第35話 誤解

 俺が好かれた実績がある? 上山の言葉がよくわからず聞き返す。


「それは、どういうことだ? 俺には覚えが無いが……」


「あんたはバカだから分かんないのよ。私は知ってるから」


「誰だよ」


「言えるわけないでしょ」


 うーむ、少なくとも俺に近づいてきた女性は一人残らず太陽狙いだったはず。あんなに雰囲気が良かった神田寿々かんだすずですら、そうだったんだもんな。


「わからん、降参だ」


「降参したからって誰かは教えないから」


「なんでだよ」


「もう関係ないからよ。今は目の前の問題に集中しなさい」


 上山が言った。目の前の問題。そうだよな。俺は改めて水崎さんを見る。水崎さんが俺を? なんてあるだろうか。クラスのトップアイドルとも言える存在。しかも、太陽のそばに居る。今までだったら考えるまでもなく、太陽狙いだが……


「うん、私は太陽君狙いじゃ無いよ」


 水崎さんは太陽が居る前ではっきりと言った。


「そうだよな。俺は分かってたよ」


 太陽も言う。


「うん。ありがとう、太陽君」


 水崎さんは言った。これは……ガチと判断せざるを得ない。リアルガチだ。


「わかった。そこまで言うなら信じるよ。じゃあ、今までの俺の行動はその……少し、お節介だったかな」


「うん。ちょっとね」


「ごめん。何も分かってなくて。今までみんな太陽狙いだったから」


「いいよ。わかってもらえたから……私、嬉しい」


 水崎さんの目が少し湿っているような。と思ったら涙があふれ出している。


「み、水崎さん!?」


 俺は慌ててハンカチを出した。


「ごめん、泣いちゃって。嬉しくて泣いてるから大丈夫だよ」


 そんなに俺の誤解を解きたかったのか。相当お節介が迷惑だったようだ。


「ごめんな、今まで。俺がバカだった」


「そうね。あんたがバカね」


 上山が言う。


「上山、分かってたなら言ってくれよ」


 俺は言った。


「え? あんたがバカだって何度も言ったと思うけど」


「文佳、ちょっと……」


 水崎さんが言う。


「あ、ごめん、弥生。言いすぎたわ」


 上山が水崎さんに謝った。いや、俺に謝るところだからね。


「もう大丈夫。ハンカチは洗って返すね」


 水崎さんが言った。


「いいよ、そのままで」


「いいから……ありがとう」


 水崎さんは笑顔だった。


「うん。嬉しい。今日は楽しもう!」


 水崎さんの言葉で俺は少し楽になった。

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