第15話
ジェズ達がグレイシアン近郊に到着してから3日目。第8軍団が守る城塞都市が魔物軍数万により包囲されていたことからグレイシアンに入城できなかったジェズ達は、敵軍の構成や伏兵の有無などを調査するために偵察を実施していた。
とくにキング級の居場所を確認したかった彼らだったが3日かけても見つけることが出来ない。そこでジェズの何気ない一言を元に、グレイシアンから少し距離があり攻城戦を行う際の戦術的には意味がなさそうな場所にまで念のため足を伸ばすことにしたのだが、
「…おい、めちゃくちゃいるぞ」
ジャミールが呆気に取られたように呟いた。グレイシアンから見て丘陵地帯の裏側、やや窪地になっているために高低差が大きくなっておりグレイシアン側から完全に死角になっている場所。そこには魔物軍の野営地らしきものとそこに駐屯する魔物の大軍が見つかった。
その数はおよそ数千体。さらにその中央部付近には何やら指示をだしている様子の異彩を放つ一際屈強なオークの個体が見える。アレがおそらくこの魔物軍を率いるオークキング。まさかの大正解である。
一部隠蔽魔法なども使っているようだがさすがにこの規模の軍勢の気配を完全に隠し切ることは出来ておらず、ジャミールやジェズ達は一発で敵の存在を感知することが出来ていた。
敵軍の様子にやや呆気に取られていたジャミール達アルファズ隊の面々。更にこちらを索敵するように提案したジェズも驚いた表情をしながら、
「マジで居るとは…。しかしあいつらこんな所で何をしてるんだ?」
繰り返しになるがこの位置は確かにグレイシアンから死角になっているため兵を伏せるには悪い場所ではない。しかし攻城戦を展開するには距離がありすぎる。既にグレイシアン周辺に展開している友軍を支援するには遠すぎるのだ。
他にも仮に攻城戦を展開する友軍が敗退した際の殿軍や、あるいは敗走を欺瞞して敵を釣り出すにしては位置が中途半端すぎる。グレイシアンを封じたままスルーしてタッシュマン王国内に攻め入るには魔物の数が微妙で戦力的に心許ない。
ジャミールやジェズ達は「なぜこんな所に?」という疑問を抱いたままお互いの意見を確認するが敵の真意が見えない。
そんな中、アルファズ隊第3席のカリム・ナジームが双眼鏡を覗いたまま
「隊長!!!あそこを見てください!!!!!」
と驚きと焦りを含んだ声音で報告した。
・ ・ ・
「まさか魔物軍がトンネルを掘ってるとは…これは結構ガチでヤバくないか?」
「あぁ、これはさすがに不味いな」
ジャミールが非常に渋い顔で呟き、そしていつも飄々とした雰囲気を崩さないジェズが腕を組んだまま真面目な顔で考えている。
カリムが見つけたのは丘陵部から窪地にかけての境目、付近一帯で一番標高が低い部分に存在する洞窟のような入り口だった。その入口は木組みで補強されており、多くのモンスターが出たり入ったりしている。
洞窟の中から出てくるモンスター達は大量の残土を抱えており、そのまま付近の小山に投げ捨てている。その小山もよく見ると土が真新しいというか湿気った様子が分かる。ボタ山のようなものなのだろう。そのサイズは相当のものになっていた。
「ジェズ、これはどう見る?」
「…確証はないがもしかしたらグレイシアン直下までトンネルを掘り進めているのかもしれない。あるいは都市直下じゃなくても城壁付近の地盤を崩壊させたら城壁が一気に意味を成さなくなるかもな」
「やっぱそう思うような。しかしこれだけの規模、よくバレないままやっていたな」
「魔物が増えている事自体は数ヶ月前から報告されていた。ここも恐らく数ヶ月前から掘っていたんだろう」
ジェズ達の眼前で魔物軍がトンネル工事に勤しんでいるこの場所は、報告されていた魔物の出現エリアからはズレている。おそらく他の地域はわざと数ヶ月前から魔物軍を人類側に見つかるように配置して注意を引き付けていた。本命を隠すためのダミーだったのだろう。
この場所はこれまでひたらすら隠蔽魔法で隠してきて、完成が見えてきた事でグレイシアンを一気に囲んで人類側を城内に留めたまま大規模な工事が可能なようにしたのではないか?
「なぁ、最近の魔物はこんなに賢いのか?」
呆れたような口調ではあるものの危機感満載の表情でジャミールが尋ねる。ジェズは記憶を引っ張り出しながら
「過去にも魔物軍が戦術・戦略らしきものを用いてきた事例は複数ある。数年前の北方戦線でも。ただオークの場合はジェネラル級はもちろん、キング級でも今回のような手の込んだ手段を考えつくのは難しいだろうな。オーク種の場合はエンペラー級が出たか、あるいは比較的知能が高い種族のキング級以上だ」
「…そうか。何にせよ状況が想定していた以上に不味い事はわかった。グレイシアン側に一刻も早く伝える必要があるな。姫にも早く伝えたい」
ジャミールはしばらく考えた後、
「カリム、お前にも10騎与える。姫に一刻も早くこの事を伝えてくれ」
「…承知しました、隊長たちもお気をつけて」
そう言うとアルファズ隊第3席 カリム・ナジームも自身含めて10騎でアルファズ隊を離れてコハネ方面へ駆けていった。それを見送りつつ、
「さて、俺たちはどう動くか…。グレイシアン城内にも一刻も早く伝える必要があるし、ここも少しでも妨害工作できれば良いんだが…。残り80騎でどう動くか」
ジャミールやアルファズ隊の面々が焦りながらも困った表情をする中で
「まずは少しでも時間を稼ぐために妨害工作をしないか?トンネル入口付近の崩落は俺がやってみる。だからジャミール達は敵の意識を引き付けてくれるか?」
脳筋が馬上でウォームアップを始めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます