第18話 偶然の出会い

 ゴールデンウィークには6人で出かけるが、その前の週の日曜日。


 俺は珍しく1人で熊本市内まで来ている。地元・八代やつしろの書店では俺が欲しい本が手に入らなかったのだ。こういうときは熊本市内の書店が頼りだが、漫画を買うならアニメショップの方がいいだろうと思い、わざわざ繁華街まで来ていた。本以外のものもちょっと見てみたいし。


 ここに来るのは久しぶりだ。しかし、女子が多いな。そう思いながら書籍を探す。


 目的の本はあった。さすがだ。俺は他にも少し店内を見たかったが、人が多すぎてあきらめ、その書籍を買って出ようとした。


 すると、出口に見たことがある女子が居た。あれは水崎さんの友達のバスケ部だな。確か山口さんだっけ。誰か友達と来ているようだ。


 俺が近づくと、山口さんは俺に気がついたようだ。俺は軽く会釈した。すると山口さんは焦ったように友達に「あ、私、先に帰るね。じゃあ!」と言って、慌てて出て行ってしまった。俺、そんなに怖がられてるのか……


 そして、その友達が振り返って俺を見た。この子も俺を見て怖がってる。

 いや、驚いてるな。ん? どこかで見たような……

 丸眼鏡にベレー帽。すごく可愛い……。え!?


「み、水崎さん!?」


 私服だから当たり前だが、いつもと全く格好が違う。淡いベージュのロングスカートに白いシャツ。丸眼鏡にベレー帽でここまで違う印象になるのか。


「長月君……えっと……」


「全然分からなかった。普段、眼鏡なの?」


「う、うん。あのね……」


「すみません、出口に立ち止まらないでくれますか」


 店員に注意されてしまった。


「あ、すみません……水崎さん。ちょっと移動しようか」


「う、うん」


 俺と水崎さんは店の外のアーケードに出た。せっかくなので、どこかカフェにでも行きたい。地下にある老舗の喫茶店に入ることにした。席に着き、2人でコーヒーを頼む。


「いや、見違えたよ……」


 俺は言った。


「……変だよね」


「いや、変じゃないよ、むしろ……」


「何?」


「すごく、かわいい」


「!!」


 俺は見ほれてしまった。はっきり言って、俺好みだ。こういう地味っぽいけど可愛いのが俺のタイプ。でも、なかなか理想的な子はいない。だが、今日の水崎さんは俺の理想そのものだった。


「そ、そうなんだ……」


「うん。できれば写真撮っても――」


「だ、だめ! クラスの人には見られたくないし……でも、そんなにこの格好好きなの?」


「うん」


 俺はじっくり彼女を見てしまう。


「じゃあ、こういう格好してくるから2人で会う?」


「いいの?」


「まあ、いいけど……」


「是非頼む」


 俺は頭を下げた。


「やめてよ……なんかいつもの長月君と違う……」


「そ、そうか。あまりにかわいいのでつい……」


「そ、そうなんだ……嬉しいけど照れる……」


「普段はそういう格好なのか? 眼鏡とか」


「うん。学校ではコンタクトだけど眼鏡の方が楽だから」


「そうか。アニメとか漫画とか、水崎さんも好きなんだ」


「う、うん。ちょっとね……」


「そうなんだ。そういう話、してなかったよな?」


「葉子はそういう趣味無いし。だから、あんまりそういう話はしないようにしてるんだ。学校では山口さんとだけ、そういう話してるかな」


「そういえば、さっき居たな」


「うん。オタ友」


 なるほど、そういう関係だったのか。


「長月君は?」


「俺は軽く見る程度だな。今日は漫画を買いに来たんだ」


 俺は袋から買った漫画を見せた。『放課後ていぼう日誌』の最新刊だ。


「あ、それか。私もアニメは見てるよ。面白いよね」


「うん。舞台となっている芦北あしきたは八代からは近いからね。親近感あるよ」


「うんうん」


「水崎さんも何か買ったのか?」


「え!? うーん、少しね……」


「へぇー、何?」


「内緒」


「え?」


「こういうの男子に見せるの恥ずかしいし……」


「あ、そっち系?」


「え!? ち、違うから!」


 水崎さんが赤くなっている。水崎さん、そっち系の趣味があるのかなと思ったけどさすがに違うのか。


「男性アイドルのアニメのやつだから」


「あー……」


 そういうのが好きだったのか。

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