第11話
グレイシアンまで騎馬で残り数時間程度の距離までたどり着いたジェズ達の前に突如現れた魔物軍約500体。どうやら隠蔽魔法で街道沿いに身を潜めていたらしい。
ファティマが直前に敵の気配や魔力を察知したことで奇襲を受けることは免れたものの、この数の魔物をこんな主要街道沿いに放置するわけにもいかないジャミールは敵を殲滅した上でグレイシアンへ向かうことを即断した。
敵の構成はオークジェネラルを中心にした典型的な歩兵部隊である。オークジェネラルを守るように立つオークウォーリアが10体。そして一般的なゴブリンや斥候タイプのゴブリンスカウト、戦士タイプのゴブリンウォーリア、そしてゴブリンアーチャーに魔法タイプのゴブリンマジシャンから成るゴブリン部隊が500体程。
ゴブリン部隊は数や種類は比較的豊富であるもののアルファズ隊の敵ではない。問題はオークジェネラルとそれを守るオークウォーリアだ。
アルファズ隊の長所はその機動力と打開力であり、当然ながら攻城戦などには向いていない。彼らの主要な武器は弓や魔法であるためゴブリンのような数で攻めてくる敵や、今回は出現していないウルフ系などのスピードを長所にする魔物には非常に相性が良い。
一方で一撃の重さが求められるようなオークやトロールのような大型かつ重量級の魔物は相性が悪い。ただし相性が悪いだけで、ジャミールにも勿論大型種を倒すだけの手段や力はあるのだが如何せん時間がかかる。
そんな状況の中でジェズの「俺がやる」発言。ジャミールを始めとしたアルファズ隊のメンツが「ん?」とジェズの方を注目した。確かにこの自称文官の腕が立つことはわかっているのだが…
「ジェズ、確かにお前がそれなり以上に戦えるのは理解しているつもりだ。ただオークジェネラルはかなり厄介だぞ?」
普段は喰えないところがあり飄々としているジェズだが、このような場面でしょうもない冗談を言うようなタイプにも見えないことからジャミールはやや戸惑ったような様子でジェズに声をかけたのだが
「あぁ、勿論わかってる。ただオークジェネラルは何度も単騎で倒したことがあるから問題ない」
と何食わぬ顔をしてしれっと発言した。これを聞いたジャミールやファティマ達はさらに微妙な表情になるがここで時間を使っても仕方がないと判断し、
「…わかった、ひとまず任せる。ただし無茶はするなよ」
とほとんど当てにしてないような半信半疑のトーンでジェズに任せてみることにした。まぁ基地内での姫との戦闘を見た限りではそれなり以上の実力があることは間違いないし、最悪の場合はジャミール達が援護に入れば死ぬことは無いだろうとの判断である。
「おう、任された。じゃあジャミール達はゴブリンたちを適当に削っていってくれ。タイミングを見て突入する」
・ ・ ・
ジャミールを先頭にアルファズ隊100騎が街道沿いに展開した魔物軍500体に突撃した。ゴブリンアーチャーやゴブリンマジシャンの攻撃範囲に入ろうとしたその瞬間、
「散開!!!」
というジャミールの号令とともにアルファズ隊が50騎ずつ左右の二手に分かれ、それぞれ魔物軍の側面方向に駆けながら弓での攻撃を開始した。
てっきり正面から突撃してくるものだと思って構えていた魔物達は肩透かしを食うような形で正面方向への攻撃態勢を受け流され陣形が早くも崩れ始める。
その隙を逃さず引き続き敵陣から一定距離を保ちながらも弓による攻撃を継続するアルファズ隊の面々。モンスターたちがどんどん討たれていく様子をやや離れたところから見守っていたジェズは「さすがアルファズ隊。見事なもんだなぁ」と呑気に呟いた。
そしてアルファズ隊の攻撃により陣形が崩れだんだんと敵陣が左右に広がっていき、正面が手薄になってオークジェネラルへの道が見えたタイミングで
「いくぞっ!!!!!!」
ジェズは馬にムチを入れ一直線に敵陣に突っ込んでいった。あっという間に敵陣付近まで突っ込んでいった彼はその直前で馬から飛び降り、馬を適当な方向に逃がすとそのままダッシュで敵陣の真っ只中へ吶喊。
それに気づいた数体のゴブリンが邪魔をしようとしたものの、それらには目もくれずに躱して前進するジェズ。
そしてオークジェネラルに肉薄するがその直前で10体のオークウォーリアがオークジェネラルを守るように立ちふさがる。遠くからその様子を見ていたジャミールは「あのバカ、何してんだ!!!!」とまさかジェズがバカ正直に正面から突っ込むとは思っていなかったために慌てて援護に入ろうとするが、
「は?」
敵陣中央でジェズの前に立ちふさがった10体のオークウォーリアが一瞬で爆散し噴水のように血の雨を降らせる様子を見て一瞬思考が停止した。なおこの時、ジャミールだけでなくアルファズ隊の面々も、そして敵のモンスターたちも、もちろんオークジェネラルも一瞬気が取られて思考に空白が生じる。
そしてハッ!と敵に意識を戻したオークジェネラルの眼前にはいつも通りのにこやかな表情をしたジェズが大量の返り血を浴びたまま、
「戦闘中によそ見はご法度だぜ」
と言いながらその巨体の至近距離まで潜り込み、両手両足に更に魔力を込めて流れるような動作で強く、早く、一歩を踏み込む。その力を受けた地面がひび割れ凹む中で。
ジェズはその拳を振り抜いた。
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