第30話 偶然の再会(side 文佳)

 学校からの帰り、八代駅に到着した私・上山文佳は自転車に乗った。今日はあの2人・霜村太陽と長月光輝とは一緒では無い。あの2人と一緒に帰ると誤解しそうになる自分が恐いのだ。なんだかんだと理由を付けて、今日は一人で帰ってきた。


 でも、まっすぐ帰るのも面白くないので、いつものようにブックオフに立ち寄る。ここで何か買って帰るのが最近の楽しみだ。


 自転車を止めて店の中に入る。すると、そこから出てきた子は久しぶりに見る顔だった。神田寿々かんだすず。最近、彼らとの会話に出てきた女子。長い黒髪に丸い眼鏡が印象的だ。私は思わず声を掛けた。


「寿々!」


「え、文佳? 久しぶり!」


 私たちは特別仲が良いというわけでは無かったが、小学校から同じだし、気心は知れていた。

 近くのベンチに座り、近況を報告する。それに加え、私は聞きたいことがあった。


「寿々、私、太陽君や長月と同じ高校なんだ」


「え、そうなんだ……」


「うん。それでね、長月から聞いちゃったんだ」


「ああ、そっか……」


「うん。でもちょっと信じられなくて」


 寿々はすごく真面目な子だ。それなのに長月に思わせぶりな態度を取るなんて信じられなかった。


「私、誤解されちゃったんだよね」


「誤解?」


「うん。放課後、教室で女子何人かと誰が好きかって話になって……みんな太陽君って言い出しちゃったから、私も話し合わせちゃったんだ」


◇◇◇◇


「私も太陽君かなあ」


「え、寿々は長月君じゃないの?」


「ち、違うから……」


「だって、すごく仲よさそうじゃ無い?」


「でも、そういうのじゃないし……」


「あ、まさか太陽君に近づくため?」


「そ、そうかもね……」


「へぇー、寿々もやるねえ」


◇◇◇◇


「それを偶然長月君に聞かれちゃってて……。翌日、その話されて、否定したんだけど『もう俺に近づくな』って言われちゃって……」


 寿々は下を向いたまま泣きそうな声で言った。


「なにそれ、ひどいじゃん」


「ううん、私が悪いって今は思ってる」


「長月のやつ、やっぱり勘違いして……」


「うん。でも、長月君にはこのこと言わないでいいからね」


「……いいの?」


「うん。私ももう区切り付けてるし大丈夫。それに、もう……」


「え、もしかして彼氏居るとか?」


「うん」


「えー、早! 同じ高校?」


「うん。告白されて、とりあえず付き合ってるんだ」


「そっか、おめでとう」


「うん。だから、長月君には……」


「わかった。言わないから」


 それにこれを話して、もし寿々と長月がくっついたら、弥生に合わせる顔が無いし……


「うん。ありがと。でもこの話、今まで誰にも話せないで居たから文佳に話せて良かったよ」


「そう?」


「うん。これでほんとに一区切りかな。さよなら、私の初恋。なんてね」


 寿々が笑って言った。


「そっか……」


「で、文佳は?」


「え?」


「だって、文佳は太陽君のこと『推し』って言ってたじゃん。今、太陽君とも同じ高校なんでしょ?」


「そうだけど……」


「なにか進展したの? 話したりしてる?」


「う、うん。同じクラスだし……一緒に遊んだりはしてるかな」


「えー、すごい!」


「まあね、すごいでしょ」


 人気者だった太陽君と遊びに行ったりしていることをつい自慢したくなった。


「じゃあ、もう付き合えそうなの?」


「なんでよ。私が付き合えるわけ無いでしょ」


「そうなの?」


「そりゃそうよ。高校でもいろんな女子が周りに居て……」


「やっぱりそうなんだ」


「うん。あんまり中学の時と変わってないかな。だから、私はもうあきらめてるんだ」


「えー、もったいない」


「まあでも、少しでも遊びに行ったりしたからね。思い出は出来たからいいんだ」


「そうなんだ……。文佳はそれでいいの?」


「うん。満足してる」


「そっか。あ、じゃあ、もしかして長月君と……」


「ないない。私の友達が長月狙ってるから、そっちを応援してる。あ、これ、寿々に言っちゃダメだったか」


「ふふ。いいよ。その友達っていい人?」


「うん。優しすぎて困ってるよ」


「そっか、いい人ならいいんだ。長月君には幸せになってもらいたいし……」


「寿々……」


「さて、もう行かなきゃ。今日は話できて良かった」


「うん。あ、連絡先変わってないよね。また連絡するから」


「わかった。もし、太陽君と付き合えたら教えてよね」


「そんなことないから」


「ふふ。でも、期待してる。じゃあね!」


 寿々は去って行った。

 私は一人ベンチに座り、ミルクティーを飲む。長月あいつ、ほんとに大バカだ。


 それにしても、『さよなら、私の初恋』か……。私がそう思うことができるのは、いつになるのだろう。

 吹っ切れている寿々を見て、太陽君と一緒の高校に行ったことを少し後悔した。


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