第27話 姫と2人の騎士 part2

 俺たちは熊本駅で解散した。俺と太陽と上山文佳は同じ電車で帰ることになる。ここからは40分ほどだ。


 三人で電車に乗り込んだ。この三人で居るといつも上山を囲んで俺と太陽が座ることになる。


「あー、今日は楽しかったわね」


 上山が言った。


「楽しんでもらえたら良かったよ」


 太陽が言う。


「長月はどうだった?」


 上山がなぜかニヤニヤしながら俺を見た。


「俺か? まあ、楽しかったな」


「なんか、弥生といい雰囲気じゃなかった?」


 上山が言う。


「はあ? 俺となんていい雰囲気になるわけないだろ」


「そうか? 今日は二人でよく話してたろ」


 太陽まで言ってきた。


「なんでだよ。俺なんか相手にされてないし……」


「相変わらず卑屈ねえ」


 上山が言う。


「そうだぞ、光輝だってモテるんだから」


 太陽も言ってくる。


「モテねえよ。まったく……俺はもう勘違いはしない」


「勘違い?」


 上山が聞いてくる。


「ああ。俺を好きだと思ったら結局、太陽が好きってやつだよ。何回もあるんだ」


「なるほどね。だからそんなに卑屈なんだ」


「卑屈で悪かったな」


「でも、お前も言い寄られてたことあっただろ。神田さんとか」


 太陽が俺に言ってはいけない名前を言ってきた。神田寿々かんだすず。俺のトラウマだ。


「お前、それ言うか」


「あれ? 言っちゃダメだったか」


「なになに? 寿々となにかあったの?」


 上山が聞いてくる。


「だから寿々もいつものパターンだよ。俺に良く話しかけてくるし、俺のことを好きかと思ったんだよ。だがなあ、結局、太陽だった」


「えー、そうなんだ」


「俺も知らなかった……」


 太陽の言葉に耳を疑った。


「なんでだよ。お前に告白しに行ったんじゃないのか?」


「いや、来てないぞ。俺はあんまり関わりなかったな」


 寿々すずのやつ、結局、告白もできなかったのかよ……


「……まあ、過去のことはいいでしょ。今を考えないと。弥生はそんな子じゃないと思うけど」


「うーん、確かに優しい子だから勘違いしてしまいそうになるけど……でも、結局は水崎さんも太陽を狙ってると俺は思うけどな」


「そうか? 水崎さん、カラオケの時とか『私はあっちに行くから』って言って、わざわざお前のところに行ったんだぞ」


「それは……上山に気を遣ったんだろ」


「はあ?」


 上山が俺をにらむ。あ、上山が太陽を好きって感じに言っちゃったか。


「弥生はねえ! ……はぁ。まあいいわ。あんたほんとのバカだわ」


 上山があきれたように言う。


「なんだよ。お前だって、太陽といい雰囲気だったよな」


 俺は反撃することにした。


「わたしはいいのよ。今日だけなんだから」


「今日だけ?」


「そう。今日だけ。『推し』との思い出を作ってもらったのよ……」


 上山が言う。


「お前、寂しいこと言うなよ。また、行けばいいだろ」


 太陽が上山に言った。


「そうね。また、機会はあるかもね。その時はまた楽しませてもらうわ」


「そうだよ。これから思い出たくさん作っていこうぜ」


 太陽が何か恥ずかしいことを言っているが、イケメンだからこういうセリフも似合うな。


「そういうこと言わないでよ。言ったでしょ。私、太陽君狙ってないから」


 確かに言ってたな。


「そうか、だが、俺は上山さんを狙ってるかもしれないぞ」


「!!」


 太陽の言葉に上山は驚いていた。


「わ、わたしなんて太陽君が狙うわけ無いでしょ。からかうのはやめて」


「からかってはないんだけどなあ」


「もう! だから太陽君と遊びに行くのは嫌だったのよ」


「わかった、わかった、そう言わないで今度も遊びに行ってくれ」


「もう行かないから」


「頼むよ」


 なんか2人のイチャイチャが始まっちゃったな。ま、これもよくあることだ。俺は無視してスマホを見始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る