第49話 キス (side 文佳)
私は太陽君とキスしてしまった。そのことにすごく動揺していた。
「信じてくれたか?」
「……わかんない」
「なんでだよ」
「だって、太陽君が私を好きになるなんてあり得ないから」
「それは文佳の思い込みだろ」
「ふ、文佳って言った!?」
推しに名前で呼ばれてしまった。私はさらに動揺した。
「ダメか? お前だって太陽君って呼んでるだろ」
「そうだけど……それはみんなが言ってるからで……」
「俺は文佳と呼びたい」
太陽君が私をまっすぐ見つめてくる。
「わ、わかったわよ。文佳でいいわ」
「よかった。じゃあ、文佳。聞いてくれるか?」
「何を?」
太陽君は立ち上がった。そして片膝を突いて私に言った。
「文佳、好きだ。俺と付き合ってくれ」
「え!?」
一瞬、頭が真っ白になった。中学の頃から何度も妄想した光景。それが現実になっている。
「ダメか?」
さらに太陽君が聞いてくる。
「俺のことは嫌いか?」
「す、好きよ」
「だったら……」
「でも、ダメよ。私をからかってるんでしょ」
「からかってない、本気だ」
「だって……」
これが嘘である理由を探す。でも、たくさんあるはずの理由が一つも出てこない。おかしい、そんなことはないはずなのに。
「俺は文佳が好きだ。付き合ってくれ」
少しずつにじみ出ていた私の涙腺が決壊した。
「太陽君!」
私は太陽君に抱きついた。
「文佳……」
「私でいいの?」
「ああ。文佳がいいんだ」
「私、性格悪いよ」
「知ってる。でも、それがいいんだ」
「意地っ張りだし素直になれないし」
「俺が一番知ってるよ。でも、それがいいんだ」
「いいの?」
「ああ。付き合ってくれるか」
「うん……ありがとう。夢みたい」
私は太陽君を強く抱きしめた。
どのぐらいそうしていたかわからない。気がつくと太陽君のスマホが震動していた。
「長月だな」
太陽君はスマホを見た。
「合流したいらしい。どうする?」
「わ、私はいいけど。どうしよう」
「何が?」
「このこと話す?」
「俺は話したいな」
「……わかった」
私たちは路面電車の停留所に向かった。
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