第24話 6人でカラオケ

 結局、2回目の勝負も俺と水崎さんのペアが最下位でジュースをおごらされることになり、ボウリングを終えた。


「じゃあ、次はカラオケ行こう!」


「おう!」


 里内さんと井端が盛り上がる。


「光輝、水崎さんの歌に驚くなよ」


 太陽が俺に言った。


「そういえば上手いと言ってたな」


 俺が仮病で休んだとき、太陽は水崎さんの歌がすごかったと言っていた。


「そんなことないから……」


 水崎さんが恥ずかしそうに言った。


「いや、あれはプロ並みだったぞ」


「そんな……」


 水崎さんは太陽の言葉に顔が赤くなった。今日はあまり太陽との絡みは少なかったし、これは嬉しいだろうな。

 俺はその場からそっと離れる。そこに上山が来た。


「はぁ。憂鬱ね……」


「どうした?」


「私、歌わなくてもいいかしら」


「なんでだよ」


「下手だからに決まってるでしょ」


 上山は小声で言った。


「あんまり知られたくないのよね。幻滅されそうだし」


 そう言って上山は太陽を見ていた。

 なるほどな。ライバルの水崎さんは歌が上手いらしい。上山は下手だから気にしてるんだろう。


「じゃあ、喉がちょっと痛いとか言っといたら」


「なるほど。あんた得意の仮病か」


「得意じゃないから」


「まあ、でもそうしようかしらね」


 結局、カラオケに行くまでの移動はこれまでと違い、太陽と水崎さん、俺と上山がペアのようになった。

 そのまま部屋に入る。まず井端と里内さんが奥に座った。そして、水崎さんと太陽が入っていく。が、上山が俺を押しのけて前に行った。


「なんだよ」


「私は太陽君の隣がいいから」


「はいはい、先に行けよ」


 結局、太陽を挟んで水崎さんと上山が座る。俺は上山の隣という位置だが少し離れて1人で座った。


「弥生が歌うと後が大変だから最後ね。まず私が歌う!」


 里内さんが最初に曲を入れて歌い出した。井端も何かを入れている。


「何歌う?」


 太陽がタッチパネル式のリモコン、いわゆるデンモクを上山と水崎さんに見せながら操作している。


 俺は特にすることも無く、里内さんの歌を手拍子しながら聞いていた。知らない歌だけど、里内さん上手いな。


 続いて井端が歌い出した。


「長月君も入れてね」


 里内さんが俺にデンモクを渡してくる。仕方なく俺は画面を見た。うーむ、こういうとき、何を歌うべきかね。はやりの曲はよく知らないし。有名なアニソンが無難か。


「あ、その曲もいいね」


 気がついたら水崎さんが横に居て画面を見ていた。あれ? 太陽の横に居たのでは……いつの間にかこちらに移動してきていた。


「どうしたの?」


「何が?」


「いや、こっちに来てたから」


「だって、今日はこういうペアでしょ」


 上山に気を遣ったんだろうか。


「水崎さん、俺が言うことじゃないかもしれないけど、もっと積極的に行った方がいいんじゃないかな」


 あまりに気を遣っているのが見えてしまい、俺はつい言ってしまった。


「そう? いいのかな?」


「いいよ。せっかくこういう場に来てるんだし」


「そ、そうだよね。じゃあ……」


 そう言った水崎さんは俺の方にさらに近づいてきた。


「え?」


「今日は積極的に行こうかな」


 水崎さんは俺と腕が当たるぐらい近づいている。


「俺に近づいてどうするんだよ」


「え? 嫌だった?」


「嫌じゃないけど、俺じゃなくて、行くのはあっちだろ」


「なんで?」


 水崎さんは俺を見た。その顔には疑問の顔が浮かんでいる。

 俺は仕方なく声を潜め言った。


(だって、太陽狙ってるんだろ)


「はあ?」


 水崎さんが大声を出したことでみんなが俺たちを見た。ちょうど井端の曲が終わったところで静かになったときだったから、なおさら目立ってしまった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る