第14話

ジャミール率いるアルファズ隊とジェズ達はグレイシアン近郊に到着後、城塞都市グレイシアンに近づく事ができずにいた。


軍団旗で所属を示した直後、グレイシアン城壁から狼煙が上がったことからこちらの存在が都市側に認知された事は確認。これで第7軍団が数日から遅くとも1週間以内にはグレイシアンに到着する事が第8軍団側にも伝わった。


籠城戦を遂行している友軍にとっていちばん大事な「援軍がもうすぐ来るぞ」という情報を伝え終えたジャミールは、先遣隊の最大の目的は果たしたと思いつつも次の行動を迷っていた。


この場合、選択肢は大きく3つある。1つ目はこのまま引き返して第7軍団本隊と迅速に合流し、第7軍団の進軍スピードを上げてグレイシアンに戻ってくること。2つ目はこのままグレイシアン近郊で魔物軍から距離を取ったまま即応体制を維持しつつ、各所の偵察を行い敵軍に関する情報を収集すること。そして3つ目は何らかの手段でグレイシアンに入城すること。


これらの選択肢で悩んだジャミールは副官であるファティマとジェズに相談することにした。


「で、どうしたら良いと思う?お前たちの意見も聞きたい」


ジャミールから3つの選択肢の大枠を聞かされたファティマは少し考えた後、


「第7軍団本隊への報告は必要かと。このまま待っていると本隊は約7日後に到着するかと思いますが、私達が戻って姫殿下に報告すれば1,2日はグレイシアンへの到着を早める事が出来るはずです」


ファティマの意見を頷きながら聞きつつジェズの方も確認するジャミール。少し前までであれば文官に戦場でのあれこれを聞くつもりは無かったがオークジェネラルの一件や北方戦線での経験から考えを変えた。というか未だに文官がオークジェネラルをワンパンで片付けた事に違和感があるのだが、それはさておき。


ジャミールから発言を促されたジェズも少し考えつつグレイシアンの方を見ながら、


「まずは情報が必要だな。そもそもグレイシアンのような規模の城塞都市が見た感じ比較的綺麗なままで籠城戦を行っているのが違和感がある。都市周囲の平原も見た限りでは戦闘の痕跡もないしな」


「確かにそれは俺も気になってた。まるで気づいたら包囲されていて苦肉の策としての籠城戦を選択したような印象だよな」


「あぁ。普通だったら大軍が都市に押し寄せてくる場合、都市が包囲される前にある程度の数は間引く。そう言えばだけど俺たちが街道で遭遇した魔物軍が隠蔽魔法で隠れていただろ?もしかしたらアレと同じような状況かもな」


ジャミールとジェズ、ファティマの相談はしばらく続き、手持ちの情報と意見を出し切った後にジャミールが決断した。


「よし、じゃあまずはファティマ。10騎与える。本隊への連絡を頼む」


「承知しました」


「そして残りの90騎とジェズはまずはこの魔物の大軍の周囲を偵察するぞ。この規模の魔物軍ならキング級がいるはずだがそれが見当たらないのも気になる。敵の伏兵や増援があるかもしれない。それを確認する」


「異論なし」


「よし。俺たちは2,3日グレイシアン近郊を偵察し、その後タイミングを見てグレイシアンへの入城を試みる。城内の兵の士気もあるだろうからな。ではこのまま行動を開始する。ファティマ、姫への連絡は頼んだぞ」


「はい、隊長も気をつけてください」


今後の方針を確認し終えたジャミールやジェズ達はそのまま行動を開始する。ファティマは自身を含めて10騎でアルファズ隊を離れ、これまで駆けてきた街道をコハネ方面へ再度駆けていった。


ジャミールやジェズ達はグレイシアンから一定の距離を保ちつつ街道から外れ、敵の大軍が見えるか見えないかのギリギリの場所を進んでいく。


・ ・ ・


グレイシアンが籠城戦を開始し、ジャミールやジェズ達がグレイシアン近郊に到着してから3日目の朝。グレイシアンを包囲している魔物軍は引き続き散発的な攻撃をグレイシアンに加えているがその尽くを跳ね返されていた。


一方でジャミールやジェズ達はグレイシアンをぐるっと囲うようにその周囲の偵察を続けていたが目ぼしい情報は得られないまま時間が過ぎていく。


グレイシアン付近の平原に展開した魔物軍から見つからないように気を付けつつの偵察のため難儀している部分もあるのだが、それにしても何も見つからない。この規模の魔物軍でキング級が見当たらないなんてことがあるのか?とジャミール達は焦れていた。


「この数日で敵の伏兵や援軍、後詰めも見当たらない。魔物軍の長らしき個体も見つからず。しかもグレイシアンを囲んだ魔物軍が積極的な攻勢に出るわけでもない。…違和感しか無いな」


そんなジャミールの言葉を聞いたジェズも頷きつつ、


「索敵範囲を広げてみないか?すこし距離はあるがあの辺りの丘陵部や森なんかは伏兵にはちょうどいい場所だ」


「そうだな、ただグレイシアン近郊に展開している友軍と連携するには距離がありすぎると思うが…まぁここまで来たんだ。確認しに行こう。それで何もなければグレイシアンの方向へ戻ろう」


結果としてジェズのこの一言がグレイシアンを救い戦局を大いに動かす事となる。

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