第47話 神田寿々

 俺の目の前に神田寿々かんだすずが居た。

 中学の頃、俺のことが好きなのかと勘違いしていた相手だ。実際には太陽のことが好きだったのだが。それを偶然聞いて知ってしまった。


「長月君、久しぶりだね。元気だった?」


「お、おう……」


 明るく話しかけてくる寿々に対し、俺はどう返事をしていいか分からなかった。


「今、こっちの高校に通ってるんでしょ。文佳に聞いたよ」


「そ、そうか……」


「……中学の時は、ほんとごめん」


 寿々が謝ってきた。


「……別にもういいよ。でも、なんで太陽に告白しなかったんだ?」


 俺は気になっていたことを聞いた。


「だって、私が好きだったのは太陽君じゃ無いから」


「今更、嘘言うなよ」


「ほんとだよ。詳しくは文佳に聞いて」


「……まあ、もうどうでもいい話だ」


「そうだね……もう私も区切り付けたから」


 そこに水崎さんが来た。


「どうしたの?」


「いや、中学の頃の知り合いに会ったんだ」


 水崎さんが神田寿々を見た。


「あ、初めまして。水崎弥生といいます。長月君のクラスメイトです」


「ご丁寧にはじめまして。私は神田寿々。長月君との関係は……振られた相手ってところかな」


「え?」


 水崎さんが驚いて俺を見た。


「また嘘を言う。俺が振られたんだろ」


「ううん。私が振られたんだよ」


 寿々がそう言うと水崎さんは困ったように俺と寿々を見た。


「……私、あっち見てるね」


 その場を離れようとした水崎さんに寿々は言った。


「ううん、私はもう帰るから。気を遣わないで」


 そう言われて水崎さんは立ち止まった。それを見て神田寿々が話しかける。


「文佳が優しい人って言ってたけど、ほんとそうみたいね」


「え?」


「ていうか、良く見るとすごく可愛い人ね」


「あ、あの……」


「水崎さん。長月君のこと、よろしくお願いします」


「は、はい」


「長月君、中学の時はありがとう。そして、傷つけてしまってごめんなさい」


 寿々は深々と頭を下げた。


「もういいよ、寿々。頭を上げてくれ」


「……もう二度と話すことは無いと思う。さよなら」


 そういって、寿々は階段を駆け足で降りていった。


「私にはよく分からないけど、神田さんは悪い人じゃないって思ったよ」


 水崎さんが言う。


「俺もそう思ってたんだけどな……」


「文佳といろいろ話しているみたいだったね」


「そうみたいだな。後で聞いてみるか」


「うん、その方がいいと思う」


 その後、俺たちはさらにコミックのコーナーを見て、それぞれ1冊ずつ気に入ったものを買い、店の外に出た。


「帰りは文佳たちと合流しないんだっけ?」


 水崎さんが言う。


「そのはずだったんだけど……上山に寿々の話を聞きたいと思って。合流していいか?」


「うん、私はいいよ」


「じゃあ、連絡しよう」


 俺は太陽に合流しないかとメッセージを送った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る