第25話 歌姫の歌

「あ、ごめん。なんでもないから」


 水崎さんがみんなに言い訳する。


「光輝、お前、水崎さんに変なことしてないだろうな。何か距離が近いぞ」


 太陽が俺をにらむ。


「してない、誤解だ!」


 俺は慌てて水崎さんとの距離を空けた。


「ならいいが……水崎さん、大丈夫か?」


「大丈夫、大丈夫。ごめん、ちょっと驚いただけ。さて、何歌おうかな……」


 太陽が入れた曲が始まり、太陽が歌い出す。

 俺がデンモクの画面を見たとき、水崎さんが小声言った。


「えっと……長月君、何か勘違いしてない?」


「え?」


「だって――」


「長月君、曲入れた?」


 そのとき、里内さんが俺に声を掛けてきた。


「いや、まだ入れてない」


「早く入れないと今、何も入ってないからね」


「わかった」


 俺は慌てて曲を選ぶ。まあ、定番のアニソンでいいか。俺が曲を入れ、それが画面に出た。


「じゃあ、水崎さんも」


 俺はデンモクを渡した。


「うん……」


 水崎さんはデンモクを操作し曲を入れた。あれ、なんか元気ないな。

 曲を入れた水崎さんは何も言わずにただ太陽の曲を聴いていた。


「水崎さん、何か俺に言いたいことがあるのか?」


 俺は小声で聞いてみる。


「う、うん……でも、また後で言うね。今は伝わらないと思うし……」


「そ、そうか……」


 そのまま、水崎さんは黙ってしまった。


 そして、太陽の歌が終わると上山が盛大に拍手した。


「さすが、太陽君。初めて聞いたけど上手いわね」


「そうか? 普通だろ」


「いや、上手いわよ。推しの生歌が聴けるなんて嬉しいわ」


「……上山さんは曲入れたか?」


「私はいいから。みんなの歌聞いてる」


「そんなのはダメだろ。上山さんも是非……」


「いいから! 苦手なのよ……」


 上山さんが強く言った。そこで、俺の曲が始まったので俺は歌い出した。

 太陽がデンモクを里内さんに渡しているようだ。上山に歌わせるのはあきらめたらしい。


 俺が歌い終わると、軽く拍手があった。


「長月君、上手かったよ」


 水崎さんが言う。


「そ、そうかな……」


「うん。あ、私の曲だ」


 水崎さんが入れた曲が始まった。これはレコード大賞も取ったアニソンだな。かなり難しい曲だ。

 だが、水崎さんが歌い出した瞬間、部屋の雰囲気が変わった感じがした。みんなが水崎さんを見る。

 ……いや、これは上手すぎだろ。確かにプロ並みだ。


 一番が終わった段階でみんなが大きな拍手をした。


「すげー……」


 俺はつい言ってしまう。


「でしょ? 弥生はプロ並みなんだから」


 なぜか里内さんが得意げだ。


 二番以降もとんでもない歌唱力を披露して水崎さんの歌は終わった。全員がすごい拍手をした。井端が指笛を吹いてうるさい。


「やっぱりすごいな、水崎さんの歌は」


 太陽が言う。


「そ、そうかな」


「そうよ、私歌わなくて良かったわ、マジで」


 上山が言う。


「そんな……」


「いや、ほんとすごかったよ、水崎さん」


 俺は横に居る歌姫に言った。


「あ、ありがとう」


「あの歌手が好きなの?」


「そういうわけじゃ……。私が歌えるのはアニソンだから」


「そうか。じゃあ、これも歌える?」


 俺は同じ歌手のもう一つの有名曲を指さした。


「う、うん」


「じゃあ、入れよう」


 俺は勝手に予約した。


「長月君も歌ってよ」


「そうだな……俺もアニソンしか知らなくて。でも、みんな知らないだろうし」


「私が知ってる曲ならあるんじゃないかな」


「そうか。確かに水崎さんは知ってるかもな。これとか」


 俺は好きなアニソンを検索して表示した。


「あ、いいね!」


「知ってるか。じゃあ、入れてみるか」


 こうして、俺と水崎さんはアニソンを入れまくり、二人しか知らない歌をたくさん歌った。


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