第17話
「おぉ…さすがアルファズ隊。あの数によく突っ込んでいくな」
「いやいやジェズさん、アンタがそれを言っちゃダメでしょ」
ジャミール率いるアルファズ隊70騎が敵軍数千体がいる野営地に突っ込んでいき、それを蹂躙する様をやや離れた場所から眺めていたジェズが感嘆の声をあげた。
それを聞いてツッコミを入れるのがアルファズ隊第4席テオ・マーチャント。ジェズの吶喊を支援するためにジャミールがジェズにつけた10騎の指揮官だ。
ジャミールの性格を反映して比較的真面目な性格の者が多いアルファズ隊の中では珍しく飄々としており、今回の遠征前からジェズとも親交がある。
第7軍団基地の朝練ではジェズとテオの2人で真面目な顔をして適当なことを参謀部のレイルに吹き込み、そしてそれに後から気づいたレイルに2人して怒られると言う非常にしょうもない事をしている仲だ。
そんなジェズとテオ達11騎はジャミール率いるアルファズ本隊の活躍を遠目に見ながら今か今かとタイミングを見計らっていた。
そしてついにジャミールが大技を使い一体のオークジェネラルを討ったところで魔物軍全軍に動揺が走り、陣形が乱れていく。
その様子をじっと観察していたジェズがついに
「見えた!!!!いくぞ、フォローを頼む!!!」
「はいよ!!!任せな!!!!」
トンネル入り口までの道筋を見切って飛び出したジェズに続き、その後を追うようにテオ達アルファズ別働隊の10騎も全速力で駆けた。
ジャミール達の攻撃により混乱状態に陥っていた魔物軍はジェズ達11騎に気付くのが遅れる。そして気づいた時にはすでに野営地のすぐ側まで接近を許しており、
「邪魔だ!!!!!」
ジェズ達の突入を許してしまう。しかし混乱しているとは言え、数が数。あっと言う間に数の暴力で進行方向が防がれそうになるが、
「はい、そこ通してね〜」
と軽口を叩きながらジェズの背後からテオが馬上より超精密射撃で援護。敵の大軍に突っ込んで行きながらも正確に進路上の魔物のみを狩っていく。
これがアルファズ隊第4席テオ・マーチャントの絶技。こと精密さだけ見ればアルファズ隊でも最高の弓の腕を持つのがテオだった。
敵の大軍の真っ只中を駆け抜けていくジェズとテオ達。ジェズの進路上から次々と魔物が飛び出してくるが、その尽くを精密射撃で撃ち落としていくテオ。そして進路周辺の魔物はテオ以外のメンバーが駆除し続ける。
いよいよトンネルも近づいてくると敵もこちらの狙いに気づいたようで圧力が一層強くなった。
そして敵陣に深く侵出し続けるといよいよ精密射撃も効果が薄くなってくるが、その状況を見たテオが
「風よ、我が願いを聞き届けよ。無数の矢を創り、目標に向けて正確に射て。風を操り、敵を貫く無数の矛となれ!第6階梯魔法 風霊群矢!!!!」
マジックアローを構えたまま詠唱を始めると、弓につがえた矢の周囲に多数の魔法の矢が出現。そして矢を放つと、それに追随して多数の魔法で出来た矢が進路上にいた魔物達にまるで吸い込まれるように次々と突き刺さっていく。
一本の矢を起点に魔力の矢を複数形成し、風を用いて敵に当たるまで誘導する魔法、風霊群矢。ジャミールがオークジェネラルを討つために使った風霊導矢に比較すると圧倒的に火力は落ちるものの、面制圧能力では勝る魔法だ。
しかも単純に魔力量があれば使えるような魔法でもなくマルチタスクや高い技量が求められる。そのため実戦でこの魔法を用いる、しかも騎乗しながらとなると完全に絶技である。
普段は一緒にふざけているテオのそんな絶技を間近で見たジェズは、空いた進路を駆け抜けながら内心で「多弾頭マルチロックでしかもホーミング付きとかヤバいな」と驚きながらもさらに速度を上げていく。
テオ含めたアルファズ分隊は戦術級マジックアローも解禁してどんどん敵に打ち込んで行き血路を拓く。
そしてついに、
「見えた!!!!一気に決める!!!!」
ジェズが馬上でその両手に一気に魔力を込め始めた。その両手からは異なる色味をした魔力が溢れ始め、まるで反発するかのようにバチバチと音が鳴る。
ジェズの手元で凝縮されていく魔力に気づいたテオが「マジで?」と苦笑いしながら呟いているとと、いよいよトンネル入り口が近づいてきた。
そのサイズは人間の背丈を優に越え、オークジェネラルや遠くに見えるオークキングでも通れそうなサイズだ。
しかもトンネルが掘られた丘のサイズも至近距離で見るとなかなかにデカい。ちょっとした山のようなものである。
「これ、本当に大丈夫か?」とテオが一抹の不安を感じるが、
「ほっ」
と軽い掛け声で馬から飛び降りたジェズが一気にトンネル入り口に迫る。それをテオ達が援護し、ジェズに近づこうとする魔物を片付けていく中でついにジェズがトンネル入り口に到達。
一気に踏み込んだジェズは
「ふっ!!!!!」
と軽い息を吐き出しながらまるで上半身ごと突っ込ませるかのように、右の拳を上段に、左の拳を中段に構えたまま、両の拳をトンネル入り口構造物に叩き込んだ。
山突き。
魔力が弾ける盛大な音とともに轟音が周囲一体に響き渡り、盛大な土煙と共にトンネルの入り口ごと山が崩れた。
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