第34話 ガーデンカフェ
「じゃあ、どこ行こうか?」
太陽が聞く。
「そうね。なんか上に庭園みたいなのあるんでしょ。私行ったこと無いから行ってみたいわ」
上山文佳が言った。
「あー、ガーデンカフェね。じゃあ案内する」
水崎さんが前に出た。俺も手を握られているので一緒に前に出た。水崎さんはエスカレーターの方に進んだ。太陽と上山が後ろから付いてきた。
どんどんエスカレーターを上がっていく。すると、5階のところで上山が外を見た。
「ん? 何あれ。くまモン?」
「外から見えてただろ」
上山の言葉に太陽が言う。ここには大きな「くまモン」像があり、それがテラスに見えていた。
「ちょっと見たい!」
上山の言葉で全員がテラスに出る。そこには大きなくまモン像があった。周りには子どもも多い。
「うわあ。いいわね!」
上山が写真を撮り出す。おれも一応撮ったが。水崎さんは撮ろうともしなかった。
「写真撮らなくていいのか?」
俺は水崎さんに聞いてみた。
「もう何回も撮ってるし」
「そ、そうか……」
俺は初めて来たが、ここは定番スポットのようだ。上山は子どものように喜んで写真を撮りまくっていた。周りには親子連れが多い。上山は背も小さいし、子どもに紛れていた。
「うふふ、文佳かわいい」
「確かにな」
水崎さんの言葉に太陽も頷いた。まあ、上山も毒舌が無ければ可愛いんだけどな。
上山が十分満足したところで俺たちはさらに上へとエスカレーターを進む。長いエスカレーターの先に屋上庭園があった。ここは思った以上に樹木が多い。池みたいなものもある。入り口すぐ近くに軽食を買うところがあった。
「どうする? ピザとかポテトとか適当に頼む?」
「そうだな」
水崎さんの提案で俺たちは適当に頼んでみんなで食べることにした。今日は日曜だしテーブルも人が多い。高校生ぐらいの男女がグループやカップルで来ている。俺たちもそんな感じか。
「なんかすごいわね、ここ。青春って感じ」
上山がポテトを食べながら言う。
「お前も青春してるだろ」
俺が言った。
「私は『推し』のファンサービスみたいなものよ。あんたたちの方が青春してるから」
上山が言う。それでさっき、水崎さんが言った言葉を思い出した。(私は太陽君狙いじゃ無いよ)ってどういうことだ? いや、素直に受け取ればそういうことなんだろうけど、じゃあなんで今日ここに来たんだ? いかん、勘違いしそうになる。
俺はふと水崎さんを見た。水崎さんも俺を見ていたようで、慌てて顔をそらす。
「えっと……水崎さん」
「な、なに?」
水崎さんが俺を再び見た。俺は何を聞こうとしたんだっけ。
「さっきの話なんだけど……」
「うん」
「ほんとなのかなって……」
「え? ほんとだよ」
「そ、そうか」
「うん」
水崎さんの顔が赤くなっていく。
「えっと……」
「ああ、まどろっこしいわね。だから、素直に受け取ればいいのよ、素直に」
上山が俺に言ってきた。
「素直にねえ……」
「卑屈にならないの」
「そうなるだけの理由があるんだけどなあ……」
俺は過去を思い返す。俺たちに近づいてくる女子はみんな太陽狙いだったのだ。水崎さんだけが違うとはどうにも信じられない。
「だったら、葉子はどうなるの? 葉子は井端君とくっついたのよ」
上山が言う。
「そうだけど……最初は太陽だっただろ」
「でも、その後は違った。だったら、あんたも可能性あるんじゃないの?」
「無いよ。好かれた実績無いし……」
「あるのよ。あんたが知らないだけで」
「え?」
俺は驚いて上山を見た。
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