第16話
「…また突っ込むのか?」
「それ以外に方法があるか?」
ジェズの「トンネルは俺が壊す」発言を聞いたジャミールはやや呆れ気味に尋ねた。確かにジェズが言う通りあのトンネルを壊すための方法はそう多くはない。
敵陣ど真ん中、かつしっかりした構造物を破壊するためには一撃の重さが間違いなく必要となる。高火力の魔法職でもいれば遠距離からの攻撃でもなんとかなったかもしれないが、
「まぁ、確かに他に方法はないか…」
敵陣の様子をチラリと確認し、そして再度馬上で体をほぐしているジェズを微妙な表情で見たジャミールはため息を吐きながら同意した。
「で?俺たちはどう動けばいい?」
・ ・ ・
その日オークキングは朝から非常にご機嫌だった。数ヶ月前から長い事続いているつまらない作業もそろそろ終わりが見えてきたのだ。
作業も順調、天気も良い、体の調子も良いし、部下もよく働いてくれている。もうしばらく我慢すればあの忌々しい人間どもの都市も落とせる。
そんなご機嫌な彼を邪魔するかのように、野営地の端の方が騒がしくなった。そちらの方を確認すると騎乗した人間が数十騎見える。どうやらこの場所が人間どもにばれたらしい。
1人も逃すな、と指示を出した彼はどうせすぐ片付くだろうとその場でのんびりと報告を待つことにした。何せこちらは5000体もの同胞がいるのだ。流石に数十騎では何もできないだろう。
そしてしばらくの後。そういえば殲滅が完了したとの報告が来ないな?と悠長に構えていた彼の視線の先、同胞達の一角が吹き飛んだ。
・ ・ ・
ジェズの護衛に10騎与えて彼ら突入班と別れたジャミールは、残り70騎となったアルファズ隊を見て気合いを入れ直した。
「さて諸君、仕事の時間だ。今回はジェズ達別動体がトンネル入り口まで近づき破壊工作を成功させるまで俺たちで敵の注意を惹きつける。敵の数はご覧の通り数千体。更にオークキングもいるぞ」
普通であればそれなりに絶望的な戦力差の中、アルファズ隊の面々は引き締まった表情でジャミールの指示を聞いていた。
「今回は戦術級マジックアローの使用を解禁する。弾数制限も無しだ。好きに撃て」
ジャミールの言葉を聞いた隊の面々が軽く口笛を吹きニヤリと笑う。久々にアルファズ隊の本領が発揮できそうだと。街道での戦いでは敵が弱すぎたこととジェズがイレギュラーすぎて実は消化不良な面々であった。
「今回の戦闘ではジェズ達の破壊工作成功を確認次第、一気に戦場から離脱する。全員、遅れずついてこいよ」
そして各々が武装を整えると、
「街道での戦闘ではジェズにいいところを持って行かれたしな。俺たちの実力もアイツに見せてやろうじゃないか。…行くぞ!!!!!アルファズ隊、出撃!!!!!」
「「「「「おう!!!!!」」」」」
・ ・ ・
ジャミールが先頭を駆けるアルファズ隊70騎は、敵軍の索敵範囲内に入りモンスター達にその存在を気づかれるとほぼ同時に全速力での突撃を開始。
それを見て驚く魔物軍。何せ敵は100騎にも満たず、こちらは5000体。むしろ如何にして逃げる敵を殺そうかと考え始めていたのだから。
魔物軍が初動にもたついている間にあっという間にアルファズ隊の面々は魔物軍を有効射程に捉え、
「撃て!!!!!」
ジャミールの指示とともに一斉に魔物軍の野営地に矢が降り注ぐ。そして連続して響く爆発音。ただの矢が発して良い音ではない。
たかだか数十騎の騎兵の矢の攻撃だろうと甘く見ていた魔物軍は一瞬で混乱に陥った。その間も容赦なく魔力が大量に込められた矢が降り注ぎ、魔力が爆発を引き起こし野営地外縁部が焦土と化していく。
敵の騎兵に反撃しようにも魔物達の攻撃範囲からはやや遠く、ゴブリンマジシャン達の魔法攻撃も騎馬の早さに対応できていない。
そして敵の騎兵は野営地外縁部を駆けて抜けていきながらどんどん矢を放ってくる。このままでは全軍に混乱が伝播しかねないと危惧した数体のオークジェネラルが野営地の奥の方から外縁部へ進み出てきた。
そしてその手に持った大剣や大楯で矢を弾く。その様子を見たジャミールは「やっと出てきたか」と思いつつ部下に指示を出す。
「詠唱付きで戦術級マジックアロー使う!!!支援を頼む!!!!」
指示と同時、騎馬隊は彼の周囲を守るようにして陣形が入れ替わる。それを確認した、百人隊長にして騎乗の天才、弓の名手にして風の魔法使い、ジャミール・アルファズが風に祈る。
「風よ、我が呼び声に応えて、力を貸し与えよ」
ジャミールが馬上で構えた矢が風を纏い、
「空を駆ける矢となり、敵を打ち払うべし」
矢に込められた魔力が鮮やかな淡い緑の光を放ち渦巻いていく。そして
「我が意志を導き、我が矢を導け。風の精霊よ、今、我と共に!第7階梯魔法、風霊導矢!!!!」
詠唱の完了と共に矢を放つ。放たれた矢は音速を超える早さで戦場の空を駆け、オークジェネラルを貫いた。
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