第36話 庭園

「で、これからどうするんだ?」


 食べ終わってすこしみんなで話したところで俺は聞いた。


「そうね。ここをまず見て回りたいわ」


 上山が言った。屋上庭園は奥に続いている。俺も初めて来たので何があるのか行ってみたかった。


「うん、じゃあ行こう!」


 水崎さんの案内で俺たちは奥に進んだ。奥の方には浅い池みたいなところがあり、そこには飛び石が置いてある。


「ここ渡ってみたい!」


 上山が言った。こういうときは子どもみたいだな。


「よし渡るか」


 太陽が先頭に立って渡っていく。と言っても石は連続しているのでたいしたことはない。上山も続いた。俺は水崎さんを先に行かせ、最後から行く。


「おっ」


 虫でも居たのか、先頭の太陽が急に立ち止まった。そこに上山がぶつかってしまう。


「あ!」


 上山はバランスを崩し、水の中に落ちそうになった。


「おっと!」


 太陽が振り返り慌てて上山を抱きかかえる。なんとか、水中には落ちずに済んだ。


「ごめん、俺が立ち止まったばかりに」


 太陽が抱きかかえたまま上山に言う。


「大丈夫。私もぶつかって悪かったわ」


「大丈夫か」


 太陽は上山を抱きかかえたまま起こした。そうすると、まるで抱き合っているかのように見える。


「う、うん」


 俺と水崎さんは黙って二人を見ていたが、やがて視線に気がついた上山が慌てて太陽から離れ、俺たちに言う。


「な、なによ」


「いやあ、いいもん見たなあって」


「うん。文佳、かわいかったよ」


「なんでよ。こっちは落ちそうで大変だったんだから」


「まあ、そうだけどね」


「何なのよ……太陽君、早く行くわよ」


「そ、そうだな……」


 その後、俺たちは庭園を一周し、元の場所に戻った。それほど広くないからあっという間だ。


「じゃあ、下の階に降りて買い物でもするか」


 俺たちは屋上庭園を出て、下りのエスカレータに乗った。

 三階に降りると眼鏡ショップがあった。


「私の眼鏡姿見たい?」


 上山が俺に言う。


「別に見たくないよ」


「あ、そう。じゃあ、掛けてあげる」


「なんでだよ」


 上山は眼鏡を掛けて見せてくる。


「どうかしら」


「うん、すごく似合ってるぞ」


 太陽が言う。だが、俺はやっぱり水崎さんのとはなんか違うな、と感じた。


「……長月は何か言いたそうね」


「いや、何も言うことは無い」


「まったく……じゃあ、弥生。他の眼鏡試してみたら」


 上山が水崎さんに眼鏡を試させる。


「うーん、これとかどうかな」


 水崎さんは少しフレームが大きな四角い黒縁の眼鏡を掛けてみた。


「うわ、かわいい。元がいいから得ね」


 上山が言う。


「どう? 長月」


 俺は水崎さんをまじまじと見た。


「す、すごく可愛い……」


「そ、そうかな……」


 水崎さんは少し赤くなっていた。


「長月はこのモードの弥生を見るとき、いつもと違うわね」


 上山が俺に言う。


「そ、そうか?」


「うん。なんかデレっとしてる」


「い、言うな!」


 俺は自分でも自覚があった。


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