第31話 文佳の怒り

 昼休み、俺たちはまた6人で集まる。里内さんが井端の隣に行き、俺は水崎さんの隣に座ることにも慣れてきた。


 いつもと同じように話が盛り上がる。はずだったが、少し様子がおかしい。上山が俺に当たりがきついのだ。いつものことだが、今日は特に厳しい気がする。


「あー、今日午後小テストだっけ、忘れてた」


「ほんと、長月はバカよね。大バカよ」


 ちょっとしたことで上山が俺をバカと言ってくるのだ。


「ねえ、文佳。長月君となんかあった?」


 里内さんが上山に聞いた。


「え? あるわけないでしょ。こんなやつと」


「だったら、なんなんだよ。今日、当たりきつくないか」


 俺は思わず聞いてしまう。


「いつものことでしょ。私が長月にバカと言うのは」


 上山が言う。さすがに俺も腹立ってきたな。


「お前なあ――」


「ねえ、文佳。何かあったの?」


 俺が何か言おうとしたら水崎さんがその前に上山に聞いた。


「あ、ごめん、弥生。ほんとに気にしないで。何も無いから。私のストレスの問題だから」


「お前、自分のストレスで俺に当たるなよ」


「うるさい!」


 上山が鋭い声で怒るので俺も黙ってしまう。


「上山さん、ほんとにどうしたんだ?」


 太陽が聞いた。


「ご、ごめん……気にしないで」


 太陽に言われてからは上山も大人しくなった。さすが、推しの効果は抜群だな。


(文佳と何かあったの?)


 水崎さんが俺に小声で聞いてきた。


(ほんとに何も心当たりが無いんだよ)


(そうなんだ)


 それとも何か俺が知らない間に上山を怒らせることをしてしまったのかもしれない。俺に厳しいのはいつものことだけど、さすがにここまで来ると何かおかしい……


 俺がしばらく話せずに居ると、水崎さんが小さい声で話しかけてきた。


「長月君、今度の日曜ね……」


「うん?」


「この間の格好で行こうかと思って」


「え!?」


 この間の格好ってあのアニメショップで会ったときの眼鏡とベレー帽のやつだよな。


「いいのか?」


「うん……長月君、あれ好きでしょ?」


「そうだけど、太陽と上山も一緒だぞ」


「うん。あの2人なら大丈夫かなって」


「そ、そうか……わかった。楽しみにしてる」


 俺はつい顔がにやけてしまった。


「ふふ。楽しみにしててね」


 上山が怒っていたのも忘れて俺はすごく幸せな気分になった。


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