第52話 文佳の真実

 俺は上山に前から気になっていたことを聞いた。


「お前、同じ高校になったのは偶然じゃないだろ」


「な、なんでよ……」


「だって、中学から遠いところと言ってもいろいろな高校があるのに、なんで同じ高校になるんだよ。偶然とは思えない」


「だって……」


「文佳、話してくれないか。俺も気になってたんだ。それに、どんな答えでも俺の気持ちは変わらないから」


 太陽が言った。


「わ、わかったわ。話すわよ……ええ、そうよ。偶然じゃ無いわ」


 上山はあっさり認めた。


「やっぱり……」


「でも、太陽君の進学先を知ったのはほんとに偶然なの。たまたまそのとき職員室に居たのよ、私」


 そうか、俺たちが先生に初めて進学先を伝えたのは職員室で口頭だった。そのときはまだはっきりと決めていなかったし、軽い気持ちだったのだ。そういえば、あの先生、声が大きかったな。


「だから、私もそこを受験することにした。あの頃の私はとにかく太陽君に夢中だったから。でも、しばらく経つと自分が付き合えるはずが無いって気がついて、後悔しか無かったわ。仕方なく受験したのよ」


「そうだったのか」


「そう、辞退しようかと思ったんだけど、結局ここしか受からなかった。でも、私が太陽君をあきらめてたのは本当の事よ。だから、あなたたちに話しかけなかったでしょ」


「そうだな、話しかけたのは俺からだし」


 一人でいた上山にお昼を一緒に食べないかと太陽が声を掛けたんだった。


「そうよ、あのときはどうしようか本当に迷ったわ。もちろん、太陽君と話したかった。でも、そうすれば現実を知ってしまう。中学の時と同じように遠くから見ていた方がいいのかもしれない。自分では決断できなくて、だから長月に全てをゆだねたの」


 俺がどうしても上山と一緒に食べたいと言うなら一緒に食べる、上山はそう言ったんだった。


「あのときは参ったぞ」


「そうね。あのときは私がずるかったわ。自分で断ったら後悔すると思った。あんたたちが断ったってことにしたかったの。だから、長月がどうしても一緒に食べたいっていうなら、って言ったの。長月がそんなこと言うわけないと思ってたからね」


「俺もあのときは迷った。プライドもあるしな。だが、俺はあのときの上山を放っておけなかった。もし、俺があの状態ならって考えたらな。だから、プライドは捨てたんだ」


「驚いたわよ、まったく……ああ言われたら断れないし、行くしかない。でも、今では感謝してるわ。長月、あのとき、私を救ってくれて、ありがとう」


 上山文佳は俺に頭を下げた。


「お、お前……やめろよ。明日は大雨だな」


「ふふ、そうかもね。でも、ほんと感謝してる。結局こんなことになるなんて、あのときは思いもしなかったわ」


「俺も光輝には感謝だな」


 太陽が言った。


「文佳が同じクラスに居ると分かっていても俺は声を掛けることが出来なかった。俺も恐かったんだ。断られるのが。でも、長月がいつも上山のことを気にかけていたから、俺も勇気を持ってあのとき行けたんだ。そして、光輝が一緒に食べたいと言ってくれたから今がある。俺も感謝だよ、光輝」


「や、やめてくれよ、太陽まで。なんだかなあ、今日は……」


「ふふ、光輝君はみんなのキューピッドだね」


「そうなるのかね」


「でも、自分のことになるとからっきしなんだから。しっかりしなさいよ」


 上山が言う。


「わかってるよ、わかってる。なんとかするから」


「期待してるぞ」


 俺も自分のことに頑張らなくては。

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