲の偵察を実施するも成果なし。そして今日の話だな。コハネ出撃後6日目、グレイシアンに到着してから4日目。敵の伏兵を確認。カリムを伝令に出した後、トンネルを破壊。今に至ると」
ジャミールもコーヒーを啜ると少し間を取り、
「改めて整理するとかなりの強行軍だな。みんな良くやってくれた。今晩は各自しっかり休んでほしい。でだ、ジェズ、姫はいつ頃到着すると思う?」
ジャミールの話を真面目な顔をして静かに聞いていたジェズは少し考えると
「最速だと明後日にはグレイシアンに到着するかもしれないな。元々はコハネから10日でグレイシアンに到着予定だったが、ファティマと無事に合流できていれば行軍を早めて2日は短縮できるはず」
「そうだな、俺も同じ見立てだ。やっぱ明後日が一つポイントになりそうか。とすると明日どう動く?」
ジェズと自身の見立てに差がない事を確認したジャミールは思案顔になる。優先度の高い目標である「グレイシアンへの先触れ」「敵伏兵への妨害工作」「第7軍団本隊への伝令」の全ては達成済みだ。
ここまでの強行軍を考えると明日は1日休みを取って英気を養うというのもアリではあるが。気になっている点もあった。
「ジェズ、物資はどうだ?」
「そろそろ厳しい。ここまでかなり強行軍だったからな。それにグレイシアンに到着してからは補給もできていない。まだ余力があるうちに補給は済ませておきたいな」
ジェズの回答を聞いたジャミールは一つ頷くと改めて周囲の部下達を見た。ジャミール自身も疲労を感じており、隊のメンバーの様子もやや疲労を感じさせる。
それも当然かと思いつつ、ただ今回は重症者もおらず全員の士気も高いまま。今晩しっかり休めば明日は問題なく動けそうだと判断した。
早ければ姫が到着する明後日から本格的な戦いが始まるのであれば、それまでに補給を済ませた上でちゃんとしたベッドで一晩でもいいから寝たい。野宿も続くとそれだけで消耗する。
それに例のトンネル。入り口は壊したとは言え不気味な存在だ。早いところグレイシアンに口頭で伝えたい。そう決めたジャミールは周囲を見渡すと
「まずは今晩から明日の午前まではこの場で休む。その後はグレイシアンの城塞都市内から見える位置まで進出して、なんとかグレイシアンへ入城できないか試そう」
・ ・ ・
翌日の昼過ぎ。グレイシアン城壁から城外の様子を視察していた第8軍団軍団長フィン・モーガンと第2連隊連隊長オスカー・ベイリーはグレイシアンを包囲している敵陣の更に向こう側に第7軍団旗を掲げる友軍をたまたま見つける。
「オスカー」
「はい、見えてます」
「どう見る?」
「先日の先遣隊と同一部隊でしょう。コハネからの本隊が到着するとしても明日以降です。ここ数日姿を見せなかったのに敵からも見える場所に姿を現したという事は、我々に伝えるべき事があるのかと」
オスカーの見立てを聞いたフィンは一つ頷き、
「私も同じ考えだ。昨日の丘の崩壊の一件かもしれん。…しかしどうやって連絡をつければ良いか」
グレイシアンの周囲は敵に囲まれており、100騎にも満たないような先遣隊では突破は難しいだろう。矢文も射程距離を考えるに難しい。さてどうしたものか?と思案顔になるが
「軍団長、私にチャンスをください」
「ほう?どうやる?」
「第2連隊で打って出ます。城門付近を歩兵1000で死守しつつ、騎兵500で敵陣に突撃。第7軍団先遣隊と合流次第速やかに帰投します」
「…良いだろう、任せる。城内の守りは第3連隊に後詰として入らせよう」
「ありがとうございます!では出撃の準備をしてきます!」
・ ・ ・
出撃準備を終えた第8軍団第2連隊は城門前で整然と待機していた。そもそも今回の籠城戦のきっかけは彼らの判断ミスにある。
その汚名を晴らす機会が来た事から士気は高い。更にこれまで1週間近く専守防衛に徹してきた事から鬱憤も溜まっている。
部下達の猛々しい雰囲気を感じつつも、誰よりもオスカー自身が燃えていた。
そしていよいよその時が来る。大きな銅鑼の音と共にこの1週間弱ずっと閉ざされていた城門が開いていき、堀に橋がかかり始める。
城外に陣取っていた魔物軍が急な展開にざわつく中、
「行くぞ!!!!!全軍突撃ぃいいいいい!!!!!」
オスカー・ベイリーは全軍の先頭で檄を飛ばすと馬に鞭を入れ、そのまま誰よりも早く城外に出撃。
一気に魔物軍の陣地まで突撃していくと手にしたハルバードを振い魔物達を吹き飛ばすと
「俺に続け!!!!!!」
と戦場全体に響き渡るほどの咆哮を上げた。
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