第12話
ジェズの拳を真正面から受けたオークジェネラル。その腹には巨大な風穴が空いていた。
しばらくはその場で呆然とした様子で立っていたオークジェネラルだったがまるで「信じられない」とでも言うように首を数度振ると、ジェズの方を睨んだまま後ろに倒れていきそのまま息絶えた。
再びの衝撃に戦場全体に一瞬の空白が生じる中、ジェズは何食わぬ顔をして何度か指笛を鳴らす。その音を聞いた彼の馬が戦場外縁部から一目散に駆けてきた。
ジェズの周囲にいたゴブリン達がハッと正気に戻ると、ジェズに殺到しようとするがその直前で彼は駆けてきた馬に飛び乗り敵陣中央をそのまま離脱する。
そしてジャミールの方まで駆けていくと「あとはよろしく」とひと声かけて戦場から外れていった。なお当然ながらジャミールの方に駆けてきたジェズの後ろからは沢山のゴブリンが追いかけてきている。
冒険者界隈ではいわゆる擦り付け・トレインなどと呼ばれるご法度な行為だ。ただし軍においては作戦として採用されることもあるので一概にご法度というわけではないのだが、
「あんのバカ野郎、先に言っとけ!!!!」
と普段はクールなジャミールが珍しく怒りながら、ただし至極真っ当なことを言いながらもゴブリンの残存部隊を片付けていく。なおジェズとしてはジャミール達の実力や戦いぶりから問題ないだろうと判断してパスしたつもりである。
・ ・ ・
数分後。コハネ~グレイシアン間の街道にて。魔物軍約500体の掃討を完全に完了したアルファズ隊とジェズら101騎は休息も兼ねつつ戦場の後片付けをしていた。
そこら中に転がるモンスターの死骸を纏めて燃やしたり、再利用可能な矢を回収したり、一部の魔石や貴重な素材を回収しつつそれらの記録をつける。アルファズ隊にはその機動性を活かすためにも貴重なアイテムボックスが支給されておりこれらの魔石や素材も可能な範囲で持ち運ぶことが出来た。
なおタッシュマン王国においては軍事行動中に得られた魔石や素材についてはその6割が国庫に納められ、残り4割がその部隊に支給される。各部隊内での按分比率は隊によっても差はあるが、概ね平等に均等割という部隊が多かった。
6割を国庫に納めることが多いか少ないかは意見が分かれるところではあるが、日々の食生活や住居、特殊な武器を除いた基本的な装備一式は国や軍から支給されることからこの割合でも充分と考える者も多く、実際のところタッシュマン王国においては冒険者として身を立てるよりも軍に入った方が実入りが多いケースも多い。
これらの施策によって軍への入隊希望者も多くその品質向上にも寄与していた。最前線国家ではない他国の事情は他として、少なくともタッシュマン王国においては軍関係の仕事は花形職業の一つでもある。
話を戻すとジェズはアルファズ隊の戦果を手元のメモに記録しながら、同時にジャミールと武器や矢の損耗、人員や馬の怪我なども丁寧に確認していく。
そのいかにも事後処理といった仕事を至極真面目な顔つきで文官らしく非常に勤勉にこなしていくジェズを見たジャミールは呆れながら
「おい、いまさらそんな文官ツラされてもな」
「いやいや、どこからどう見ても文官だろ」
「…確かに今やってくれている仕事はそうだな。それに戦果の記録も損耗の整理も正確だし早いしで非常に助かる」
「だろ?」
「ただな、どこの世界に素手でオークジェネラルに風穴あける文官がいるんだよ…」
「まぁそんな事もあるんじゃないか?」
ジャミールはジェズが整理した戦果にサインしたり、武器の損耗具合を確認しながらも呆れた様子でジェズと駄弁っていた。
「この話は姫さんにも直接報告させてもらうからな?」
と当たり前のことをジャミールが言ったところではじめてジェズが微妙な表情になる。
「…そこを何とか?」
「出来るわけないだろ。というか今までお前はどうしてたんだよ。アレで文官やっとけという方が無理があるだろ」
嫌がるジェズに更に呆れつつジャミールは当たり前の質問をする。それを聞いたジェズは再び微妙な表情をすると
「あぁ、まぁアレだ、一時期北方戦線にいたんだよ」
と微妙な表情をしたまま答える。ジェズの回答を聞いたジャミールは「ふぅん?」と言いつつも数年前までの北方戦線が激戦区だったことは当然聞き及んでいたためにそれ以上の詮索を止めた。
本人が話したくないことを無理に聞く必要は無い。それに「ノーマン」という家名もある。一介の百人隊長が首を突っ込むことでもないなと判断した。ま、人には色々あるわなと思いつつ、
「まぁ良い。いずれにせよグレイシアンに早く向かおう。ファティマ!!!」
ジェズとの会話を切り上げたジャミールは副隊長のファティマを呼ぶとそのまま部隊の状態を再確認する。今回の戦闘では人的被害はほぼゼロ。武器の損耗も問題ない。矢は消耗品だが継戦には問題ない。
「よし、では15分後に出発だ。グレイシアンに向かう。これから先も遭遇戦がありうるからそのつもりで準備しろ!!!!」
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