第45話 姫と2人の騎士の終わり

 日曜日、俺たちは熊本市に電車で向かっていた。もちろん、俺は水崎さんとデートするためだ。だが、隣には上山文佳と太陽が居る。2人でデートするはずなのに、なぜ3人で向かっているのかというと、これが上山の出したデートに行く条件だった。


「まったく……2人だけで電車に乗った方が2人の時間増えるだろ」


 俺が上山に言う。


「ダメよ。太陽君と2人で長時間なんて。心臓が持たないわ」


「はぁ……お前、どんだけ太陽が好きなんだよ」


「仕方ないでしょ。推しなんだから」


「だったらくっつけ」


 俺が上山を太陽の方に押しやる。


「ちょ、ちょっと!」


 上山が文句を言ったが、結局太陽の方に距離は近づいた。


「太陽、今日決めるのか?」


 俺はわざと上山越しに太陽と話す。


「ああ。そのつもりだ」


「そうか、がんばれよ」


「お前もな」


「俺は……今日決めるのはたぶん無理だ」


「なんだ、そうなのか?」


「ああ。もうちょっと時間が欲しい」


「長月、やっぱりヘタレね」


 上山が口を挟んだ。


「お前ほどじゃない」


「なんでよ」


「俺は好きな人と二人で居たいからな。お前はそれも怖がってるだろ」


「しょ、しょうがないでしょ。推しなんだし……」


「また、でた。今日の帰りを楽しみにしてるからな。お前がどう変わってるか」


「か、変わらないから」


「いいや、今日は太陽が本気だからな。きっと変わってるさ」


「そんなことないし」


「おいおい、まだなんだから、あんまりからかうなよ」


 太陽が口を挟んだ。


「悪い。そうだよな。無神経だった」


 あんまりこじれるようなことは言うべきじゃないか。だが俺は言っておきたいことがあった。


「まあでも、これだけは言わせてくれ。お前たちに変化が起これば、今みたいに姫と二人の騎士で居られるのはもうこれで最後だろう。俺は結構、これを気に入ってたんだ。ほんとにお姫様を守るみたいでな。だから……楽しかったよ」


「何よ。これからもお願いするんだから。そういうこと言わないで……」


 少し上山が涙目になっていた。


「いいんだよ、騎士は一人で。さ、行くか」


 電車は熊本駅に到着した。


「あ、長月君!」


 水崎さんが俺たちを見つけて手を振る。俺たちは熊本駅前で待ち合わせしていた。


「それに、太陽君と文佳。おはよう」


「おはよう、弥生。それにしても、弥生のその格好には慣れないわね」


 上山が水崎さんの眼鏡、ベレー帽姿を見て言う。今日は肩紐が付いたスカートをはいていて、さらに子どもっぽい感じがした。


「そう? 長月君、今日の私どうかな?」


 俺ははっきり言ってドストライクだ。


「めちゃくちゃかわいい」


「そ、そう。よかった」


 水崎さんがはにかんだ。


「ほんと、このモードの弥生見るときの長月はデレっとしてる」


「いいだろ」


「いいけど。あんまりデレっとしてると嫌われるわよ」


「だ、大丈夫」


 水崎さんが俺の腕を取って言う。


「あら、今日の弥生は積極的ね」


「うん……だって、たぶん、私たちが一番遅れてるから」


 そう言って上山を見た。


「そ、そんなことないって……思うけど」


 上山がしどろもどろだ。


「よし、それじゃあ行くか」


 太陽の言葉で俺たちは同じ電車に乗った。と言っても行き先はバラバラだ。俺たちは街中で降りる。目的地はアニメショップだが太陽には街中をぶらつくと言っておいた。太陽たちは水前寺公園に行くようだ。


 なので、俺たちが先に電車を降りた。


「それじゃあな。太陽! がんばれよ」


「おう!」


 さて、じゃあ、行くか。


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