第7話
ジェズから腹パンを喰らったレネ姫が弾き飛ばされギャラリーを巻き込んで練兵場の壁に叩きつけられる。
「やべ、やりすぎたか?」と一瞬焦ったジェズだったが、
「!?」「あははははは!!!最高じゃないか!!!」
全くダメージを受けた様子もないレネ姫が最高の笑顔になりながら再び一瞬で距離を詰めて木剣を振るってきた。
やや油断していたジェズはなんとか防御を間に合わせるが、今度は彼が防御の上から盛大に吹っ飛ばされる。
「やるなぁ!ジェズ!!!先程の一撃は少し驚いたぞ!!!」
「こちらこそあれで無傷とか驚いてますよ」
先程不意をつかれたレネ姫だったがジェズの腹パンが当たる直前に身体強化魔法の出力を一気にあげることでダメージを防いでいた。
ジェズの方も姫の一撃に吹き飛ばされたものの攻撃を受ける際に腕の身体強化出力を上げていたために無傷。
お互いに相手が思っていた以上に強い事を認識したジェズとレネ姫。そしてさぁこれからが本番だとレネ姫が爛々とした表情で木剣を構え、ジェズは内心でめんどくせぇと思いつつもにこやかな表情のままで拳を構えると
「いくぞ!!!」「ふっ!!!」
両者が一気に間合いを詰め、まさにお互いの攻撃が交わろうとした瞬間、
「はい、今日はここまでね」
2人の間に一瞬で割り込んだエリンが2人の攻撃を双刀で受け止めた。
・ ・ ・
エリンが間に入った事でお開きとなったレネ姫とジェズの模擬戦。レネ姫は見るからに不満そうに、ジェズもなんだかんだで楽しんでいたので消化不良な表情をしていたが、
「レネ姫、これ以上はやり過ぎですよ。ジェズもダメだよ」
とエリンのお叱りを受けつつなおも食い下がろうとする姫に、
「…あんまり駄々をこねるようなら過剰回復させますよ?」
とにっこりしながらエリンが提案すると姫は渋々引き下がった。なお回復魔法の出力をあげすぎて過剰回復するとどうなるか?場合にもよるが最悪のケースでは破裂する。
いずれにせよエリンは回復魔法が使える事、さらに模擬戦とは言え姫とジェズの間に割り込んで戦いを止められる程には単騎での戦闘能力も高い事から若くして姫のそば付として登用されている。
王立学園主席での卒業という才能で政の観点から姫を支え、回復魔法の使い手として姫の身を守り、更に武もレネ姫と共に歩めるだけの力がある。実家も伯爵家であり家格も充分。性格もしっかりしており姫を諌める事もできる。
まさに文字通り政戦両略の偉才であり、人間的にもレネ姫と相性バッチリ。それこそがタッシュマン王国第三王女レネ姫専任騎士にして第7軍団参謀部所属エリン・セイラーである。
「はい、という事でみんなも解散!」
レネ姫とジェズの模擬戦を見守っていたギャラリー達を解散させつつ練兵場の備品なんかもテキパキと片付けるエリン。
なお蛇足だが実力充分ながら気取らない性格をしている事から第7軍団内をはじめとしてエリンの男性からの人気は非常に高い。
レイルなんかもその1人である。しかしあまりにも隙がない完璧さから完全に高嶺の花扱いされている事をエリン本人は苦笑いしながら同性の友人とは話をしていたりする。
そんなこんなでレネ姫とジェズの模擬戦という突発イベントは過ぎていった。
・ ・ ・
その日の勤務後。夕方の参謀部内にて。日中はレネ姫もジェズも普通に忙しく特に模擬戦の話をするタイミングも無かったが、
「ジェズはいるか?」
とひょっこりとレネ姫が参謀部を訪れた。さすがにこのタイミングで逃げるわけにもいかないジェズは普通に対応することにする。
「姫殿下。どうされました?」
「どうされました?じゃないだろ。どう考えても朝の模擬戦の話しかないじゃないか」
「…もうやらないですよ?」
「はっ、それは残念だ。まぁ良い。夕食を一緒にどうだ?基地内の士官食堂で構わない」
レネ姫に夕食に誘われたジェズはさすがにこれまた断る事もできずに姫とエリン、そしてヒューゴーなどと夕食を共にする事となる。
時間帯的にも賑わっていた士官食堂にて今朝の模擬戦を振り返りながら夕食を食べるレネ姫、エリン、ヒューゴー、そしてジェズ。ちゃっかりレイルなんかも同席する。
なお彼らのテーブルの周囲も聞き耳を立てており注目の的となっていた。雰囲気的に「ちょい食べずらいな」とジェズは辟易としつつもレネ姫からの質問に当たり障りない範囲で答えていく。
「なるほどな、ジェズは学生の時から剣は苦手だったのか」
「そうですね。しばらく練習していた時期もあったのですがどうしてもしっくり来なくて」
「まぁ確かに武器に関しては向き不向きもあるからな。魔法はどうなんだ?」
「いわゆる体外魔法系は苦手ですね。どうしても事象に干渉するイメージが掴めなくて」
とあれやこれやと意外と穏やかな時間が流れていく。話がジェズの学生時代に及ぶとエリンも彼の学生時代を補足しながら懐かしそうに話をしていた。
そんなエリンの様子に気づいたレネ姫が
「エリン、お前がそんな表情で語るのは珍しいな?それだけジェズと仲が良かったのか?」
と本当に何気ない疑問を聞いた。レネ姫からの質問に対して一瞬考え込む様子をしたエリンは「ま、いっか」と一言呟き、その呟きを聞いたジェズが「ちょ、おま」と遮ろうとして
「えぇ、ジェズは元カレなんですよ。卒業したらジェズがなかなか連絡をくれなくなって自然消滅みたいになりましたけど」
と何気ない様子でド級の爆弾を第7軍団に落とした。完璧なエリン・セイラーの唯一の欠点。それは男を見る目の無さである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます